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探査

第12話です。「ドリイ」という深海探査ロボットが登場します。

 例の二人の処遇を衛星電話で滝川に依頼した吉村は、再度招集された対策会に顔を出した。今回は始めから米海軍のメンバーも参加していた。

「とんだ邪魔が入ったがミーティングを再会する。これまでに判っているのは、遭難した潜水艦とこの生物に関連があるかもしれない、という処までだが、ここまでで何か質問はあるか?無いようなら、もう少し米海軍の方から説明を頂きたい。チャンさんお願いします。」

ずっと米海軍士官たちと話し合っていたチャンが彼らに代わって説明をおこなった。

「米海軍としての意見は、遭難した潜水艦の細部仕様は不明であるが、これまでの非公式情報から推して影響を受けた可能性があります。我々の任務がこの艦の救難であるかぎり、非公式な情報といえど無視はできない。これが第7艦隊司令部と連絡を取った後の公式見解と考えて頂きたい、とのことです。もう一点、ソナー信号の異常が見られる点から、最後に判明している位置までの逆シミュレーションをしたい。ついては、本船メインコンピューターの使用を許可されたい。さらに津田さん、長野さんに協力を願いたい。公式な要請と受け取ってもらって構わないという事です。以上です。」

「了解した。観測用メインコンピューターについては私の権限で無制限な使用を許可します。津田君、長野君、それからソナー担当として山崎君も参加してくれ。それと、時間は無いと思ってくれ。細部に渉っての解析は必要ない。蓋然性が証明できた時点で、異常海域の捜索に入る。それではかかってくれたまえ。」

こういう状況での吉村の指揮能力は群を抜いていた。普段の「オジさん」からは想像もできない状況把握能力と決断力を垣間見せていた。

 分析とシミュレーションは1時間もせずに終わった。シミュレーションすら必要なかった。横須賀経由で入手した次回位置通報点の座標が滝川から送られて来たことで、単純に海図上に線を引く作業だけでも判る蓋然性、最終位置判明点から次回位置通報点まで引いた直線上に現在位置があったからだった。

 「みこもと」船上では遠隔観測担当の田中が「DORII」の準備に追われていた。

「田中君、もう発進できそうか?」

「あ、吉村さん。あと15分くらいです。今回はケーブルを引くんで、操縦特性の設定が厄介でして。」

「『みずなぎ』の状況を考えれば、いくら利口な「DORII」とはいえ、自律制御はちと無理がある。音響もレーザーもだめ、となればケーブル引くしか無いからなぁ。」

「はぁ、それは判ってます。別にケーブル引いた事がないわけじゃありませんから、その辺に問題はありません。問題なのは「DORII」自身が進歩しちゃって、昔のデーターじゃ不足がある事でして・・・・」

「あー、なるほどね。こいつは頭がいいからなぁ。ケーブル引いたのはほんの初期だから、今のこいつにしてみれば、高校生に小学一年レベルの計算で行動を規定しろ、っていってるようなもんか・・・」

「そういうことです。足りない分は人間が補うしか無いけれど、最近じゃこいつ僕より頭が良いみたいで・・・・」

「頭の良い恋人だと思えばいいんじゃないか?便利だぞ、そういうのって。」

「時間が無くてまだ本物の恋人も居ないのに、そりゃ酷なお言葉・・・」

「まぁ、腐らずにしっかり準備しておくれ。」

「了解・・・グスン。」

まったくはた迷惑な吉村ではあったが、準備は怠り無く進み、「DORII」は海中深くその姿を沈めた。

 吉村が観測室に戻ってみると、すでに操作担当の田中、村上だけでなく、観測メンバーのほとんどが顔を揃えていた。

「田中君、どう、順調?」

「ええ、いままでの処問題はありません。例の生物は極力避けて潜らせますが、向こうが動いたらケーブル引いて機動性が落ちてますから、避けるのは難しいと思いますが・・」

「ま、そりゃ仕方が無い。ケーブル切り離しても自分で浮上はできるんだろ?」

「はい。それは問題ありません。こちらから切り離しても、不測の事態でケーブルが切れても、自動で浮上します。もし、浮上経路に障害があるようならば、それを避けて浮上も可能なようにプログラムしてあります。」

「200m通過。」

制御担当の村上が緊張を孕んだ声で深度を読み上げた。CCDカメラは動作していたが、照明は落としてあるため、スクリーンは漆黒のままであった。

「400m通過。」

「そろそろ、例の生物が視野に入るんじゃないか。」

緊張を破ったのは生物学の村木だった。

「それじゃカメラを振ってみましょう。照明は無使用。」

画面、かなり遠くに発光が見えた。

「ソナーでの距離は約300m。」

「近づいているのか?」

ソナー映像を今は担当している長野に吉村は聞いた。

「いえ、目立った動きはありません。相変わらず中層流の流れに任せて動いています。」

「ならこちらが上流側だから問題無い。変化があれば即座に警告してくれ。それでは続行。」

「DORII」は水深2000mで搭載されている音響測深儀を動作させた。その画像は観測室に表示された。

「250mほど下に疑似海底みたいな反応が出てます。非常に微弱。」

音響観測担当の山崎が緊張した声で報告した。

「これが、例のドーム状になった異常部の始まりと考えていいのかな?」

「はい、吉村さん。本船ソナー映像で読み取れる限り、そう考えて良いと思います。」

長野が「DORII」の音響測深データーを取り込みながら答えた。

「長野君、海水のデーターをどっかのスクリーンに出してくれるか?」

「メインスクリーンにオーバーラップさせます。」

海水の塩分濃度、温度などがメインスクリーンの端に表示された。

「現状、それほど異常とは思えんなぁ・・・」

「吉村さん、比重を見てください。あの怪物付近では比重が大きくなっていた。」

「長野君比重は出せるの?」

「はい。今出しました。」

明らかに通常の海水よりも比重が大きくなっていた。

「やっぱり。しかし、温度はあまり変化が無いのに比重だけが大きくなるのか?海水物性としてはどうなのかね、望月君。」

「火山性の熱水チムニー付近で重金属が多量に存在する事で比重が大きくなるケースはありますが、透明度に変化があまり無いのが不思議です。普通は濁ると思うんですが・・それと海水粘度にも変化があると思うのですが、これだけはサンプルを分析しないと・・・」

「諸君、このまま異常水域へ潜入するが問題は無いか?」

「異常水域での海水比重が不明ですから、一旦異常水域手前で停止して比重測定行う方が良いかと思います。浮力調整が崩れかねません。」

「その方が安全だろうな。田中君、ではそのタイミングは任せた。よろしく頼む。他に何かあるか?」

「生物学的調査が可能ですか。」

「村木君、残念だが今回は無理だ。海水サンプルだけは持ち帰るつもりだから、それで我慢してくれ。本潜水の第一義は遭難潜水艦の発見だ。ほかに意見はないかな?それじゃドリイを異常水域に入れてくれ、田中君。」

「了解」

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