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「かいえん」

第17話です。

深海潜水艇「かいえん」が活躍します。

「かいえん」潜水作業支援のため、「みこもと」はダイナミック・ポジショニングに移行し、GPSデーターに基づいて、船を地球上の一点に数メートルの誤差で停止させた。デッキでは通信用のトランスデューサーを降ろす作業と、「かいえん」の進水作業が平行して行われているため、戦場のような有様だった。ほぼ潜水艦の直上と考えられる位置の上流側で停止している「みこもと」から3千mにも及ぶケーブルを繰り出し、ほぼ潜水艦の直上にトランスデューサーを位置させるには、緻密な計算と勘の高度な統合が必要だった。このような作業に山下船長は最適任だった。長年のサルベージ・ボート勤務が培った経験に勝るものは多くない。

「長野君、位置はどうかね。微調整必要かね。」

「あ、船長、いえ、どんぴしゃりです。このままなら潜水艦のセイルに届きますよ。」

「そりゃ結構。それじゃこのまま続行でいいですね。」

「はい、お願いします。」

一方の「かいえん」は船尾ベイからガントリー・クレーンによって進水していた。電池の節約のため、潜入開始点である、潜水艦位置至近の境界面付近まではゾディアックに曳航されて向かっていた。切り離し式の浮力体と余分のバラストを外部に搭載したため抵抗が増え、曳航はゆっくりしたものにならざるを得なかった。しかし艇の内部では、そののんびりした曳航風景とは裏腹に、忙しく機器チェックを行う男たちがいた。

「艇長、動力系全て正常値です。動作試験良好。」

「おう、了解。通信系、音響、無線、問題なし。現時点ではデーター系も稼働できる。伝送速度9600bpsまではBER許容値以下。あとは潜ってからだな。ん、なんだ、一の瀬、顔色悪いぞ。」

「いえ、なんか船酔いしたみたいで・・・こんなに長く曳航されたのってあまり無いですから・・・」

「潜入するまでの辛抱だ。ちょっと休め。あと10分くらいのもんだろ。」

「ええ、まぁ大丈夫だと・・・・ウプッ・・・」

「あーあ、しようがねぇなぁ。こんな処で吐くんじゃねぇぞ。ハッチから頭出してろ。」

20分後、潜入開始点に到着したときには、ハッチから半身出した、死にかけたマグロが一匹・・・・・

「一の瀬、潜るぞ。頭引っ込めて、ハッチ閉めろ。」

「りょ、了解。ウプッ・・・ハッチ閉鎖、潜入用意よし。」

「潜入開始。深度10で浸水チェック。」

「了解、深度10で中性浮力、浸水チェック。」

「深度10、中性浮力よし、浸水なし。」

「潜入続行。1100まで一気に下るぞ。1100で各機能チェック。」

「了解。」

「ん、なんだ、潜入と同時に顔色がよくなってやがる。」

「ああ、やっぱり水中の方が良いなぁ。揺れない船ってのは作れないもんですかねぇ。」

「ったく、しょうがねぇやつだなぁ、お前は、ほんとに。」

艇内の騒ぎとは関係なく、「かいえん」は潜入を続けた。

「ただいま1000、中性浮力とします。」

「了解、1100で沈下停止、機能チェック。水の出し入れだけで沈下止めてみせろよ。スラスターは使わんからな。」

「任せてください。1090、1100沈降速度ゼロ。」

「よくやった。電力系チェック。」

「充電97%、燃料電池出力10%、電力系異常なし。」

「スラスター4基異常なし、推進系チェック。」

「水密チェック異常なし、艇環境は問題ありません。」

「おう、それじゃ通信系チェック。音声は継続して通信ができてるから省略、データー系で本船と繋いでみてくれ。」

「了解。本船サーバーに接続、異常なし。」

「よし。それじゃ観測系チェック。」

「マニピュレーター動力チェック、動作正常。CCDカメラモニターに出します。フラッドライト点灯。」

「うん、問題ない。それじゃ目的深度まで一気に行くぞ。」

「了解。低光量カメラの映像だけ、モニターに出しておきます。」


「かいえん」は順調に潜入を続け、海底から5mの深度で垂下させておいたテザーが海底に接触、下降速度を相殺するために自動制御になっていた推進装置が動作した。

下降速度がゼロとなった時点でテザーを切り離し、中性浮力に再度調整した「かいえん」は横移動を開始した。

「さーて、高粘度海水域とやらに突っ込むぞ。比重が違うらしいから、浮力調整は気合い入れていけよ。」

「了解。一発で決めてみせますよ。」

「かいえん」は1.5ノットの速度で高粘度海水域に進入した。急激な粘性抵抗の増加でスラスターが一瞬過負荷になったが、即座に自動制御により適切な負荷状態に調整された。浮力調整は問題なかった。海水粘度が高いため、艇は緩慢な動きしか出来なかったからだ。しかし中性浮力とすることもまた難しかった。長崎は動きが緩慢であることから、厳密な中性浮力を求めることなく、前進を開始した。25分後、それはフラッドライトの中に現れた。

「一の瀬、モニター見て見ろ。」

「は、はい、あ、見つけましたね。」

「おお、見つけたよ。さてと、バスケットのモンキースパナは健在か?」

「すぐ準備します。」

一の瀬は、バスケットのモンキースパナをマニピュレーターで掴み、取り出した。

「それじゃ、後部ハッチ近くに持って行くから叩いて見ろ。」

長崎は後部ハッチへ接近すると、マニピュレーターの届く距離を保って艇を静止させた。

「ほれ、叩け。」

一の瀬は器用にマニピュレーターを操り、ハッチを叩き始めた。最新型潜水艦だけあって、遮音がしっかりしているため、海中ではあまり大きな音に聞こえない。15〜6回叩いた頃だった。

「艇長、何か聞こえませんか?」

「おう、ちょっと待て、水中マイクを切り替える。」

水中マイクを超音波通信用から、海中音響採取用のものに切り替えると、今度ははっきり聞こえた。

「返信して見ろ。」

「了解」

相手の音響が止むのをまって、また叩くと、今度はすぐに返答があった。

長崎と一の瀬は、英文モールスで簡単な質問を叩いた。短点は叩いた後スパナをハッチに押しつける。長音はすぐに離す事で可能だ。しかし、ゆっくりしたモールスなので、あまり複雑な質問はできない。それでもかなりな事が判明した。

それによれば、

潜水艦内は問題ない。独立回路の艦内空気循環系は正常に働いている。

動力は原子炉がスクラムした。現在、再臨界前のルーチン点検中。

配電盤がほとんど全て焼損しているため、遠隔操作ができない。

電力は非常用バッテリーで賄っているが、もうすぐ限界になる。

乗員は負傷者数名の他は無事。空気は原子炉が動けば問題なくなる。

動力装置はメインの電動機が焼損したかも知れない。

メインタンクのベント弁が故障している。

現在水中電話を復旧させるべく努力中。

などが判明した。すでに潜水艦近くまで下ろすことに成功していた「ドリイ」のケーブルに繋がった「金魚」を用いて、この情報を「みこもと」に送ると、米海軍のメンバーは大騒ぎとなった。すでに遭難してから2週間近くが経過しているにもかかわらず、全員が無事という知らせなのだから、無理もない事だった。

「かいえん」は一旦この深度を離れ浮上することとなった。次の潜水には米海軍の要員が同行するためだ。高粘度海水の中をゆっくり浮上した「かいえん」は、不連続面を通過すると、通常の浮上速度で海面に向かった。

多分、日曜日に次の投稿が可能だと思いますが、来週はちょっと本業の都合が判りません。火曜日は確定ですが、それ以外の日がどうなるのか、まだ不明です。すみません。来週1週間、投稿不可になるやもしれません。

宜しくお願いします。

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