表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された飯炊き係の【万能調理】が神スキルだったので、荒野で極上グルメ帝国を築きます  作者: らいお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

第4話:魔力トマト、はじめました

 フェンリルの名前は、ルナにした。


「月夜に出会ったからな。それに、お前の毛の色、月光みたいだし」


「ワフッ!」


 尻尾ブンブン。気に入ったらしい。


 ログハウスでの生活にルナが加わって三日。

 レンは深刻な問題に直面していた。


「…………お前、食いすぎじゃね?」


 朝。暖炉の前。

 空っぽになった鍋を三つ並べて、レンは頭を抱えていた。


 コカトリスのモモ肉ステーキ、三人前。

 マンドラゴラの薬膳スープ、大鍋一杯。

 黄金のパン、八個。


 それが、ルナの朝食だった。


「ワフッ!」


 白い狼はお行儀よくお座りして、空の鍋を見つめている。

 蒼い瞳がキラキラと期待に満ちている。


「……おかわりはないぞ」


「クゥゥゥン……」


 しっぽが力なく垂れた。

 世界を滅ぼせる神獣の目が、うるうると潤んでいる。


「いや、泣かれても困る」


 とはいえ、このペースでは『無尽蔵』の食材はあっという間になくなる。

 フェンリルは成長期の子供だ。基礎代謝が桁違いに高いのだろう。


「……食料の自給自足が急務だな。菜園を作るか」


 レンはエプロンを締め直し、外に出た。



◇ ◇ ◇



 ログハウスの南側に、十分な広さの空き地がある。

 整地済みの土地だが、今は何もない更地だ。


「ここを畑にする」


 レンは両手を地面に当てた。


「【万能調理】――『仕込み(ミズ・アン・プラス)』」


 光が手のひらから大地に染み込んでいく。

 土の色が変わった。灰色の乾いた土が、深い茶色のふかふかの土壌に変化していく。地中の鉱石が細かく砕かれて養分に変わり、微生物が活性化する。


 『味覚解析』が発動する。


《土壌品質:S級(超肥沃)》

《備考:通常の農地の約10倍の栄養素を含有。成長速度が大幅に向上します》


「よし。次は種だ」


 『無尽蔵』を開く。

 アレクたちが「ゴミ」と呼んで押し付けてきた素材の中に、いくつかの種が混じっていた。


《魔力トマトの種(品質A級)》

《備考:魔力を含んだトマト。完熟させると甘みと魔力が増幅》


《魔力小麦の種(品質B級)》

《備考:疲労回復効果を持つ小麦。パンにすると効果が最大化》


《魔力メロンの種(品質A級)》

《備考:希少な甘味食材。通常栽培では結実に一年以上かかる》


「全部A級以上……。アレクのやつ、宝を捨ててたのか」


 種を超肥沃な土壌に植える。

 水は、菜園の隣の岩盤を【万能調理】で穿ち、地下水脈から汲み上げた。冷たく澄んだ水が小さな泉となって湧き出す。


 そして――


「【万能調理】――『促成(アクセレ)』」


 光が菜園全体を包んだ。


 種が、芽を出した。

 芽が、茎になった。

 茎が、葉を広げた。


 数分後。


 レンの目の前に、鮮やかな赤色のトマトがたわわに実っていた。


「……数時間で収穫、のつもりだったが」


 予想以上だった。超肥沃な土壌と促成の相乗効果で、数分で完熟まで到達してしまった。


 魔力トマト。宝石のように赤い。

 表面がつやつやと光り、持つとずっしりと重い。鼻を近づけると、青々としたトマトの香りの中に、ほんのり甘い魔力の匂いが混じっている。


 隣の畝では、魔力小麦が黄金色の穂を揺らしていた。風にそよいでサラサラと音を立てている。

 さらに奥では、魔力メロンが網目模様の美しい実をつけていた。


「……すごい光景だな」


 荒野の真ん中に、鮮やかな菜園が広がっている。

 色彩のない灰色の世界に、赤、黄金、緑の命が溢れていた。


「ワフワフッ!」


 ルナが菜園の中を駆け回っている。トマトの匂いに鼻をヒクヒクさせ、尻尾を高速で振っている。


「こら、踏み荒らすなよ。今から料理にするから」



◇ ◇ ◇



 キッチンに戻ったレンは、収穫したての魔力トマトを水で洗い、まな板に置いた。


「さて、何を作ろうか」


 完熟の魔力トマト。その実力を最大限に引き出す料理。

 レンの頭に、一つのレシピが浮かんだ。


「カプレーゼだ」


 新鮮なトマトを薄くスライスする。

 包丁を入れた瞬間、果汁がじわっと溢れた。甘い香りがキッチンに広がる。


 次はチーズだ。

 『無尽蔵』には、以前手に入れていた山羊の乳が残っていた。


「【万能調理】――『凝固(カイエ)』」


 乳が光に包まれ、一瞬でフレッシュチーズに変わる。真っ白で柔らかく、ほんのり酸味のある、出来たてのモッツァレラだ。


 スライスしたトマトとチーズを交互に並べる。

 赤と白のコントラストが美しい。

 仕上げに森で採った香草のバジルを散らし、岩塩とオリーブオイルを軽くかける。


「カプレーゼ、完成」


 さらに、魔力小麦でパンを焼く。

 小麦を挽いて粉にし、水と塩と天然酵母で生地を練る。暖炉で焼くこと十五分。


 ――ログハウス中に、パンの焼ける匂いが充満した。


 こんがりと黄金色に焼き上がったパン。表面はカリッと硬く、割ると中からふわっと湯気が立つ。小麦の甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「黄金のパン、完成。さて、食べるか」


 テーブルに料理を並べる。

 カプレーゼと黄金のパン。シンプルだが、素材の力が段違いだ。


 ルナが暖炉の前からダッシュで駆け寄ってきた。


「ワフワフッ! ワフッ!!」


「はいはい、お前の分もあるから。……ん?」


 レンは目を見開いた。


 ルナの体が、光に包まれていた。


 白い毛並みが輝き、体がゆっくりと縮んでいく。四本の足が二本になり、前足が腕に変わり、あっと思った次の瞬間――


 そこに立っていたのは、銀髪に蒼い瞳の幼い少女だった。


 十歳くらいの見た目。白い肌に、頭の上にぴょこんと飛び出した狼の耳。背中には、ふわふわの白い尻尾が揺れている。

 服は……着ていなかった。


「…………」


「……ごはん」


 少女が、小さな声で言った。


「おいしい……もっと」


 蒼い瞳がレンをまっすぐに見つめている。


「……お前、人の姿になれたのか」


「ワフッ」


 頭の上の耳がピコピコと動いた。


「…………まあいいか。とりあえず服を着ろ。話はそれからだ」


 レンは慌てて自分の上着を脱いでルナに着せた。上着はルナの体にはぶかぶかで、膝まで隠れるワンピースのようになった。


「よし。じゃあ、食べよう」


 二人でテーブルについた。

 レンがカプレーゼを一口食べる。


「…………美味い」


 トマトの甘みが、口の中で弾けた。

 果汁が舌の上に広がり、魔力を含んだ甘みが染み渡る。カプレーゼのチーズのミルキーな風味がトマトの酸味を優しく受け止め、バジルの爽やかな香りがすべてをまとめ上げる。


 黄金のパンを一口ちぎって、カプレーゼと一緒に頬張る。

 パンの外側のカリッとした食感と、中のふわふわの柔らかさ。噛むたびに小麦の甘みが溢れ出し、トマトとチーズと混ざり合って、口の中で一つの完璧なハーモニーになる。


「うまっ」


 スキルウインドウが光った。


《バフ効果が発動しました》

《『魔力トマトのカプレーゼ』:MP全回復+魔力+20%(3時間)》

《『黄金のパン』:疲労回復(完全)+精神安定》


「MP全回復に疲労回復か。朝食にぴったりだな」


 隣を見ると、ルナが皿を抱えて離さなくなっていた。

 カプレーゼは跡形もなく消えており、パンも三個目に突入している。


「ごはん……おいしい……もっと……」


 頬がパンパンに膨らんでいる。尻尾は最大出力でブンブン振れている。狼耳がぺたりと幸せそうに倒れていた。


「お前の『もっと』は底なしだな……。パン、もう一個焼くか」


「ワフッ!!」


 レンは苦笑しながら立ち上がった。


 窓の外では、荒野に作った菜園が朝日を浴びて輝いていた。

 赤いトマト。黄金の小麦。緑のメロン。

 不毛の大地に、色彩が生まれている。


 ――悪くない、朝だな。


 包丁を手に取る。

 今日も、誰かのための――いや、自分とこの食いしん坊のための料理が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ