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孤児院のナテア  作者: 亜矢
第1章
12/27

秘密の言葉

 ナテアは背後の気配に気づいて振り仰ぐ。その時にはすでに腕を伸ばせば相手に届くほどの距離であった。

 一歩、ナテアより先に相手の足が踏み出でる。

 驚きと、それを上回る動揺でナテアは逃げるどころか動くこともできない。出来ることは伸ばされる手に焦点を当てながらもただぱくぱくと口をあけることだけだった。

「――ナテア!」

 孤児院を囲む牧草地に大きく声が響く。声は広々とした空の下ではすぐに拡散され、空へ森へ土へと散らばっていく。――しかしその声は、固まったままのナテアを動かすには十分だった。


 聞き慣れた声がナテアの耳に届いた。

 膝をつき、しゃがんだ状態から少しだけ足に力を加える。

 ナテアが後方へ飛び退くのと、腕を伸ばしていた相手の手が空を切るのはほんの数秒差だった。

「……っち」

 黒マントの下から発せられた音はナテアよりも随分と低い男性のもの。ナテアに向けられているものは決して味方といえるような気配ではない。

 ナテアは警戒心を隠さずにぎろり、と睨み上げる。もし相手がはっきりと強面であったり、筋肉隆々だと分かっていたならばこうはいかなかったかもしれない。姿が見えないことで逆に強気に出ることができたのだ。

 だが内心は強気というには程遠く、心臓がこれまでにないほどの速さで鳴っていた。

 

 これが自然の中だったならナテアの命はなかっただろう。広範囲に生息し、たくさんいる小動物より数は少ないが人間よりも素早く、獰猛である肉食獣が森の中にはいる。普通の人間ならばまず、出会った時点で逃げ切ることは難しい。森で狩りを行うナテアにとって、そういう意味で周囲を警戒することは非日常のことではなかった。

 ナテアは怯えを隠し、ぎりりと歯を噛む。背中を伝う汗とかすかに震える指先……それでもナテアの中に「逃げる」という考えは浮かんではこなかった。




「――この館にいる者は全員集めたのではないのか?」

 突然現れたナテアを見ながら言うのは、それまで院長と対話をしていた男だった。「――ナテア!」と声をあげた院長には目もくれず、自身の部下に問いかける。

「も、申し訳ありません! ここにいる者で全てだと――」

「まぁいい。あの娘も連れてこい。……他は誰も入れるな」

 男は部下の言葉を最後まで聞かずに次の命を出す。言葉の後半部分はまるで無言の圧力のようで、周囲に立っていた部下たちは小さく肩を揺らした。しかし男の命を聞くと、頷いた数人が素早く動き始める。

 その様子を無言で見届けた男は再び院長へと体を向けた。


「私はいいが、……子供たちやナテアに手を出すことは許さん」

 普段では絶対に見せない院長の唸り声に子供たちは肩を寄せ合う。そんな中、不安げに瞳を揺らすアベルをエルザが皺の多い、しかし温かい手でそっと撫でた。

 その他の年老いた大人たちが子供たちを慰めるように抱きしめる。理由も分からないまま、大人たちも院長の様子を不安げに見つめていた。

 怒りを隠さない院長に対して、男は余裕を表すかのように「っふ」と鼻を鳴らす。

 この、いかにも怪しい集団だが囲んでいるのは黒マントの男たちで、囲まれているのは孤児院のみんななのだ。加えて、囲まれている孤児院の人間は子供か、半世紀以上生きてきた大人たちがほとんどで、どちらが有利かは誰にでもわかる。

 

 この状況を打破するのなら、黒マント集団と同数またはそれ以上の自警団の人間が助けにくるのを待つか、もしくは自分たちで何とかするか、だ。

 いつ来るかわからない自警団を待つのは得策ではない。残るは、自分たちでなんとかする、だが、これも現実的ではなかった。

 院長を含めた孤児院の大人たちが考えを巡らせていると、その考えが分かるかのように男が小さく肩をすくめる。

「手を出すかどうかは返答による」

「だから先ほど答えたではないか!」

「……私らもむやみに子供たちを傷つけたくはない。貴様ほどの人間ならば、分かるだろう?」

 まとわりつくような、わざとらしい言い方に院長は眉を寄せる。

 黙り込んだ院長に、男はマントの隙間から不適な笑みを見せた。


 院長と男の会話が止み、その分だけ静かになる。

 震える子供の中には耐えきれずに声を殺しながら涙を流す子が何人もいた。 

「あっ」

「どうしたんだい?」

 頭を撫で、涙をふき、泣いている子供たちをあやしていたエルザがアベルを見る。

 息をのむような声を出したアベルは心配するエルザに反応することなく、何かを見つめていた。アベルもまた、他の子供たちと同じように怯えているものだと思われていたがどうやら違うようだ。

 今も、男と院長との間で沈黙は続いている。だがアベルが見ているのは緊張の空気をまとった2人ではなかった。

「だめ、だ……」

 掠れたような小さな声がアベルから出る。震える声にはかすかだが、なにかを訴える物が含まれていた。

 さすがにただの怯えではないと感じたエルザがアベルと同じ方向へ視線を向ける。年のせいで鮮明に捉えることはできなかったが、アベルの言葉の意味を悟った。

「やめろ、……やめろ!」

 そう声をあげるとアベルは突然立ち上がった。アベルの急な行動にエルザは驚くことしかできない。息を飲見込んでいるエルザの前でアベルは勢いよく土を蹴った。

「アベル!」

 アベルの行為に子供たちや大人たち、院長までもが驚きの声をあげる。エルザが名前を呼んだときにはすでにアベルは手の届かない場所へと行ってしまっていた。





「ちょっとなんなの、あなたたち」

 いつの間にか囲まれていたナテアは混乱しながらも四方を警戒する。囲んでいる相手である黒マントの男たちからも警戒心は感じるが、恐怖を感じることはなかった。

 それは捕まえなければならないのはたったひとりの娘だからだろう。子供、とは言えないがそれでも普通の少女を捕えるのは男たちにとって苦労ではない。剣――武器になりそうなものも目に付かない。

 余裕の姿を見せる男たちはその証に腰を低くして構えるナテアと異なりただ突っ立ったままだ。


「……大人しくしていれば怪我もせずに済む」

 そう言いながら男たちはじりじりと距離を縮める。

 ナテアは睨みつけるような視線を男たちに送る。それは小動物が威嚇のために毛を逆立てているよう。

 狩る側である肉食動物は精いっぱい威嚇する小動物を逃げられないように追いたてる。

 ぐるりと囲まれたナテアに逃げる道はない。表では虚勢をはっているナテアだが、実際はもう駄目かもしれないと口元を歪ませる。無意識に握り合わせた手の片方には昔、兄から渡された指輪がはめられていた。


「っや! 触らないで!」

 ナテアは男たちの1人に腕を掴まれる。掴まれた腕を取り戻すためにもう片方の腕でもがけば、その腕も捕えられる。

 背中に回り込まれ、男がナテアの両手首を腰の後ろで拘束する。男は片手でナテアの手首を掴み、もう片腕をナテアの首にまわした。

「暴れなければこれ以上のことはしない」

 ナテアを捕まえている男ではなく、周りに立つ男が言う。

「……こんなことをして。暴れないはずがないでしょ?!」

 体は身動きが取れないでいるナテアだが、口は自由なため様々な悪態を男たちにつく。同様に、ナテアはなんとか体を動かそうとするが、男はびくりともしない。

 歴然とした男女の力の差に愕然としながらも、逃げ出そうともがく体は止めなかった。

「離し、て」

「このっ、大人しく……」

 大人しくなるどころか、ナテアは拘束されたことで騒ぎだした。

 男は苛立たしげに舌を鳴らす。そしてなかなか思い通りにならないナテアにしびれを切らすと、首にまわしていた腕に力を加えた。

「うっ……! ぐ、ぐぅ」

 圧迫され、空気の通りの悪くなった首が小さく軋む。経験したことのない苦しみに、ナテアの瞳には生理的な涙が浮かんだ。

 体中の血がたぎったように熱い。

 空気を求め、口を開くが体の中に入っていかない。

 ナテアの体からは徐々に力が抜けていき、視界はかすんでいく。酸素の供給されない体は、男たちの言うようにナテアを大人しくさせた。


「おい、殺すなよ」

 同一の黒マントからは顔の表情を確認することはできない。しかしため息交じりの声からはあきれた様子がうかがえる。

「死んではないさ。ただ『大人しく』なっただけだ」

 男はそう言うと、浅い息のナテアを見下ろした。ナテアが大人しくなって時点で首にまわした腕の力は抜かれている。だが、まだ体中に血がいきわたっていないのだろう。布越しから伝わるのは暖かみを失くした小さな体の冷たい体温だけだった。

 無機質な言葉だったが、周囲の男たちにナテアを心配する素振りはない。時折、呆れたように息を吐く者はいたがそれはナテアではなく、その背後にいる仲間に向けられたものだった。

 

 吐く息は弱々しいが、ナテアは気を失ってはいなかった。

 首元にはまだ男の腕があるが、それはナテアを苦しめるというよりもバランスを保つためのようだ。

 ふらつく体はナテアを今の状況にした男に支えられており、男が手を離せばすぐにでも倒れてしまうだろう。


 ふと、視線を感じた。男たちからではない。

 ナテアは重たい瞼を開き、視線を彷徨わせる。ぼやけた視界にうつったのは今にも飛びだしそうなアベルの姿だった。


「やめろ!」

 叫びながら走り、向かってくるアベルにナテアの頭は瞬時に覚醒する。

「だめ――アベ、ルっ」

 男たちもアベルの姿に気づく。走り出したアベルを逃げ出したとでも思ったのか、数人がアベルの元へ向かった。

 すでに近くまで来ていたアベルは男たちによって簡単に捕まえられる。男たちの後ろでナテアは小さく声をあげた。

 じたばたと暴れるアベルは男の腕に抱えられる。

 それで大人しくなったと思われたが、次に声をあげたのはアベルを抱えた男だった。

「――っつ! このガキ……!」

 男はそう叫ぶと抱えていたアベルを投げ飛ばす。男の裾から出た手には滴り落ちる赤い血。

 ナテアは瞬きもせずに男の伸ばした腕の先に顔を向ける。放物線状に飛ぶそれはまるで良く出来た人形のようだ。数秒後、少し離れた所で鈍い音が地面に響いた。

 瞬間、息がとまった。

 次にナテアは目を見開き、大きく息を吸い込む。

「アベル!」

 身を翻しながら叫べば、少しだけ体がふらつく。しかしナテアはそんなことを気にもせずにもがいた。

 男が力を抜いていたおかげか、ナテアの急な動きにナテアを囲っていた腕が緩んだ。

 一瞬の隙に男の腕から逃げ出せば、ナテアはアベルの元へ駈け出していた。


 芝生の上に横たわるのはナテアよりもずっと小さな体。

 ナテアは膝をつくとアベルを抱き寄せる。気を失ったのか、アベルの目は閉じられていた。

「こんな……ひどい」

 顔を歪ませたナテアはアベルを投げ飛ばした男を鋭く睨みつける。

 

 院長や孤児院のみんながいる場所でも悲鳴が上がっていた。立ちあがる人、口元を押さえる人、子供たちの目を覆う大人がいれば、抱きしめる者もいた。

 そんな様子はナテアの目には入っていなかった。いや、視界には入っていたかもしれないが、ナテアの意識は別にあり、目に入らないのだ。

 突然、先ほどまでナテアを囲んでいた男たちは腰を低くし、構えた。

 男たちを睨むナテアの視線には怒りと悲しみと、殺気がこもっていた。

 怯える人間ならいざ知らず、殺気を込めた睨みを送る人間は何をしでかすか分からない。それはナテアの腕にいるアベルもしかり、そして今のナテアもだ。

 

 怒りで我を忘れる。そこまではいかないが、今のナテアにとって冷静な判断は難しかった。

 ナテアの頭には大人しく捕まらなかった自分への自責の念。そして相手に対する……、

「――ゆるさない」

 ナテアは低く呻いた。

 

 アベルの頬に当てていたナテアの手にある指輪があやしく光る。指輪はナテアがヴィルデの町で出会った花売りの少女の指輪と同じ緑の石だった。

 光る指輪に促されるように、孤児院を囲んでいた植物たちが一斉にうごめきだす。

 まるで成長を促されたように枝が、蔓が急速に伸びると、構える男たちへと襲いかかった。

「魔石か……!」

 叫び声をあげながら四方から伸びる植物に男たちは散り散りになった。

 丘の上の孤児院は森に木に花に、豊かな自然が周囲を囲む。

 迫る植物から離れようとするが足を着ける場所全てに植物が生えており、男たちの足をからめ取ろうとしていた。

 蔓が絡みついてしまえば抜け出すことはできない。そして、男たちの腕や足、腰、と体中を捕縛していく。徐々に加えられる締め付ける植物の力に、男たちは苦痛に顔を歪ませた。


 植物の成長の速さは凄まじかった。

 そのため、ほとんどの男たちは体をからめ捕られてしまった。が、まだ残っている者もいた。

「――小娘め」

 残った男の1人が舌を鳴らしながら手を耳にやる。黒いフードの中からナテアの時と同じようにまた、緑の光が放たれた。

 空気を切るような音がナテアの耳を掠める。ナテアと同じ緑の光でも男の魔法は風だった。風が植物を切っていく。

 緑の光を放つ男を中心とした風はナテアの魔法で成長した植物に襲いかかり、しかし植物は次から次へと成長の速度を緩めない。

 他の残った男たちも魔法を繰り出す。無限ともいえる植物に苦戦を強いられていたが、徐々にナテアの魔法は押されていく。




「余興か」

 離れた場所にいる男が言う。

 どことなく楽しそうに聞こえる声の持ち主は院長と対話をしていた男のもの。男がちらりと院長へ顔を向ければ、青ざめた顔が目に入る。それも一瞬で、院長から部下の男たちとナテアに向きなおせば全く反対の言葉を口にした。

「つまらん」

 そしてこんな余興はもう終わりだとでも言うように男は腕をあげ、指を鳴らした。

 



 突然、巨大な炎が上がった。

 炎は急に現れたかと思うと、ナテアの植物を燃やしていった。風や水に対して、いくらか耐性があるとしても、植物は火には弱い。

 炎に対してナテアの魔石は歯が立たなかった。

 ナテアは黒く焦げていく植物たちを茫然と見やる。そしてその炎の中でうごめく人を見た。

「ちょっ……! 中に人が!」

 植物に絡め取られていた男たちだった。熱さに悲鳴とうめき声をあげている。

 運良く植物だけが燃え、逃げだせた者もいるが、助けを求める「仲間」を助けることはなかった。

「なんでっ」

 助けないのか、そう言っている間にも炎の勢いはあがっていく。

 ナテアは院長たちの方へと顔を向けた。

 やはりあいつだ。

 院長のすぐそばに立つ黒マントの男。男の左手首――多分腕輪だろう――は燃え盛る炎と同じ色を放っていた。

 

 ナテアの視線に気づいたのか、男はナテアへと顔を向ける。びくり、と肩を震わせるナテアをじっと見つめるようであったが、特に興味を示すこともなく顔を背けた。

 男は、叫び声をあげる仲間にも同様に興味を示すことはなくマントを翻し、背を向けて歩き出した。

 動揺したのはナテアと孤児院の人間だけ。院長は苦々しく唇をかんだ。

「何で助けないのよ! 仲間でしょ?!」

 思わず叫んだあと、ナテアはあわてて口に手を当てる。

 そんなことを言える立場ではなかった。

 つい出た言葉にそう思うナテアだったが、これはさすがにひどすぎる。

 ナテアは男たちを懲らしめようと思っただけで殺そうとまでは思っていなかった。いや、もしかしたら心の中のどこかでは違った思いもあったかもしれないが。


 しかしさすがにここまで望んではいないと断言できる。

 ナテアは顔を下げ、両手を力強く握りしめた。――もう指輪は光ってはいない。

 顔をあげる。たとえ憎くても、人が死ぬのは嫌だ。

「――――、――」

 国の言葉ではない言葉を呟けば突如、地面から突き出すいくつもの水の柱。

 普通の水では消えない魔法の炎は瞬時にその勢いを失くしていく。炎がすべて消えると、ナテアは大きく息を吐いた。


「あの娘……」

 現れた水の魔法に、炎を出した本人である男が振り返っていた。ナテアは男に見られていると知らずに、次の言葉を紡ぐ。

 黒く上がる煙の中から淡い光が2つ、3つと上がる。

 植物の燃えた臭い以外に生臭い、焦げた肉の匂いが辺りには漂っており、男たちが重度のやけどを負っていることは明らかだった。

 しかし、燃えた跡の中での光が消えると、もぞりと動く影があった。

 いくつもの影は炎の中で動けずにいた男たちのもので、中にはもう少しで死んでしまうという男もいた。

「……やはりそうか」

 一人うなづく男の横で、部下の男が近づく。男は部下に視線をやり小さく「行け」と命ずる。命を受けた部下は頭を下げると倒れている男たちの元へ向かった。

 光の魔法で死は免れたが、重症なのには変わりない。

 もしこれが魔石による魔法だったならば、例え力の弱いものでもまだましだったに違いない。

 男は風の魔法で転移していく仲間の男たちを見ながらにやりと口角をあげた。

「――見つけました」

 それは誰に向かっての言葉なのか。

 男もまた、他の仲間の風の魔法で姿を消した。




「はぁーっ」

 ようやくいなくなった男たちに誰ともなく安堵の息を吐く。

 ナテアもまた、男たちがいなくなったことで同じように安堵していた。

「アベル……」

 ナテアの腕の中にはまだ意識を失ったままのアベルがいる。首元に手を添えれば意識は失っているがはっきりとした鼓動が伝わってくる。

(でも意識を失ってくれていてよかった)

 生きた人間の燃える姿なんて子供が見るものではない。大人でも同じだが。

 それでも、ひとりでもあんな悲惨な光景を見た子が少なければいいが。そう思いながらナテアはアベルを腕に抱いたまま、地面に背中を預けるように倒れた。

 実際、ナテアも先ほどの様子を思い出せば胃がむかついてくる。……しかし自分がまいた種である以上、そう言ってはいられない。

 

「考えてみれば、私が大人しくしてたらこんなことにはならなかったのよね」

 その場合、どんな展開が待っていたかは考えることはしない。ただ、今と同じ状況ではない可能性は高いはずだ。

「私、のせい……」

 地面に寝ころんだまま空を見上げる。正面に見えるのは少しばかりの煙と、雲と、どこまでも広がる青。

 ポケットに手をやれば、2本の小さな花があった。

 花は焼け焦げた孤児院の庭や牧草地に似合わず、甘い匂いを漂わせる。風に揺れる花弁はやさしい色をしていた。

 

 視界がぼやける。

 ひとつ、瞬きをすれば涙がこぼれた。


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