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接触

第16話です。明日以降週末以外、時間が取れなくなるかも知れません。更新が遅れるかもしれませんので、先にお断り致して起きます。申し訳ありません。それでは続きをどうぞ。

「お、早いな。すぐ上がる。それじゃ長崎さん、後よろしくお願いします。」

吉村が観測室に上がるのを待って。長野はメインスクリーンに2次解析の終了した6枚の映像を分割表示させた。

「最初の3枚には規則的に交差する線が写っています。米海軍オブザーバーによれば、遮音タイルの継ぎ目ではないか、という事です。また5枚目の写真を見てください。はっきりしませんが、何か構造物のように見えます。コントラストを強調し、輪郭線だけを抜き出したものがこれです」長野は5枚目の写真を拡大し、それに輪郭線を重ねた。

声を上げたのは米海軍の連中だった。チャンが同時通訳をする。

「うゎ、これ、非公式に出た想像図のセイルそのものじゃないか。」

二世代ほど前のロシア潜水艦のそれに似た、流線型のセイルを斜め後ろから写したらこう写るだろう、という形がそこには現れていた。

「では、最後に決定的と思われる写真です。」

長野が表示した写真は最初の6枚とは違うものだった。

「これは番号で言えば12枚目になります。よく見てもらうと判りますが、中央左下に何か黄色いものが小さく見えます。拡大したものがこれです。」

黄色のしみのような部分を拡大したものがスクリーンに映し出されると、観測室に集合した面々からどよめきが起きた。それは、黄色の円の中に書かれた赤い文字だった。拡大しているため、文字の輪郭がぼやけ、判読は難しいが、それが何かの注意書きであろうことは、誰の目にも明らかだった。

「判った。長野君ご苦労さんでした。チャンさん、米海軍のメンバーもこれに疑問は無いと思いますが?」

「はい。彼らももう間違いない、と言っています。至急、『ニミッツ』に連絡して、この海域に艦艇を集結させたいそうです。」

「了解した。どれでも可能な手段で連絡してもらってかまわないと伝えてください。ただし、『かいえん』を使う場合の指揮権は譲らないと伝えてください。その他要望があればできる限りの協力は惜しみません。」

そういいながら、ブリッジ直通電話で船長を呼び出した。

「吉村さん、写真はどうでした。」

「船長、たびたびすみません。米軍の連中が通信機を使用したいそうです。どれでも彼らの希望するものを使わせてやっていただけますか。写真は決定的でした。」

「そりゃ、大変だ・・・通信機は問題ないです。短波でもインマルでも好きなものを使って結構です。」

「すみません。すぐに行かせます。」

吉村の言葉が終わらないうちに、二人の米海軍オブザーバーは駆け足でブリッジに向かった。

「さてと、米軍はこれで良いとして、問題は『かいえん』を潜らせて何をするのかだが・・・」

「基本的に言えば、生存者の確認、生存者が確認できれば通信の確保、この二つが最優先だろうな。救助の具体的手段は状況が把握できてから、ということだろう。」

潜行準備作業をペアの一の瀬に任せて、観測室に顔を出していた「かいえん」艇長の長崎が自らの作業の優先順位の確認も兼ねて発言した。

「しかし、吉村さん、この潜水艦が我々が遭遇したのと同じ状況だとしたら、一般的な通信手段は全滅、ってこともありえますよ。」

「ああ、津田君の言う通りだろうな。さりとて、3千mの海底で、スパナで船体を叩くわけにもゆかん。頭の痛い状況だな、こりゃ。」

「いや、そのスパナで叩くっての、できるかも知れんぞ。誰か艇まで行って、一の瀬を呼んで来てくれんかな。」

長崎に呼ばれた一の瀬は、自分がなんで呼ばれたのか判らないまま観測室に現れた。

「おい、一の瀬、お前、マニピュレーターでサンバのリズム叩けるって自慢してたよなぁ。それ、水深3千mでもできるか?」

「い、いきなり何ですか、長崎さん。あれは例えの話ですよ。まぁ、出来ないって訳でもないですけど・・・・そ、その3千mって何の話です?」

「いやな、なんで『かいえん』が潜るか判ってるだろ。で、多分、他の通信手段は死んでるだろうから、船体をぶん殴って、生存者の確認をしようってわけだ。できるよな?」

「ああ、そういう事ですか。水深3千で、しっかり音が伝わるほど船体を叩こうってなら、かなり重いものでないとだめですから、サンバのリズムは無理だと・・・」

「バカ、通信できりゃ良いんだから、サンバのリズムは忘れろ。ともかく、船体を何か重いものでぶん殴るのは可能だよな。」

「ああ、そりゃ可能です。『かいえん』のマニピュレーターは空気中でも20Kg程度の重量を扱えますから、水中ならそれで船体叩くのはできますよ。」

「おし、ほんじゃ、工具バスケットに大モンキー突っ込んどけ。それでぶっ叩く。」

「ハンマーの方が良いんじゃ・・・・」

「馬鹿やろ、潜水艦殴るのはモンキーって決まってるんだ。おまい、映画も見てないのかよ。」

「・・・・・・」

「まぁ、通信手段は確保できたわけだが・・・・・」吉村が吹き出しそうになるのをこらえながら先を続けた。

「さて、高粘度海水域だが、ちょうどいい、長崎さんどう思います。『かいえん』は潜入できると思いますか。」

「そりゃ、『DORII』が行けたんだから、『かいえん』だって行けるだろ。それに『DORII』は上昇流の中を下ったが、今度は高粘度水域の辺縁を目的深度まで下って、横移動で行って見ようと思う。高粘度域に入ったところで、浮力調整さえ決まれば、あとは横移動のエネルギーだけだし、浮力調整もこっちは『DORII』より大きいから、何とかなると思う。距離的には近いしな。」

「ま、長崎さんがそういうなら、お任せします。ところで、長野君、『かいえん』との通信はどうするのかね。」

「ええ、青緑レーザーでは自殺行為でしょうから、音響だけになりますが、それだと不連続面を越えられない。で、考えたのですが、『DORII』が曳いたケーブルがありましたよね。あれにトランスデューサーを付けて不連続面の下へ下ろしたらどうかと。『DORII』のときの音響観測では、内部に別の不連続面は無いようですから、データーは無理でも、音声通信は行けるんじゃないかと思うのですが。」

「お、そりゃ良いアイディアだ。早速用意できるかね。」

「あ、すでに準備はしておきました。『金魚』に使っているトランスデューサーの予備がありましたから、それにウェイトを抱かせて、できれば不連続面から100m程度は下まで行きたいと・・・」

「なんと、いつもの長野と違って随分手回しが良いじゃないか。それじゃ、先にそれを下ろそう。サイドデッキのクレーンで扱える重さだろ。」

「はい。100Kg程度ですから十分扱えます。巻き上げも『DORII』のラインローラーが空いてますから、それを使います。」

「うん、すぐ掛かってくれ。それじゃ長崎さん、『かいえん』お願いします。準備でき次第、すぐに潜行作業に入っていただいてかまいません。ただし安全だけには十二分に注意を願います。」

「了解。一の瀬行くぞ。ほれ。」

長崎はまだ状況が飲み込めていない様子の一の瀬を引き連れ、風を巻いて「かいえん」に向かった。

「さてと、『かいえん』は長崎御大に任せるとして、米軍の方はどうなんだね。チャンさん。」

「現在、『ニミッツ』基幹の第57任務群が集結中です。ただし空母は航空機運用のため、走り回る必要があるので、こちらには接近しないとのことです。群司令官は『ブルーリッジ』に座乗してこちらに向かいつつあります。早期警戒機と駆逐艦で海域を半径100海里に渉って閉鎖するそうです。『みこもと』の作業に一切の邪魔はさせない、と司令官自らが命じたそうです。」

「なんとも、ありがたいことで・・・いつでもそうなら感謝もするんだが・・・・・まぁ、皮肉は置いといて、本船に通信機材を設置するなら、私の責任で船長に許可をとります。自由に設置してもらってかまいません。ただし、『かいえん』を運用するとなると、割ける人手は皆無と言っていいので、要員は米軍の方から派遣願いたい。10名程度なら研究員部屋が空いてるんで、そこに受け入れられる。『かいえん』への便乗は第二回潜水以降受け入れます。初回は未知の要素が多すぎる。慣れた二人に道を開いてもらってからでも遅くないでしょう。」

「米軍側はそれで了解しています。あと、『かいえん』のペイロードについて質問が来てます。どうも第2回潜水以降、何らかの機器を持ち込みたいようです。」

「『かいえん』のペイロードは公表されたものが、掛け値なしの数値です。そのように伝えてください。それから持ち込む機器が爆発物などを含むような場合や、電力の消費が大きい場合などは事前に打ち合わせしたいですね。」

「了解しました。そう伝えます。米海軍からは、現在の進捗状況に大変満足しており、感謝に堪えない、という謝辞を戴いておりますので、ご報告しておきます。」

「ああ、それは素直に受け取っておきましょう。それでは『かいえん』の支援体制に入りましょう。」

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