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モデルデビュー!

夏休みが終わり、9月になった。8月と変わらず暑い日々が続いていた。


授業が終わり、帰り支度をしていたら、スマホが振動した。同時に隣の席のあゆみちゃんも着信があったみたいだった。大体こういう時は、あかり先輩からのLINEだ。僕らはそれぞれスマホを開いた。文面は


【まだ学校にいたら生徒会室に急いで来て】だった。


読み終わった僕らは顔を見合わせた。あかり先輩にしては珍しい文面だったからだ。とりあえず、あゆみちゃんが【今すぐ行きます】と返信してから、「何だろうね?」と会話をしながら生徒会室へ急いだ。


あかり先輩はスマホを片手に持って、生徒会室の前に立っていた。雰囲気からして、珍しくちょっとイライラしているようだった。でも僕らを見つけると、ホッとした顔で「ここだと不味いから」と屋上へ僕らを導いた。そこで屋上で、あかり先輩は語りだした。予想もしなかった話をね。


先輩の話はこうだった。先輩がモデルをしていた服飾会社で秋冬物のカタログを作っていたんだけど、モデル事務所との契約の不手際があって、撮影済みの画像が使えなくなり、急遽再撮影する必要になった。


しかも期日的に撮影日がこの週末で、他のモデル事務所に声を掛けても急すぎてモデルさんを集められず、先輩みたいな経験者や知り合いに声がかかり、モデルになってくれる人を紹介して欲しいと依頼があったんだと教えてくれた。僕は驚いた。僕がモデルに? とね。でも話はそんなに簡単じゃなかった。


画像を服飾会社に送ってオーディションを行い、OKをもらう必要があるとね。だよねと思ったけど、僕は先輩の指示に従ってスマホで撮られていた。顔のアップや全体像が見えるように、前や横や後ろ姿を何枚もね。あかり先輩にはこれまで何枚も写真を撮られていたけど、モデルのオーディションと聞いたら顔が引きつったよ。そこは先輩が優しく声を掛けてくれたけどね。


でも屋上は日影が少なくて蒸し暑くて大変だったよ。僕が終わり、あゆみちゃんも同じように撮られていた。あゆみちゃんも緊張していたけど、先輩の言葉で笑顔が眩しかった。撮影後、先輩は僕らに体のサイズを聞いてメモしていた。僕には身長とか体重とかウエストをね。


僕は当然「158.5cm」って言ったよ。あゆみちゃんにも同じように聞いていたけど、あゆみちゃんは恥ずかしかったのか先輩に耳打ちしていた。先輩の「もっとあるよ!」と言った言葉が、僕の頭に残ってしまった。


先輩はその場で画像をセレクトして身体のデータを送っていた。「結果は明日の夕方には出るよ」と言ったけど、先輩はまだ僕らにオーディションを受けるかを聞いていなかったんだよね。先輩のいつものペースに嵌まってしまい、写真を撮られていたけどね。


それで聞いたけど、「モデルのオーディションなんか滅多にないし、これも記念だよ」と言い切られてしまった。そして、先輩は続けて言った。「オーディションに通ったら大変だよ。再撮影は今度の土曜日の早朝に出掛けて撮影だよ。私にも声が掛かっているから、もし撮影に呼ばれたら私と日帰り旅行だよ。しかも往復の交通費は向こう持ちだから旅行気分で楽しめば良いよ。それでお金も貰えるしね」「でもちゃんとご両親にはオーディションを受けた事はちゃんと言っておくんだよ」と注意してくれた。


帰宅中だけど、あゆみちゃんは楽しそうだった。やっぱり女の子だからね。モデルのオーディションなんて女の子をワクワクさせるには十分だった。でも僕は冷静に考えたらダメだろうなと思って歩いていたよ。だって男子で身長が158.5cmだもんね。終始ニコニコ顔のあゆみちゃんの横顔を見ながらの帰り道だったよ。それで帰宅後、一応親に伝えたけどね。反応は渋かったよ。


それで翌日の昼休みに先輩からのLINEが届いた。オーディションの結果だったよ。僕の横でニコッと笑うあゆみちゃんがいた。あゆみちゃんは無事に採用だった。でも僕は残念ながら補欠採用だと書いてあった。補欠採用って何だ? と思っていたら、放課後に先輩が詳しく説明してくれた。「補欠採用とは撮影当日に欠員が出た場合とかに採用する」と教えてくれた。


それで、先輩は先方に返答したいからと僕らに聞いてきた。あゆみちゃんも僕もOKと答えたよ。そして、「土曜日は朝早く出掛けるから寝坊しない様に」と注意して別れた。そして土曜日の朝になった。寝坊が心配だったが、スマホのアラームと母に起こしてもらい、駅まで車で送ってもらった。


昼間はまだ暑い9月だけど、早朝は涼しかった。駅に着いたらもう2人が待っていて、先輩が切符を買ってくれていた。早朝の都心方向とは逆の方向の電車に乗った。あかり先輩とあゆみちゃんは楽しそうにお喋りしていたけど、僕は電車の揺れに負けて直ぐに寝てしまい、乗り換えの度に先輩が起こしてくれた。1時間ちょっと電車に揺られて、やっと下車駅に着いて電車を下りた。先輩は慣れた道を歩き出した。


道すがら、「ここのパン屋さんが美味しいから帰りに買って帰ろうか」と、「ここのカレー屋さんが美味しいから帰りに食べて帰ろう」と、楽しく喋りながら、駅からは徒歩で6分位の服飾会社に辿り着いた。


女の人が入口の所でタブレットを持って立っていた。先輩がその女の人に元気な声で「おはようございます」と挨拶をし、「おはようあかりさん。急な撮影なのに知り合いまで紹介してくれて本当にありがとうね」と親しく挨拶を交わしていた。


そして、あゆみちゃんの前に立ち直して、タブレットを見ながら「あなたがあゆみさんですね。今日は遠い所まで来てくれてありがとうございます」「あゆみさんは合格なので控室に入りましたら担当の者が呼びに来るまでお待ちして下さい」と言ってタブレットに何やら操作してから、僕にも話しかけてきた。


「え~とゆうなさんも同じ様に控室でお待ちして下さい。補欠なので撮影するかはわかりませんが、今日の交通費と日当は出ますから安心して下さい」と言ってくれた。やっぱり僕は補欠なんだと思ったけど、でも疑問に思ったんだ。「ゆうな君」ではなく「ゆうなさん?」と言った言葉にね。


服飾関係の人は男の子にも「君」ではなく「さん」で呼ぶんだと思った時に、その受付の人があかり先輩に衝撃的な言葉で話しかけた。


「私はゆうなさんも合格出来るようにプッシュしたのに補欠になったのは残念でした。私はボーイッシュな子が好きだから押したんだけどね」続けて「やっぱり、あかりさんの推薦で可愛い女の子だから2人共に合格させたかったよ」と言った。


その瞬間、僕らの頭の中には????が浮かんだ。この人は、僕を女の子だと思っているよ。女装していないのに。あかり先輩が困った顔をして話し始めた。


「あの~ゆうな君は男の子なんですが......」しばらく沈黙があり


「えぇー!嘘だ!だって女の子って書いてあったような」とタブレットやクリアファイルの中身を確認しだした。何度も確認していたようだけど、女の子とは書いてない様だった。


「本当にごめんなさい。私うっかりしていた。あかりさんの知り合いだったから2人共に女の子だと思っていた」と謝ってきた。その様子を見てあゆみちゃんは笑うのを必死に堪えて、先輩も困った顔をしていた。


先輩も「私も男の子って書かなかったからごめんなさい」と謝っていた。そんな僕も困っていた。シャツとスラックスの学生服でノーメイクなのに女の子に間違えられるなんて、悲しいやら嬉しいやら....。


受付の人が言い出した。「手違いはこちらの責任ですから、先ほど言ったように日当と交通費は出しますから安心して下さい」と言ってくれて、僕らを控室に案内してくれた。控室にはあかり先輩のモデル仲間さんも何人もいて、みんな可愛い女の子ばかりで楽しそうに会話が始まっていた。


男の子も何人もいたけど、みんな背も高くてイケメンだった。僕とあゆみちゃんの2人は控室の端っこに陣取り、僕の顔を見てはあゆみちゃんは笑うのを堪えていた。そんな事をしていたら撮影が始まった様で、ファイルを持った人が来て何名かの名前を呼んでいた。


僕とあゆみちゃんが喋っていたら、さっきまでの人とは違う人がファイルを持ち


「すみませんゆうな君はいますか?」と聞いてきた。なので僕は「ゆうなは僕です」と手を挙げた。その人は僕を見つけるとホッとした様で「ちょっと来てくれるかな」と言って僕を立たせて別室に誘導した。僕は「何だ?」と思っていたら。


補欠から採用への変更だった。急な採用の理由は、撮影予定だった中学生の男の子が急に具合が悪くなってしまい、僕に出番が回ってきたのだった。別室では別のスタッフさんの前に立ってチェックされて「この子で行こうか」と合格をもらった。


僕は予想外の展開で驚いてしまった。スタッフさんに女の子に間違えられて落ち込んでいたら突然のモデル採用で、思わず笑顔が止まらなくなってしまった。笑顔のまま控室に戻って急な採用をあかり先輩とあゆみちゃんに伝えたら、驚いた顔を見せて「良かったね」と喜んでくれた。でも小悪魔なあゆみちゃんが「もしかして女装するの?」って言ってきて、僕を困らせて喜んでいたよ。


それで係りの人に僕が呼ばれてしまった。最初に軽くメイクをしてもらったけど、プロのメイクさんに「君、何かしてるの? 化粧のノリが良いけどスキンケアとかしてるの?」と言われてしまった。そう言われて僕は嬉しかった。僕はあかり先輩から言われてスキンケアを欠かさずしていたからね。


そして衣装を着たよ。中学生っぽい服で年齢的にはちょっと恥ずかしかったけど、160cm前後の男の子は僕しかいなかったみたいで、大変喜ばれた。スタッフさんから「ゆうな君可愛い」と言われて気分は悪くなかった。その様子をあかり先輩とあゆみちゃんに見られてしまい、2人共に笑顔で見守ってくれていた。


あかり先輩とあゆみちゃんの撮影も見ることができた。さすが経験者のあかり先輩は終始楽しそうに撮られていた。あゆみちゃんの緊張を解そうとしていたあかり先輩が面白かったよ。昼前には僕らの撮影は終わったけど、お弁当が用意されていて、とても美味しかった。補欠からまさかの撮影だったから緊張したけど、とても楽しかったよ。


お昼後は帰っても良かったんだけど、あかり先輩が「最後まで撮影を見たい」と言ったので付き合う事にした。あかり先輩はデザイナーさんの仕事ぶりを真剣な目で見たりして勉強しているみたいだった。きっと将来の自分の姿を想像しているみたいだった。


そんなあかり先輩を見て、僕も服飾関係の仕事も良いなと思ったりした。まだ先の話だけど、あかり先輩が進もうとしている大学を調べてみようとね。


結局、16時ぐらいまで撮影を見学して帰る事にした。朝来た時に話していたカレー屋さんに寄り、あかり先輩のおごりで3人でカレーを食べた。あかり先輩が言っていた通りに美味しいカレー屋さんだった。そしてパン屋さんにも寄ってお土産にしたよ。


それから、電車を乗り継いで帰ったけど、将来はあかり先輩と一緒に働きたいなと夢見た僕がいたね。まだ先の事だから、まだわからないけど、10年後ぐらいにそんな風になっていたら良いなと思っていたら、朝早かったのと撮影の疲れで寝てしまい、乗り継ぎのタイミングであかり先輩に起こされて、思わず


「先輩ごめんなさい!」と寝ぼけて言ってしまった。


そしたら、2人だけでなく他の乗客さんからも失笑を買ってしまったよ。「もう寝ぼけないでよ」とあゆみちゃんに言われて恥ずかしかったけど、あかり先輩は笑っていたよ。


僕らの下車駅に着く頃にはもう真っ暗だった。蒸し暑い夜道を歩いて帰宅した。


あかり先輩の背中を追いかけるのも悪くないなと思った9月の一日の出来事だった。



読んでいただいてありがとうございます

モデルデビューしてしまったゆうな君でした

そして将来の夢を見始めたゆうな君でした

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