異常2
少し短いですが第10話です。
野瀬は作業中の「みずなぎ」に近寄ると、観測窓を叩いて内部のコンソールで作業中の津田を呼び出した。
「なんでしょう、艇長。あ、吉村さん、どうも。」
「ポッドの選択はこっちでやってくれって事だ。おまえさんに任せる。以上だ。」
「あ、あの、任せるっても、私ら観測要員じゃないんで、持ってるのは水中高速データー通信ポッドだけですけど・・・」
「あー、それ搭載しといてくれ。後は海洋学の望月君が来るらしいから、彼と相談して巧くやってくれ。」
「ふぇー、また仕事が増えるんですかぁ・・・今回は海が深いからうちら出番なしって聴いてたのに・・・・」
「恨むなら吉村さんを恨め。それじゃ頼んだぞ。操縦特性の設定はいつも通りでいいから、少し手が抜けるだろ。優しい艇長を持った事に感謝するんだぞ。」
「手が抜けるって、それでなくてもややっこしいんですけど・・・ったく・・・」
「ほら、あと30分で着水作業だからな。しっかり働け。」
「ほんと、人使いが荒いんだから、もう。えーえー、判りました、やりますよ、やればいいんでしょ。艇長こそ着水に遅れないで下さいよ。」
このコンビの準備作業は毎度のこと、爆笑漫才顔負けのやりとりの連続だったが、「みこもと」船内、いや海洋調査機構内でもっとも経験と信頼がおけるコンビだった。二人とも「みずなぎ」の開発段階から関わっており、特に津田は「みずなぎ」の制御部に関しては設計者よりも詳しいと言われていた。
30分後、「みずなぎ」は着水し、すぐに潜航に移った。問題のポッドは海洋学から青緑レーザー海水物性観測ポッドが搭載された。これはその測定の都合から機器露出型だったが、耐水圧は「みずなぎ」本体より大きかった。
吉村は「みずなぎ」の発進を最後まで見送ったが、なぜかあまり楽観的になれない自分を発見して驚いていた。
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