表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された飯炊き係の【万能調理】が神スキルだったので、荒野で極上グルメ帝国を築きます  作者: らいお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/13

第6話:荒野の地下に食材ダンジョン発見

 菜園を拡張しようと思った。


 ルナの食欲は果てしない。人化形態を覚えてからは、三食きっちり食べるようになり、しかも一食あたりの量が大人三人分だ。

 現状の菜園では、トマトと小麦とメロンは回せるが、肉と魚が足りない。


「狩りに行くのもいいが、この荒野にはまともな獲物がいないんだよな……」


 ルナは森でウサギを捕まえてきてくれるが、フェンリルの狩りは豪快すぎて、獲物が凍結して原形をとどめないことがある。


「ルナ、あのウサギは『食材』として持ち帰ってくれ。氷の彫刻にしなくていいから」


「……むずかしい」


 ルナは人化形態で首を傾げた。最近は少しずつ言葉を覚えてきている。


 ともかく。菜園の拡張だ。


 ログハウスの東側に、まだ手つかずの荒れ地がある。

 レンはそこに向かい、いつものように両手を地面に当てた。


「【万能調理】――『下ごしらえ』」


 光が地面に染み込む。

 硬い土が柔らかく変わっていく——


 ゴゴゴッ。


 異常な振動が走った。


「っ!?」


 足元の地面が、陥没した。


 レンの体が落ちる。暗闇。土埃。

 反射的に壁面を掴もうとしたが——


「ワフッ!」


 銀色の光が走った。ルナが獣形態に戻り、レンの襟首を咥えて空中で止めた。


「……助かった。ありがとな、ルナ」


「ふんっ」


 ルナに引き上げてもらい、穴の縁に座る。

 下を覗き込むと、底が見えないほど深い縦穴が口を開けていた。


「地下空洞……? 荒野の下にこんなものがあったのか」


 レンの好奇心が刺激された。

 料理人は、未知の食材に対して無力だ。良い意味で。


「ルナ、降りてみよう」


「……ごはん?」


「飯は後だ。でも、ここに美味い食材があるかもしれない」


 ルナの耳がピンと立った。

 食材と聞けば、どこへでもついてくる。



◇ ◇ ◇



 縦穴を慎重に降りると、そこは別世界だった。


 天井から垂れ下がる鍾乳石が、淡い光を放っている。壁面にはびっしりと苔が生え、その苔自体が薄緑色に発光していた。

 地下なのに暖かい。どこかから温かい空気が流れ込んでいる。


「すごいな……天然の地下洞窟か」


 レンは周囲に『味覚解析』をかけた。


 反応が、洪水のように押し寄せた。


《発光苔(品質C級):照明素材。調理不可だが、拠点の照明として利用可能》

《地下キノコ群生地(品質A級):未同定の大型キノコ。強い芳香あり》

《洞窟魚の群泳地(品質B級):地下水脈に生息する透明な淡水魚》

《ミスリル鉱脈(品質S級):大規模な鉱脈。推定埋蔵量は莫大》

《未同定の巨大有機体(品質???):最深部に反応あり。詳細不明》


「A級のキノコに、B級の魚に、S級のミスリル鉱脈……」


 レンは思わず声を上げた。


「ここ、食材の宝庫じゃないか!」


「ワフッ!」


 ルナも興奮している。鼻をヒクヒクさせて、キノコの方へ駆け出そうとする。


「待て待て、まず安全確認だ。……でも先にキノコを見に行こう」


 結局、食材が気になって止められないのは料理人の性だ。



◇ ◇ ◇



 地下キノコの群生地は、洞窟の中央に広がっていた。


 薄暗い空間に、巨大なキノコが林立している。傘の直径は三十センチほど。表面は滑らかで、薄い茶色をしている。


 レンが近づいた瞬間、濃厚な香りが鼻を突いた。


「この香り……!」


 土の匂い。木の香り。そしてその奥に、鼻腔の奥まで沁み込むような、深くて豊かな芳香。


「松茸だ……。いや、松茸よりもっと濃い。なんだこれは」


 『味覚解析』。


《素材名:深淵キノコ(品質A級)》

《備考:地下の魔力を吸収して成長した大型キノコ。香りは地上の高級キノコの数十倍。バター炒めや吸い物に最適。バフ効果:知力+25%(4時間)》


「A級……! バター炒めに最適って……もう答えが出てるじゃないか」


 丁寧にキノコを採取する。『無尽蔵』に収納すれば鮮度は保たれる。

 十本ほど採取したところで、次は地下水脈へ向かった。


 洞窟の奥に、暗い水面が広がっていた。

 透き通った水の中を、透明な魚が群れで泳いでいる。体が透けていて、内臓や骨が見える不思議な魚だ。


《素材名:洞窟クリスタルフィッシュ(品質B級)》

《備考:透明な淡水魚。身は白く上品な味わい。刺身にすると最適。バフ効果:俊敏性+15%(2時間)》


「刺身にできる淡水魚か……。これは楽しみだ」


 レンは即席の釣り竿を作った。金属ワイヤーを『万能調理』で成形し、深淵キノコの欠片を餌にする。

 入れた瞬間に食いついた。


「よし……五匹もあれば十分だな」


 次に向かったのは、ミスリル鉱脈。

 壁面が銀色に輝いている。規模が桁違いだ。


「これは……相当な量だぞ。商業的な価値だけでも、金貨数百枚はくだらない」


 ミスリル鉱石をいくつか採取し、その場で精錬した。


「【万能調理】――『精錬』」


 純度S級のミスリルインゴットが、次々と完成する。

 レンは満足げに頷いた。食材もインゴットも、『無尽蔵』に収めればいくらでも持ち運べる。


 そして――洞窟の最深部。


 そこには、不思議な空間が広がっていた。

 温かい空気が渦巻く小さな部屋。壁面が赤く発光している。

 その中央に、台座のように盛り上がった岩の上に――


「……なんだ、あれは」


 巨大な卵のような物体が鎮座していた。

 直径一メートルほど。表面は深い紅色で、脈動するように淡い光を放っている。


 『味覚解析』を発動する。


《素材名:???》

《品質:???》

《備考:解析不能。現在のスキルレベルでは情報を取得できません》

《推測:極めて高い魔力を内包した有機体。卵の可能性あり》


「解析不能……? 俺のスキルで解析できないってことは、神級の素材か?」


 レンは目を細めた。

 料理人としての直感が告げている。これは、ただの卵ではない。


「……今は触らないでおこう。もっとスキルレベルが上がってから挑むべきだ」


 未知の食材への敬意。それもまた、料理人の矜持だ。


「よし、帰ろう。食材は十分に手に入った」


「……ごはん?」


「ああ、帰って飯にしよう。今夜は特別メニューだ」



◇ ◇ ◇



 ログハウスのキッチン。


 テーブルの上に、地下ダンジョンの収穫が並んでいる。

 深淵キノコ。洞窟クリスタルフィッシュ。どちらも初めて扱う食材だ。


「まずはキノコからいくか」


 深淵キノコを薄くスライスする。

 包丁を入れた瞬間、キッチン中に濃厚な香りが爆発した。


「っ……! すごい香りだな。松茸の比じゃない」


 ミスリルのフライパンにバターを溶かす。白い油脂がジュワッと泡立ち、ナッツのような甘い香りが立つ。

 そこにスライスしたキノコを投入。


 ジュウウッ。


 キノコとバターが出会った瞬間、キッチンの空気が一変した。

 土の深い香りとバターの甘い香りが渾然一体となり、ログハウスの隅々まで染み渡る。


 キノコの表面がきつね色に焼き上がっていく。端がカリッとなり、中はジューシーなまま。仕上げに岩塩を一振り。


「深淵キノコのバター炒め、完成」


 次は魚だ。

 洞窟クリスタルフィッシュの鱗を丁寧に引き、三枚におろす。身は本当に白い。ほとんど透明に近い、きめ細かな白身だ。


「刺身にする。この鮮度なら、素材の味で勝負できる」


 薄造りにした刺身を皿に並べる。透明感のある白い身が、皿の上で花のように広がった。

 わさびの代わりに、森で採った辛味草をすりおろして添える。


「洞窟クリスタルフィッシュの刺身、完成」


 テーブルに二皿を並べた。

 深淵キノコのバター炒めからは、こんがりとした芳香が立ち上っている。

 クリスタルフィッシュの刺身は、ランプの光を受けて宝石のように輝いている。


「ルナ、飯だぞ」


「ごはんっ!」


 人化形態のルナが、目を輝かせてテーブルについた。


 レンがまずキノコを一切れ、口に運んだ。


 噛んだ瞬間、弾力のある繊維からジュワッとバターの旨味が溢れ出した。キノコ自体の風味は深く、大地の滋味が凝縮されている。噛めば噛むほど味が出る。鼻に抜ける香りは、地上のどんな高級キノコよりも芳醇だった。


「……これは美味い。文句なしだ」


 次に刺身を一切れ。辛味草を少しだけつけて、口に入れる。


 舌の上で、白身がとろけた。淡泊なのに旨味が深い。川魚特有の臭みは一切なく、澄んだ甘みだけが口の中に広がる。辛味草のピリッとした刺激が後味を引き締め、もう一切れ、もう一切れと箸が止まらなくなる。


「ルナ、どうだ?」


 隣を見ると、ルナの皿はすでに空だった。


「……もっと」


「だろうな」


 レンは笑って、追加のキノコをフライパンに放り込んだ。


 窓の外は夜。

 荒野の地下に眠る食材の宝庫を見つけた今、この拠点のポテンシャルは飛躍的に上がった。


 ――明日は、ミスリルのインゴットで新しい調理器具を作るか。


 料理人の夢は、まだまだ広がりを見せていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ