母には見せられない記念写真
白い布を勢いよく捲った瞬間、ブース内にどよめきが広がった。
そこにあったのは、純白のタキシードと、純白のウエディングドレスだった。
僕とあゆみちゃんは同時に目を丸くし、野次馬のように集まっていたクラスのみんなも「ええっ!?」という声を上げた。
男女逆転のコンテストだから、当然あゆみちゃんがタキシードで、僕がドレス──そんな組み合わせが一目でわかった。あかり先輩は、にこにこと笑っていた。これも全部、あかり先輩の仕業なんだとすぐに理解できた。
15周年記念大会という名目で女装&男装のコンテストで盛り上げ、僕とあゆみちゃんにウエディングドレスとタキシードを着せたかったんだろう。自分だって黒のタキシード姿で、完璧に花婿役を演じている。破天荒で、でも優しさが同居している──それがあかり先輩だった。
痔で苦しんでいた僕を優しく助けてくれ、何故か女装の世界に引き込み、あゆみちゃんとの出会いをくれた。クラスで暗かった僕が、今、こんなに楽しい学生生活を送れているのも、全部あかり先輩のおかげだ。先輩は満面の笑みで、僕らを見た。
「着ますか?」
女装でミニスカートの制服もメイド服もドレスも着てきたけど、ウエディングドレスは別次元だった。流石に驚いた。でも、心の奥では──着てみたい、と思っていた。こんな機会、二度とないだろうから。それに、何よりあかり先輩を喜ばせたい気持ちが勝っていた。
あゆみちゃんを見ると、彼女も目を丸くして驚いていたけど、すぐに笑顔になった。クラスのみんなが「着ろ着ろ!」と煽り立てる。あゆみちゃんは僕に優しく微笑んでから、先輩に向かって「着ます」と答えた。僕も続けて「着ます」と頷いた。
生徒会の人がトルソーから衣装を丁寧に外し始めた。最初に僕がブース内の簡易更衣室へ。カーテンを閉めて、深呼吸。もう二度と着ることはないだろうウエディングドレスの袖に、そっと腕を通した。
長袖で、腕の部分がレースで透けていて、すごく繊細で綺麗だった。胸元は──男の僕でも自然に隠せるデザインで、ホッとした(笑)。サイズも、まるで測ったようにぴったり。
さすが、あかり先輩の準備は完璧だっだ。
外では、あかり先輩があゆみちゃんのメイクを手直ししている声が聞こえた。僕らは社交ダンス用のメイクのまま来ていたから、手直し程度で済むらしい。やっぱり背中のファスナーが最後まで上がらず、生徒会の女子先輩に手伝ってもらった。小道具のネックレスを付けてもらい、ブーケを受け取る。
更衣室内の鏡に映った自分を見て、息を飲んだ。色んな女装をしてきたけど、ウエディングドレスの破壊力は圧倒的だった。可愛いとか綺麗とか、もうそういう次元じゃなかった。もう、完全に花嫁さんだ。カーテンを少し開けて、外を覗く。あゆみちゃんのメイクが終わりそうだったので、思い切ってカーテンを開けて出て行った。
当然のように、歓声が沸いた。「ゆうな、めっちゃ綺麗!」「花嫁さんじゃん!」「可愛すぎる!」超恥ずかしかった。顔が熱くなった。あゆみちゃんはウエディング姿の僕を見て、頬を赤らめていた。
今度はあゆみちゃんが簡易更衣室へ。
僕は椅子に座らされ、今度はあかり先輩が僕のメイクを手直ししてくれる。ダンス用のメイクをベースに、少し柔らかく、華やかに。久しぶりのあかり先輩のメイクは、一番安心するタッチだった。クラスのみんなに見られながらウエディングドレス姿でメイクされるなんて、恥ずかしさはもう麻痺していた。
メイクが終わると、ウィッグを被せてもらい、髪をアップに結って髪飾りを付けてくれた。完璧な花嫁さんになった。みんなに「こっち見て!」と言われて、恥ずかしいけど振り向いて視線を送る。スマホのシャッター音が鳴り響く。本当に恥ずかしかった。
でも、あゆみちゃんの着替えがまだ終わらない。
そこであかり先輩が「テスト撮影してみようか」と言い出した。僕の手を引っ張って立たせ、グリーンバックの前に連れて行く。そして、なんと自分の横に立った。「えっ、あかり先輩と撮るんですか!?」驚いたけど、一度動き出したあかり先輩は絶対に止まらない。
「テストだから!」と写真部の人に強引にシャッターを切らせる。クラスのみんなも最初は驚いていたけど、173cmの長身で黒タキシードのあかり先輩と、ウエディングドレスの僕を見て、うっとり見入っていた。先輩は「露出は合ってる?」「照明大丈夫?」「レンズ変えてみようか?」と、何枚も撮らせていた。
まだあゆみちゃんが出てこない。後で聞いたけど、この時にあゆみちゃんは着替えが終わっていて、カーテンの隙間から楽しそうな先輩を見て笑いを堪えていたらしい。
僕はただ「着替え遅いな……」と思っていた。
テスト撮影と言う名の撮影は続き、PCで合成画像を見たり、椅子に座って撮ったり。みんなにあかり先輩とのウエディング姿を見られて、恥ずかしいけど超楽しかった。
でも、ついにあゆみちゃんが痺れを切らしてカーテンを開けた。純白のタキシード姿のあゆみちゃんは、凛々しくて格好良かった。
先輩の顔が少しガッカリしたのが印象的だったけど、あゆみちゃんは「これからは私の番だよ」と楽しそうに笑っていた。
でもね、先輩は「これが最後!」と言って、僕の肩と足に手を置き、勢いよく僕を持ち上げてウエディング姿の僕をお姫様抱っこしてしまった。でも重そうで「早く撮って!早く!」と写真部の人に言っていた。僕はびっくりして真顔だった。あゆみちゃんは呆れた顔で見ていたね。
それから花婿さんがあゆみちゃんに交代。純白のタキシードとウエディングドレスがブースに映えて、すごく絵になっていた。あゆみちゃんもシャッター音に酔いしれて、楽しそうにポーズを取る。クラスのみんなもスマホでパシャパシャ。
でもね、あゆみちゃんはあかり先輩の様に僕をお姫様抱っこしたいみたいだったけど、僕の体重を聞いて諦めた顔が可愛かった。僕が「ごめんね」と言うと、彼女は少し残念そう。
だから、僕があゆみちゃんを持ち上げてお姫様抱っこをしてあげたよ。僕よりも背が高いあゆみちゃんはちょっと重かったけど、あゆみちゃんは嬉しそうに笑っていた。でも純白のタキシード姿の花婿をお姫様抱っこするウエディング姿の花嫁という僕ららしい写真になったよ(笑)
それからあかり先輩の提案で、クラスのみんなも入ってもらうことに。僕とあゆみちゃんをセンターに座らせ、周りをみんなで囲む。まるで本当の結婚式の記念撮影みたいで、みんな笑顔だった。
最後にあゆみちゃんが「あかり先輩も入って、3人で撮りたい」と言った。
花嫁の僕を中心に、両サイドに花婿さん──普通なら可笑しな構図なのに、僕らにとっては最高の思い出になった。
あかり先輩と出会えて、こんな楽しい学生生活が送れるなんて、夢のようだった。
あかり先輩、ありがとう!
色んな余韻を抱えながら帰宅した。
母の反応が気になっていたけど、リビングには僕の大好きな唐揚げとケーキが並んでいて、「おめでとう!」と笑顔で迎えてくれた。本当に、幸せな一日だった。
でも母にはウエディングドレス姿の写真は見せられないよ(笑)
ここまで読んでいただいてありがとうございます
これで長かった学園祭編は終了です
大団円みたいですが物語はまだ続きます




