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この夏一番暑かった日 

僕のアルバイト生活も一週間が過ぎた。


あゆみちゃんの薬局で働く事にも慣れてきて、胸の【見習い中】のプレートも外された。常連さんにも顔を覚えられて、レジの時に「ゆうな君、今日も可愛いね」と言われる事にも慣れてきた。そんな時に「ゆうな君、鼻の下伸ばしてないで仕事してね」と突っ込んでくるあゆみちゃんが、可愛くて仕方なかった。


8月中旬のお盆中はお客さんが少なくなるけど、薬局はオープンしていた。お盆中は病院やクリニックがお休みになるので、処方箋を持って来るお客さんもいなくなる。お母さんは薬局を僕らに任せて、ちょっと出掛けてしまった。


そんな暑い日に、事件が起こった。


薬局内は冷房が効いているけど、ちょっと外に出るだけで汗だくになる。そして倉庫内も冷房の風が入らないから暑かった。あゆみちゃんはお客さんが少ないからと「倉庫の整理するから」とレジを僕に頼んで倉庫に入って行った。


僕は「暑いから今じゃなくて、少しでも涼しい夕方にした方が良いよ」と言ったけど、あゆみちゃんは聞き入れず「だってお客さん来ないし暇じゃん」と言って、僕の言葉は耳に入っていない様だった。「なら僕も手伝うよ」と言ったけど、「ゆうな君はレジに立っていて」と言って、あゆみちゃんは倉庫に入って行った。


でも、直ぐに「暑い……」と言って倉庫から出てきた。エプロンを脱いで「倉庫は暑いね」と言って休憩室に行き、タオルで汗を拭い、水分を摂って再び倉庫に入って行った。僕は辛そうなあゆみちゃんを見て「僕も手伝うよ」と言ったけど、一度断ったあゆみちゃんの考えは変わらなかった。


一人で大丈夫かな? と思っていたら、倉庫から「ゆうな君、手伝って!」と大声が聞こえた。僕は慌てて倉庫に駆け込んだ。あゆみちゃんは脚立の上で段ボール箱を持っていた。「ちょっとこの段ボール取って」と僕に言った。ちょっと心配したけど、僕はホッとしてその段ボールを受け取り、床に置いた。


そしたら、あゆみちゃんは床に置いてある別の段ボールを指さし「その箱取って」と。僕はその箱を持ち上げたけど、ちょっと重たかった。「重いよ」とあゆみちゃんに受け渡した。あゆみちゃんも重そうだったけど、何とか一番高い棚に載せる事が出来た。


あゆみちゃんは大変そうだった。エプロンを脱いだから汗だくのTシャツが透けているのが見えた。下着のラインがちょっと浮いて透けてて僕をドキドキさせていた。僕は見ては駄目だと思い、上を見ずに「ちょっと休んだら」と言った。流石にあゆみちゃんも無理と思ったらしく「うん、休むよ」と言ってくれた。


僕はホッとした。でも、次の瞬間、脚立に立っていたあゆみちゃんがバランスを崩した。


「キャー!」と悲鳴が。僕は慌てて手を伸ばして落ちない様にあゆみちゃんを支えた。その支えで何とかあゆみちゃんは落ちなかった。


僕は「大丈夫?」と聞いた。あゆみちゃんは焦っていたけど「ありがとうゆうな君、大丈夫だよ」と言ってくれて、僕を安心させた。でも、直ぐにあゆみちゃんの顔が怒り始めた。


「ゆうな君、いつまで触ってるの!」と。僕はハッとした。伸ばした僕の両手は、あゆみちゃんのお尻ガッチリ掴んでを支えていた。


「ごめん!」「落ちそうだったから……無意識に掴んじゃった!」と僕は言った。


ただでさえ暑い倉庫内で、僕の顔はトマトの様に真っ赤になっていたはず。あゆみちゃんもそれ以上は怒らず、納得した様子だった。僕は気まずくなったので「レジに戻るね」と言って、あゆみちゃんに背中を向けた瞬間に、背後から再び悲鳴が聞こえた。


「キャー!」僕は振り向いた。


あゆみちゃんがまた脚立の上でバランスを崩していた。でも今回は落ちると思った。僕は慌てて駆け寄り、落ちてくるあゆみちゃんを必死に受け止めた。でも、落ちてくるあゆみちゃんの勢いに負けて、僕はあゆみちゃんを受け止め抱いたまま後ろにドーンと倒れてしまった。


でも、不幸中の幸いで紙オムツが入った段ボール箱とか空の段ボール箱の上に倒れたから、怪我は無かった。良かった、これならあゆみちゃんも大丈夫なはずだと思ったけど、でも何故か? 僕の目の前が真っ暗だった。そして、次第に呼吸も苦しくなってきた。


あぁ、僕は死んだんだなと思い始めた。ここは天国で僕は落ちてきたあゆみちゃんを助けて僕は死んだと思った。15年の短い人生だったなと思い始めた時に声が聞こえた。これが天国からの声かと思っていた。でもその声は動かない僕を心配して必死に声掛けしていたあゆみちゃんの声だった。


「大丈夫! ゆうな君! 大丈夫!」と連呼する声が僕の耳にはっきり聞こえた。僕は死んでいなかった。でも、何故か?目の前は真っ暗だし呼吸も出来ない苦しい状況だった。何とかして光と空気を求めて必死に頭を左右上下に動かし始めた。僕の顔は何か気持ちの良い柔らかい物とあゆみちゃんの匂いを感じていた。でもまだ状況は変わらずに光は見えず空気も吸えない状況だった。  


でも次の瞬間、あゆみちゃんの声が聞こえた。ホッと安心した口調で「良かった! ゆうな君生きてた!」と。すると、やっと僕の目は光を感じ、空気を吸えて呼吸も出来るようになった。真っ暗で呼吸が出来なかったのは、あゆみちゃんが僕に覆い被さっていたからだった。


あゆみちゃんは安心したみたいで僕に話しかけていた。「ゆうな君大丈夫?」ってね。でも、次第に表情が怒りに変わっていった。僕は話しかけられていたけど、真っ暗から急に明るくなったから眩しくて目を瞑っていて、やっと呼吸が出来る様になったから、はぁはぁと深呼吸を繰り返していて上手く喋れず顔も真っ赤になっていた。


やっと視界が回復したと思ったら、あゆみちゃんは胸を押さえて怒っていた。


「ゆうな君ヒドイ! 私の胸を触っていた!」僕は驚いた。誤解を解こうと。


「ごめん、違うよ!目が見えなくて呼吸も出来なかったから頭を動かしただけだよ」と言ったけど、怒りに火が付いたあゆみちゃんには無駄だった。何回も何回も同じ事を言って謝ったけど無駄だった。あゆみちゃんは


「私のお尻や胸を触るなんて、ゆうな君はそういう事をする人じゃないと信じていたのに」と泣き出してしまった。僕は驚き謝り続けた。


「お尻は落ちそうだったから思わず支えただけだし、胸だなんて真っ暗でわからなかったよ!」と言ったら全く逆効果だった。


「ヒドイよ!ゆうな君!私の胸はEカップもあるのに胸だってわからないなんてもう知らない!」


まだあゆみちゃんの体は僕の体に載ったままだった。あゆみちゃんと出会ってここまでの口喧嘩は無かった。何故なら僕が一歩引いていたからだ。でも今回は僕は悪くないから僕も引かずに口喧嘩は続いた。次第にあゆみちゃんの顔が近づいてくるのはわかっていた。


あゆみちゃんは「もう!うるさい!」「うるさいゆうな君の口は塞いでやる!」と言った瞬間に、僕の口は本当に塞がれてしまった。あゆみちゃんの柔らかい唇でね。あゆみちゃんの額の汗が僕に落ちてきた。


本当に突然の出来事だった。初めてのあゆみちゃんとのキスだった。キスの間ずっとあゆみちゃんは目を瞑っていた。


しばらくして、あゆみちゃんの唇は離れ、瞑っていた目は開き、その目は僕を見つめて瞳は潤んでいた。そして再び目を瞑り唇を突き出してきた。今度は僕からのサインだと思い、体を持ち上げてあと少しという時に、自動ドアの開く音と同時に入店を知らせるチャイムが店内に響き渡った。


次の瞬間に、あかり先輩の声が聞こえた。


「あゆみちゃん! 今日もアイスを買ってきたよー!」いつもの明るく良く通る声が店内に響き渡った。あゆみちゃんは慌てて立ち上がり、身支度を整えてから倉庫から掛けて行った。僕はまだ放心状態で潰れた段ボール箱の上に寝ていた。


店内からあかり先輩とあゆみちゃんの会話が聞こえる。直ぐに僕が出て行ったら絶対に怪しまれると思い、しばらく倉庫内にいたのけど、汗だくで暑さに負けて、流石に倉庫から出た。あかり先輩に挨拶した。僕はいつもの様に挨拶をしたつもりだったけど、額から流れた汗が頬や顎を伝わり床に落ちていた。僕ら二人は冷房の下でも汗が止まらなかった。


あかり先輩はいつもの様にアイスを買って来てくれていた。でも、僕らを怪しい目で見ているのはわかった。いつもは冷静なあゆみちゃんがおどおどと動揺していて、先輩との会話が成立していなかった。


あかり先輩は下を向いている僕に意地悪く「ゆうな君、唇が赤いよ」と言ってきた。僕は「ドキッ!」と驚いた。慌てて指で唇を拭ったけど、指は赤くならなかった。あゆみちゃんは口紅はしていなかった。あかり先輩は笑って僕を見て言った。「あゆみちゃんは口紅なんかしてないよ」ってね。僕は恥ずかしくて再び下を向いてしまった。


先輩は怒ってはいなかったけど、僕らの様子を見て何かを覚っていたのは確実だった。


そんなタイミングであゆみちゃんのお母さんが帰ってきた。お母さんは「外は暑いね、あかりさんこんにちは、あなたたち休憩して良いよ」と言ってくれた。なので僕ら3人は休憩室に入り、あゆみちゃんが麦茶をグラスに注いでくれて椅子に腰を下ろした。


休憩室の冷房で僕とあゆみちゃんの汗がやっと止まった。あかり先輩はアイスを食べながら「このアイスはね、限定品なんだよ、甘くて美味しいよね」と言って場を盛り上げてくれた。僕らもアイスを食べた。実際美味しかった。


そしてあかり先輩は再び僕に「唇が赤いよ」と言ってきた。「えぇっ」と思ったけど、実際溶けたアイスで唇が赤くなっていた。それまで黙って食べていたあゆみちゃんも「みんな赤いよ」と言って笑い出した。やっといつもの3人の雰囲気に戻った。


あかり先輩は「熱くなるのはわかるけど程々にねと」僕らに忠告した。あかり先輩の優しさが僕の火照った体を覚ましてくれた。アイスを食べ終えてあかり先輩は帰って行った。


お母さんは今日はもう帰って良いよと言ってくれた。僕は帰り支度を済ませて挨拶をして外に出た。外はまだまだ蒸し暑かった。僕の後ろで自動ドアが開く音がした。振り返るとそこにはあゆみちゃんが立っていた。


でも何か言おうとしていたけど、下を向いていて言葉が言葉にならなようだった。だから僕は笑顔で「もう危ないから脚立から落ちないでね」と言った。


あゆみちゃんはゆっくり喋り出した。


「さっきは助けてくれてありがとう。まだお礼を言っていなかった」


「もしゆうな君が居なかったら私怪我をしていたし。ゆうな君も怪我が無くて本本当に良かった」


「なのに私怒ったりしてごめんなさい。私を助けてくれて本当にありがとう」と涙声て喋った。


予想外の展開で僕は驚いた。


「僕は大丈夫だよあゆみちゃんも怪我が無くて良かったね」と言った。


そしてあゆみちゃんに近づき、つま先立ちになってあゆみちゃんの頬に優しくキスをした。


僕は「これでおあいこだよ」と言った。


突然の出来事で驚いたみたいで、あゆみちゃんの顔は林檎の様に真っ赤に染まていた。


でも直ぐに笑顔になってくれた。それでお互い見つめ合って笑い出してしまった。


外はまだまだ暑かったけど、僕らの周りだけはもっと暑かったはずだ。                                                               


そして明日も来るねと言いバイバイして別れた。明日のアルバイトも頑ろう。



読んでいただいてありがとうございます

積極的なあゆみちゃんに翻弄されるゆうな君でした。

でも優しいあかり先輩でした。

次回は夏休みが終わります

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