精衛
精衛微木をくわえ将に蒼海を埋めんとす(陶淵明)
少年と少女が笑いながら駆けていると、どこかのじぃちゃんが崖から小石や木の枝を海にそっと投げ込んでいるのを見かけた。
近所の小母さんが教えてくれたが、じぃちゃんが少年だった時、恋人の少女があやまって海に落ちた。それでじぃちゃんは海を埋めつくそうとしているらしい。
少年は少女の手をギュッと握った。
一羽の小鳥が海に向かって飛び、小石をくちばしから落とした。
じぃちゃんが呟いた。それは遠い過去の恋人の名だった。
陶淵明の詩、精衛の魂が鳥になり海を埋めつくそうとする話を基に書きました。
ちなみに書きますが鳥とは亡くなった人間の魂だという信仰は文化人類学的に全世界に見られます。詳しいことをご存知になりたい方はジェイムズ・フレイザーの「黄金の枝」をお読み下さい。