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異変

仕事出発前に時間ができましたので第19話投稿します。

今週末まではどうもインターネット環境はありそうですので、時間でき次第投稿しようと思います。

今回は少し長めにしてみました。

交信を終えた数時間後、潜水艦は浮上した。その頃には空母とその護衛を除く、ほとんどの艦艇がソナーで捉えた潜水艦をトレースしており、その浮上点付近に蝟集していた。「みこもと」はその蝟集した艦艇の中心部にあった。潜水艦の動力装置が異常をきたしていたため、タンクブローのみで浮上した事で、必然的に「みこもと」至近に浮上する事になったからであった。

「いや、何とも壮観ですなぁ。これだけの米艦艇に囲まれるってのは、あまり有ることじゃないですからね。」

船長の山下はブリッジで潜水艦の浮上を見守っている吉村に言った。

「ええ、全く同感ですねぇ。ちょっとした観艦式なみの数ですから・・・」

現在、「みこもと」は事後作業の真っ最中である。使用した潜水艇、観測機器の一次メンテ作業、ケーブル等の巻き取り、などの片付け作業と、生物学的に重要な意味を持つと思われる、高粘度海水および浮遊生物の調査を、主に音響観測機材を使って行っていた。潜水艦はセイルだけを水面に出して「みこもと」から300mほどの処に浮上している。

その時だった。3隻の駆逐艦の後部甲板がにわかに慌ただしくなり、数分後、3機のヘリコプターが離艦したのだ。そしてその直後、「みこもと」船橋のVHF通信機から米軍艦艇からの通信が流れ出した。

「こちらは第7艦隊駆逐艦「ステザム」、現在使用中の音響観測装置の即時停止を要請する。」

山下船長がこれに応答した。

「こちらは観測船「みこもと」船長、山下です。要請は了解。差し支えなければ理由をお聞かせ願いたい。」

「こちらは駆逐艦「ステザム」艦長、ダラク中佐。「ニミッツ」搭載機がこの海域で潜水艦を探知した。現在、当艦を含む3隻が対策担任艦に指定された。貴船のソナー発信が探知の障害になり得るため、停止を要請する。」

「了解した。直ちに発信停止措置を執る。以上。」

「感謝する。「ステザム」通信終わり。」

「吉村さん、聞いたとおりです。一時的なものとは思いますが、音響観測の停止をお願いします。」

すでに吉村は音響観測室への電話を繋いでいた。

「黒岩、音響観測即座に中止だ。他国の潜水艦が居るらしい。ああ、そうだ。宜しく頼む。」

1分と掛からず、「みこもと」からの音響発信は停止した。しかし、水中聴音機は生きていた。

船橋で船長と吉村が米艦の慌ただしい動きを見守っていたとき、突然船橋の電話が鳴った。

「はい、ブリッジ。吉村さん、音響観測室からです。」

「すみません、船長。吉村だ、どうした?」

「黒岩です。本船から方位220度方向、えらい騒々しい潜水艦が居ます。距離は「金魚」流さないと判りませんが、音響レベルの変化からいって接近しています。深さは現在の温度跳躍層より上ですから、250m前後と思います。」

「了解。一応米軍には連絡しておく。」

「船長、方位220度方向に潜水艦発見。距離は不明、深度およそ250m。先ほどの駆逐艦に連絡願います。」

「了解。駆逐艦「ステザム」、こちら「みこもと」オーヴァー」

「こちら「ステザム」何かあったか、「みこもと」」

「こちら「みこもと」船長。本船水中聴音機にて、潜水艦と思われる目標探知。方位本船から220度、距離不明、深度おおよそ250m。」

「「ステザム」了解。ご協力に感謝する。以上。」

「「みこもと」以上。」

すでに離陸していたヘリが「みこもと」から220度方向へ集まり始めていた。

船橋には米海軍からの派遣士官も登ってきていた。

「吉村サン、どうしました。」

「ああ、「ニミッツ」の搭載機が潜水艦を発見した。「ステザム」以下3隻が対策担任に指定され、動き始めてる。本船水中聴音機でも捕捉した。220度深度250だ。」

「ああ、それで。しかし本船聴音機なかなか優秀デスね。」

「そりゃ、海中生物や海底変動の音を聞けるように作られてるんだ。騒々しい潜水艦なんぞ、それから比べたら、楽隊が来たようなもんだ。」

「それじゃワタシの仕事無くなるから、困りマス。」

「別にうちの水中聴音機は隠しては居ないよ。全部市販部品で構成されてるしね。」

その時、また船橋の電話が鳴った。

「ブリッジ。吉村さん、音響観測室からです。」

「船長すみません。吉村だ。何か判ったのか?」

「黒岩です。どうも潜水艦がもう1隻居るようなんですが。」

「なんだ、もう1隻ってのは?別の音響が聞こえるって事なのか。」

「ええ、310度方向から別の潜水艦らしき音が聞こえます。」

「もう少し正確に判らんか?」

「固定聴音機じゃこれが精一杯ですね。「金魚」を流せば、もう少し判ると思いますが。」

「パッシブだけなら問題にならんと思うから、出してみるか。」

「了解。山崎を後部に向かわせます。一応そちらから船の方への依頼お願いします。」

「判った。船長、忙しくして申し訳ありませんが、「金魚」を出したいのですが。」

「ああ、そうくると思ってました。もう作業員は他の作業を終わってますから使ってもらって構いませんよ。こちらからチョッサーに連絡しておきます。」

「すみません。なんか黒岩がもう1隻潜水艦が居るようだと言うんですよ。」

「ああ、そりゃ本当なら大変だ。作業急がせましょう。」

「お願いします。ジョーブ中佐、艦隊への連絡をお願いできますか。」

「判りました。「みこもと」の探知レベルは思ったより優秀なんで艦隊も助かると思いマス。」

「それじゃお願いします。私は電話に張り付いて観測室と繋いでおきますから。」

船尾からケーブルに繋がれた「金魚」を下ろす作業は手慣れた作業員総出だった事もあり、あっという間に終了した。

「黒岩、どうだ、何か聞こえるか?」

「ええ、やっぱり潜水艦だと思います。方位311度、距離は余り精度良くないですが、8海里+/-0.5海里、深さ312mです。かなり静かですね、こっちは。」

「判った。中佐、方位311度、距離約8海里、深さ312mに潜水艦らしき音響。」

「了解。」

中佐が艦隊に連絡をすると、先ほど離陸した3機のうちの1機が311度方向に向かった。220度の目標はすでに捕捉しているらしかった。

「中佐、一体どこの潜水艦だろう?」吉村はジョーブ中佐に聞いた。

「220度のは多分、中国でしょう。相当に騒がしいようですから。311度のはロシアの新鋭原潜じゃないかと思いマス。」

「なるほどねぇ・・・第7艦隊の艦艇総ざらえだもの、興味はあるだろうわな。しかし、例の潜水艦はもう浮上してるし、動力は動いてないから、潜水艦じゃデーターは取れませんがな。ん?まてよ、するとこの船が参加しているのを知られない方が良いのか。」

「そうですネ。「みこもと」の能力は公開されてますから、第7艦隊がそんな深いところで、何シテルって事になりますね。」

「う〜む・・・」

「音響観測室か、黒岩頼む。」

「黒岩です。」

「おい、この船はかなり静かだったよな。特に「金魚曳き」の速度だと。」

「ええ、航走音がうるさいと観測の邪魔になりますから。」

「仮に相手が潜水艦だった場合、どのくらいの距離で探知できる?」

「さぁ、潜水艦の機器には詳しくないんで、よく判りませんが、海自の知り合いは1海里くらいかな、と言ってましたが。」

「おう、ありがと。」

「ジョーブ中佐、海自の潜水艦で1海里程度の探知距離らしいですが、どうなんでしょうね。」

「オオ、JMSDFが1海里なら、今探知された潜水艦は、船の真下でも「みこもと」を探知できないと思いマス。」

「それなら少しは安心できそうだな。」

その時だった。黒岩が船内放送で吉村を呼び出した。

「吉村主任、至急音響観測室へ。」

まだ放送が終わらないうちに吉村はブリッジを飛び出した。

音響観測室では黒岩が真剣な顔でヘッドセットに全感覚を集中していた。

「どうした。何があった黒岩。」

「ああ、吉村さん、実は220度の潜水艦の航走音が消えました。弱いドーンという音の直後、推進器が止まったみたいです。騒々しいほどの音をまき散らしていたんですが、突然消えました。」

「消えた?!、消えたってのはどういうことだ?」

「推進器の回転が止まった事は確実です。それと同時に多分原子炉への冷却水循環ポンプも止まったと思います。つまり、突然、動力音が消えたって事です。」

「と言うことは、潜水艦はどうなるんだ?」

「どういう浮力状態だったかによりますね。沈むか、浮くかのどちらかです。動力を失ったように見えますので、流体力学的平衡は失われていると思われますから。」

「それ、聴音で判るか。」

「今聞いてますが、もうほとんど音がしません。”金魚”曳いてですから、かなり難しいですね。」

突然、音響モニターから、ゴーンという、軍用アクティブソナー特有の低周波音が鳴り響いた。ヘッドセットを外して肩に掛けていた黒岩は胸をなで下ろした。ヘッドセットを耳に付けていたら、ただでは済まなかったろう。

「アクティブ・ピンです。」

「米海軍も動力音が消えたのはモニターしていたんだな。上に行ってジョーブ中佐と話して来る。何かあったら上に連絡くれ。」

「了解。」

吉村はまたブリッジに引き返した。

「中佐、今、音響観測室で誰かがアクティブ・ピンを打ったのを聞きましたが、何か情報はありますか?」

「吉村サン、こちらには何も知らされていませんヨ。」

「実は220度方向の潜水艦の動力音が突然消えまして、それで私が呼ばれたのですが、推進音と同時に冷却水ポンプの音も消えまして、”金魚”の聴音装置でも突然消えた状態なりました。」

「ナルホド。それでアクティブ・ピンを打ったわけですか。この辺は普通のVHFではマズイですネ。隊内通信で聞いてみましょう。」

中佐はすでにブリッジに仮設置済みであった、秘話装置付きの軍用通信機端末に向かい、英語で交信を始めた。後に判明したことであったが、この時、ロシアのものと思われる航空機が周囲100海里の閉鎖圏内に接近していることが「ミニッツ」のAEWから報告されており、ジョーブ中佐はすでにこの情報を知らされていたため、軍用通信端末を用いて交信したのだった。

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