アルバイト初日
夏休みの1/4が過ぎて、ようやく僕も本格的な夏休みに入ることができた。
これであゆみちゃんの家の薬局でアルバイトができるようになった。これは夏休み前から決まっていたことだけど、僕の諸事情で学校からのアルバイト許可が出るのが遅れていたんだ。
アルバイト初日の前日に、あゆみちゃんからLINEで「覚えることがたくさんあるから、ペンとメモ帳を持ってきてね」と言われていた。ドキドキしながら準備したよ。あゆみちゃんの家の薬局は、商店街の一角にあった。チェーン店みたいな大きなお店じゃないけど、地域密着で人気の薬局だった。
ご両親ともに薬剤師さんで、お父さんは近くの大学病院で働いていて、家の薬局はお母さんが経営している。あゆみちゃんも放課後に手伝うことはあるけど、基本はパートさんを雇っている。でも、子供さんが夏休みに入るとパートさんが出勤できない日が増えるから、アルバイトを探していて、僕に白羽の矢が立ったわけだ。
僕にとっても、初めてのアルバイトになる。最初はあゆみちゃんと一緒に働けると思って楽観していたけど、いざ前日の夜になるとドキドキしてあまり寝れなかった。9時半の開店時間の1時間前、8時半に着くように言われていたので、8時半前に到着した。自動ドアを手で開けて「おはようございます」と声をかけると、エプロン姿のあゆみちゃんが奥から出てきた。
前日にも挨拶は済ませていたけど、改めてあゆみちゃんのお母さんに「今日からよろしくお願いします」と挨拶をした。お母さんは「大変だと思うけど、とりあえずあゆみの言うことを聞いてね」と優しく言ってくれた。ペンとメモの持参を確認されて、あゆみちゃんの指導が始まった。
まずは「お客さんが入店したら、笑顔で『いらっしゃいませ』って言うように」と。それをメモする僕。次に店内の商品案内。僕は何回も買い物に来てあるお店だからある程度は詳しいと思っていたのに、意外と知らないことが多くて必死にメモした。「この商品は売り切れになりやすいから、無くなったら倉庫からすぐ持ってきてね」とか、あゆみちゃんの説明が続く。
あゆみちゃんの顔は、僕の知らない商売人のあゆみちゃんだった。一度にたくさん言われて「大丈夫?」と心配そうに聞かれたけど、「だ、大丈夫……」と言うのが精一杯。正直、メモを取っても頭に入るのは半分くらいだったよ。そしてレジ打ちの練習。これも、見てるのと自分でやるのとは全然違って難しかった。
レジを練習モードにしてあゆみちゃんが実演してくれた後、僕がやってみる。バーコードが上手く読み込めなかったり、同じ商品を2回スキャンしたりと散々。でも、何回か繰り返すうちに少し慣れてきて、あゆみちゃんが「最初は私が隣で見てるから大丈夫だよ」と笑顔で言ってくれたけど、既に僕はもういっぱいいっぱいだった。
2人で店内外を掃除してから、お店の前に出す商品を綺麗に並べて、開店時間になった。僕はあゆみちゃんが作ってくれた【見習い中】のプレートをエプロンの胸に付けていた。そして早速、自動ドアが開き、入店のチャイムが店内に響いた。お客さんに「いらっしゃいませ」と声をかけた。初めてだったから、とても緊張したよ。
次にお客さんが商品を持ってレジに来た。最初はあゆみちゃんがやって見せてくれた。当たり前だけど、とてもスムーズで上手だった。僕の知らないあゆみちゃんの姿が、そこにいた。次のお客さんがレジに来た。どうやら常連さんらしく、あゆみちゃんは「大丈夫だから」と僕がレジに立った。今までの人生で味わったことのない緊張感が襲ってきた。
あゆみちゃんは「お客さんに新人なので」と言って笑顔で僕をフォローしてくれた。僕はおどおどした手つきだったけど、バーコードを読ませてお金を受け取り、お釣りとレシートを渡して「ありがとうございました」と言った。
ほっとした瞬間、そのお客さんがあゆみちゃんに話しかけた。「新しいアルバイトの人なの?もしかして 弟さん?」ってね。あゆみちゃんは「はい! 今日から始めました。でも弟じゃないですよ」と笑顔で答えた。お客さんは「そうなんだ。でも可愛いバイトさんね。頑張ってね」と言って退店していった。あゆみちゃんは「弟だって」と笑ってレジから離れていった。
やっぱり、あゆみちゃんの方が背が高いから並ぶと弟に見られているらしい。あゆみちゃんは商品棚をチェックし始め、倉庫から商品を持ってきては並べていた。その間にもレジにお客さんが来て、僕が1人で対応した。ドキドキしたけど、何とか上手くできた。そして、何人ものお客さんが僕の胸の【見習い中】プレートを見ては「あゆみちゃんの弟さん?」と聞かれてしまった。その数を最初は数えていたけど、10人を超えたあたりから数えるのを忘れた代わりに、レジ打ちにも慣れてしまった。
その内に処方箋を持ったお客さんも来店して、薬剤師のお母さんが対応していて、凄いなと思った。白衣を着て薬の説明をしている姿は、プロって感じだったよ。お母さんにレジを変わってもらい、あゆみちゃんが倉庫に案内してくれた。何処に何があるのかを説明するけど、種類が多すぎて当然1回では覚えられないので必死にメモしていた。そして、あゆみちゃんがやっていたように商品を補充して棚に並べていたら、お昼の時間になった。
休憩は一人ずつで、店の奥の休憩室だった。でもお昼はお母さんが用意してくれて、美味しかった。休憩後もレジ打ちをしたり商品を並べたりしていたら、運送のトラックが到着した。僕とあゆみちゃんの2人で大きな段ボール箱を台車に載せて何回も倉庫に運んだ。店内はエアコンが効いているけど、外と倉庫内には冷房が効いていないから、すぐに汗だくになったよ。あゆみちゃんの輝く額の汗が眩しかった。
そんな事をしていたら、あかり先輩が来店した。「こんにちは、あゆみちゃんいる?」といつもの元気な声で入店した。あかり先輩も常連客で、注文していた新商品のコスメを買いに来たようだった。「暑いからアイスを買ってきたから、後でみんなで食べて」と袋をあゆみちゃんに渡していた。
あかり先輩はあゆみちゃんと親しく話してからレジの方に向かってきた。【見習い中】のプレートを付けた僕を見て「エプロン姿も可愛いね」と笑顔で言って、僕の頬を赤く染めさせて喜んでいたよ。あゆみちゃんはレジ裏のBOXから先輩が注文したコスメを出して、僕にレジ打ちをさせた。
僕は恥ずかしかった。だって、あかり先輩は僕をジロジロ見てるんだもん。バーコードを読ませてお金をもらい、お釣りとレシートを渡してあかり先輩に「ありがとうございました」と頭を下げる。「ゆうな君、ちゃんと働いているんだ」と僕をからかって困らせて楽しんでいたよ。
お母さんもあかり先輩と親しいみたいで、「私がレジに立つから、3人で休憩室で休んだら」と言ってくれた。あゆみちゃんが入れてくれた麦茶と貰ったアイスを食べてたよ。あかり先輩はあゆみちゃんに僕の働きぶりを聞いていた。心配したけど、あゆみちゃんは「よく働いてくれている」と言ってくれた。あかり先輩は安心したようで、「分からない事はあゆみちゃんに聞いて頑張りなよ」と励ましてくれた。嬉しかったよ。やっぱりあかり先輩は凄い人だと思ったね。
そして夕方になり、僕のアルバイト初日が終わった。明日も同じ時間に来てねとあゆみちゃんに言われて帰宅した。
母も心配していたけど「大丈夫だよ、明日も行くよ」と言って安心させた。全て初めてのことだらけだったけど、明日からも続けられそうな気がした。
読んでいただいてありがとうございます
アルバイト初日を無事に終えたゆうな君でした
次回も初めてです




