Shall we ダンス?
日曜日の朝になった。昨日は寝坊気味だったけど、今日はアラームが鳴るだいぶ前に目が覚めてしまった。普段なら二度寝してしまうのに、今日は完全に目が冴えてしまっていた。
今までに色んな緊張で起床時間より早く起きる事は何回かあったけど、今日が一番早いかも。
興奮と緊張が混じって、昨夜もなかなか寝つけなかった。
でも、グッスリ寝ることができたから眠くはなかった。布団から起き上がり、スマホで僕とあゆみちゃんの社交ダンスの動画を何回も見て、心の中で「落ち着け、落ち着け」と言い続けていた。
鏡の前で深呼吸を繰り返し、ようやく心拍が少し落ち着いた気がした。
朝食の時間になり、テーブルに座ったけど、緊張であまり食べられなかった。
母がそれを見て、「大丈夫?」と心配そうに聞いてきた。
僕は正直に今までの事を語った──女装と男装のコンテストで、あゆみちゃんと社交ダンスのパフォーマンスをする事をね。
母は「そんな大切なことを今まで言わないなんて!」と怒ったけど、すぐに「でも、女装の社交ダンスでも大きな舞台で踊れるなんて凄い事だよ」と励ましてくれた。
それで、「今日の学園祭は絶対に見に行くからね」と言ってきた。
僕は女装&男装コンテストのスタート時間が14時からだと伝えた。
母はあまり食べていない僕を見ておにぎりを握ってくれた。「これ持って行きなさい。頑張ってね」
母にお礼と再びコンテストの時間を伝えて、家を出た。今日の母の優しさが、心の支えになったよ。
学校に着くと、校門は昨日と同じように入場待ちの列ができていた。
僕は1Aの教室に向かった。
今日も模擬店はあるけど、全て13時30分までの営業時間になっていた。
それで全校生徒は強制参加じゃないけど、14時からの女装&男装コンテストのスタート時間には体育館に行けるタイムスケジュールになっていた。
僕は1年生だから昨年までの事は知らないけど、女装&男装コンテストのパフォーマンス審査がメインイベントになっているようだった。もしかしたら、これも生徒会副会長のあかり先輩の仕業かも知れない。
今日はコンテストのパフォーマンスがあるから、昨日みたいに模擬店の喫茶店を手伝う事は免除されていた。1Aの教室に行ったら、廊下で何やら男子が数人で段ボールを切ったりしていた。何をやってるんだと近づいたら、ポップ看板を作っていた。
でもね、笑ってしまったよ。何故ってさ、昨日の僕のピンクのメイド服姿の等身大のポップ看板を作っていたんだ。
聞いたら、昨日の僕の評判が良かったのに、今日は僕が客引きをしないから、それで少しでも売り上げに影響が出ないようにと急遽考えたと言ってきた。
昨日の僕をたまたま撮っていた女子のスマホからデータを取り出して、等身大に近いようにカラープリンターで印刷して、それを繋ぎ合わせているところだった。
正直、急に思いついてそれを実行できる1Aのクラスの纏まりに驚いたね。
それで僕も僕自身の看板の制作を手伝ったよ。そんな事をしていたら、あゆみちゃんが表れた。
「何してるの?」って話しかけてきたけど、等身大のピンクのメイド服の看板を見て笑い出してしまった。でも、真剣に作業している僕と男子の姿を見て笑うのを止めて、手伝ってくれたよ。
それで僕のポップ看板は出来上がって立ててみたら、大きかったよ。
僕の身長は158cmなのに165㎝くらいはあったね。
僕もこれくらい大きかったらな....と思ってしまったよ。
でも、急遽作った割にはとても上手く出来上がっていたよ。
それで、みんなから隣に立つように言われて並んでみたら、あゆみちゃんに写真を撮られてしまった。結局、クラスのみんなに同じように撮られてしまったよ。
でもみんなから「ちょっと大きすぎたね」と笑っていたけどね。
あゆみちゃんもスマホを弄っていて、おそらくあかり先輩に僕とピンクのメイド服の僕との2ショットをLINEで送っているようだった。
それで、すぐに返信が届いて画面を見て笑っていた。僕も気になっていたから画面を見せてもらったけど笑ってしまった。
画面には「それ欲しい!」とね。
そんな事をしていたら、高橋さんが近づいてきて、僕らにコンテストの集合時間の確認をしてきた。集合時間の12時45分前には体育館の控室になっている空き教室に行くようにね。その時間前には着替えも済ませておくようにもね。
それは僕も知っていたけど、改めて言われるとドキドキしてしまったね。
時間は進んで、喫茶店を開く時間になってミーティングが始まった。高橋さんが仕切って、タイムスケジュールの確認を入念に言っていた。
そして、閉店後は14時から始まる女装&男装コンテストの体育館に行くように言っていた。パフォーマンスの審査は拍手の量で決まるから必ず行くようにとね。
そう、パフォーマンスの審査は審査員がいる訳ではなく、見てくれる人の拍手の量で決まると聞いていたから、応援は多い方が良いわけで、高橋さんがそう言ってくれて嬉しかった。
でも、みんなからは「必ず行くから心配するな」と言ってくれて、僕は安心したよ。僕とあゆみちゃんは2日目の模擬店の喫茶店は手伝う事は免除されていたから、時間まで人があまり来ないA号棟の3階の廊下で練習をしていた。
そこは、僕とあかり先輩とあゆみちゃんの3人が初めて出会った思い出の場所だった。
何回か踊って、あゆみちゃんが語りだした。「もしここでゆうな君とあかり先輩に出会っていなかったら、今こうして2人で踊っていなかったね」と、ちょっと思い出を語るように言った。
僕も高校に入学してこんな風になるなんて予想外だったから、今が夢のようだねと言ってしまった。これも全てはあかり先輩のお蔭だった。
だからこそ、あかり先輩の前で良い結果を出せるように頑張ろうねと語っていたら、あゆみちゃんのスマホに着信が入った。みゆきちゃんからで、母が衣装を持って到着したよと話していた。
そこで急いで1Aの教室に戻り、本番用の衣装を受け取り、更衣室に向かい着替えた。
昨日はメイド服で今日は社交ダンス用のドレスと、僕は何をやっているんだと思ったけど、ドレス姿も似合っているなと思う自分が怖かった。
でも、相変わらずファスナーが最後まで閉める事が出来ずに、更衣室の前で待っていてくれたあゆみちゃんに上げてもらったよ。それで、ドレスとタキシード姿で1Aの教室に戻ったよ。でも、ドレスとタキシード姿で廊下を歩いたら注目の的だったね。
それで1Aに戻ったら、朝急遽作った僕のポップを撮影している人がいて嬉しかったね。
そして、僕らは廊下の端でクラスのみんなに見られながら、あゆみちゃんは先生に、僕はみゆきちゃんに社交ダンス用のメイクをしてもらった。あゆみちゃんは男装の麗人に、僕は昨日とは違い可愛いメイクから舞台映えする濃いメイクになった。クラスのみんなは初めてあゆみちゃんの男装メイクを見る事になったけど、みんなに格好良いと言われて恥ずかしがっていたね。
でもメイク中にお腹が鳴いてしまった。どうしようか?と考えたら、ロッカーに母が作ってくれたおにぎりがあるのを思い出した。そこでロッカーに行き母が渡してくれた紙袋を開けて見たら大きなおにぎりが2つ入っていた。なので1つはあゆみちゃんにあげたよ。そして仲良く2人で食べたよ。中身は僕の大好きな唐揚げだった。あゆみちゃんも美味しいと言って食べてくれた。
集合時間が近づき、僕はあゆみちゃんと一緒に体育館近くの控室として使われている教室へ移動した。そこは既に他のクラスのペア達で賑わっていて、みんなの顔には緊張の色が濃く浮かんでいた。
空気は重く、誰かがため息をつく音が時折響く。僕自身も胸がざわついて、落ち着かない気分だった。
そんな中、控室の片隅に、生徒会の人と打ち合わせをしているあかり先輩の姿があった。
昨日はピンクのメイド服に巻き髪のツインテールで、可愛らしさを前面に押し出していたのに、今日は一転して黒のタキシードをビシッと着こなし、長い髪を後ろで束ねている。長身の体躯が相まって、まるで男装の麗人だ。きっと、この姿に心を奪われる女子生徒が増えるだろうな、と思った。
僕だって、ちょっとドキッとしてしまったくらいだ。
あかり先輩は、そんな緊張した空気を察知するかのように、各ペアに優しく声をかけ回っていた。「大丈夫よ、みんな練習してきたんだから。笑顔で楽しんでね」みたいな言葉を、穏やかな笑顔で投げかける。僕らにも近づいてきて、「ゆうな君、あゆみちゃん。準備はできた? 楽しみにしてるよ」と優しく言ってくれた。
昨日の可愛らしい先輩とは違い、真剣さの中に温かみがにじむその表情が、なんだかとても嬉しかった。僕の心が少し軽くなった気がした。
やがて、みんなで並んでステージ袖へ移動した。袖から覗く体育館は、父兄たちも含めて超満員。熱気がムンムンとして、まるでライブ会場みたいだ。もしかしたら、この中に母さんもいるのかな、と思った。僕の女装姿を見たら、どんな顔をするだろう。
時間になり、BGMが流れ始めた。あかり先輩がステージに登場し、マイクを握る。
「みなさん、こんにちは。私は生徒会副会長のあかりです。そして、第15回女装&男装コンテスト、15周年記念大会の総合プロデューサーで、今大会の司会も務めさせていただきます」堂々とした声が体育館に響き渡った。
先輩は続けて、審査方法を説明した。「審査員は観客の皆さんです。皆さんの拍手の量で決まりますが、騒音計を使って厳密に測定しますので、公平ですよ」それから、各ペアを呼び込み始めた。
僕らのA組を先頭に、ステージへ入場。A組からE組までが横一列に並ぶ。
満員の観客を前に、僕の足が少し震えた。
先輩のインタビューはA組の僕らからスタート。先輩がマイクを向けてくる。
「A組のゆうな君とあゆみちゃんのペアですが、資料によると社交ダンスを披露するそうですね。綺麗なドレスですね?」
「はい、社交ダンスを教えてくれた先生が用意してくれて、今日のメイクもしてくれました」僕の声は少し上ずっていたけど、何とか答えた。
「男女を入れ替えての社交ダンスというアイデア、面白いですね?」
「はい、何をしようか迷っていたら、クラスの女の子が社交ダンスをしていて、やってみない? って言われて挑戦してみました」
次に、あゆみちゃんにマイクが移る。
「男女入れ替えの社交ダンスは大変でしたか?」
「はい、大変でした。普通の社交ダンスは男性がリードするんですけど、体力的にきつかったです」「今日は私もタキシード姿だけど、あゆみちゃんのタキシード姿も似合っていますね?」
あゆみちゃんは少し照れくさそうに、「これもダンスの先生が用意してくれました。でも、あかり先輩の方がタキシードが似合っていますよ」と返した。
観客から小さな笑いが起きた。全クラスのインタビューが終わり、最初のペアを残して僕らはステージ袖に戻った。パフォーマンスの順番は選挙の順位が低い方から。
僕らは他のクラスの演目を袖から見なかった。代わりに、あゆみちゃんと手を繋ぎ、最終確認を繰り返した。お互い緊張でじっとしていられず、何か動いていないと気が狂いそうだった。
最初のペアのパフォーマンスが終わり、大きな拍手が沸く。あかり先輩のインタビュー声が聞こえてくる。そのペアは泣いているようだった。次に、選挙4位のペアが呼び込まれる。僕とあゆみちゃんは、緊張で手を強く握り合い、その場で軽くステップを踏んでいた。ステージ袖では、みゆきちゃんと先生が見守ってくれていて、それが心強かった。
コンテストは続いて、2位のペアがステージに上がり、僕らの出番が近づく。緊張がピークに達し、あゆみちゃんの鼓動が手に伝わってきた。2位のパフォーマンスが終わり、先輩のインタビューが聞こえる。もうすぐだ。みゆきちゃんと先生と僕ら4人で円陣を組み、「頑張ろう!」と声を合わせた。4人でハイタッチをし、先輩はそんな様子を温かい目で見ていた。
そして、あかり先輩の声が響く。「次はいよいよ最後のペアです。選挙で1位になりましたA組のゆうな&あゆみペアです。男女逆になっての社交ダンス、どうぞ!」
あゆみちゃんが笑顔で「Shall we ダンス?」と言ってきた。その言葉に僕も笑顔で頷き、あゆみちゃんは僕の手を握りステージセンターへ導いた。
一旦止まり、ワルツの音楽が流れ始める。リズムに合わせて踊り出す。最初は苦戦したステップやターンが、本番では綺麗に決まる。スカートがヒラヒラと綺麗に舞いあゆみちゃんのリードに身を任せ、僕は楽しんで踊った。
90秒はあっという間。センターに戻り、拍手を受ける。無事に終わり、ホッとして笑顔になった。
あかり先輩が僕にマイクを向ける。「無事に踊り終わりましたね」「はい、とても楽しかったです」次にあゆみちゃん。「今日のダンスはどうでしたか?」「上手くゆうな君をリードして、上手く踊れました」ハキハキとした答えに、先輩も嬉しそうだった。インタビューが終わり、ステージ袖に戻る。
僕ら4人は笑顔でパンパンとハイタッチをし、苦労を分かち合った。
全クラスのパフォーマンスが終了した。
あかり先輩がステージセンターに立ち、各ペアの感想を語る。その間に生徒会の人によって集計が行われた。しばらくして集計結果の紙が先輩に渡された。先輩は一読し、各ペアを再び呼び込む。
まずは今日のパフォーマンス部門の順位を5位から発表。
ドキドキしながら僕らは手を繋ぎ祈っていた。5位、4位、3位……と僕らの名前は呼ばれず。
でも、残念ながら2位で呼ばれてしまった。1位にはなれなかったけど、全力で踊ったから後悔はない。
次に、選挙とパフォーマンスの合計点を5位から発表。
再びドキドキが始まる。5位、4位、3位……呼ばれず。残るは2位と1位のみ。
あゆみちゃんが僕の手を痛いくらいにギュッと握る。先輩が2位を発表――僕らじゃない。
そして、「総合1位はA組のゆうな&あゆみペアです!」大きな歓声と大きな拍手に包まれ、ステージ上であゆみちゃんと抱き合って喜んだ。僕の人生で初めての1番だ。
優勝インタビュー。先輩の「おめでとう」に、僕は涙声で「ありがとうございます。本当に嬉しいです」と答えるのが精一杯。あゆみちゃんも涙声で「ありがとうございます。社交ダンスでは1位になれなかったけど、応援してくれた人のお蔭で優勝できました。本当にありがとうございました」ステージ袖でみゆきちゃんと先生が抱き合っているのが見え、嬉しかった。
先輩は僕らにハンカチを貸してくれて、涙を拭う。
先輩が語りだす。「実は、出場者の皆さんには隠していましたが、優勝者にはオプションのサービスがあります。それは女装&男装のままで、写真部のブースで優勝記念の写真撮影のオプションですけど、受けますか?」僕は悩んだが、あゆみちゃんが即答で「はい、やります」先輩は嬉しそうに、
「それでは20分後にお二人とも制服に着替えて、写真部のブースに集合してください」先輩は「出場してくれた各ペアの皆さん、本当にお疲れ様でした。きっと高校生活の良い思い出になったと思います。再び大きな拍手を!」とコンテストを締めくくった。
僕らはステージ袖に戻り、4人で再びハイタッチと握手をし、みゆきちゃんと先生にお礼を言った。
でも、20分後には写真部のブースへ。更衣室へ急ぎたいが、クラスのみんなに囲まれ「おめでとう!」の嵐。色々大変だったけど、クラスのみんなの応援が一番嬉しかった。
僕はあゆみちゃんにファスナーを少し下ろしてもらって更衣室へ。大事なドレスをハンガーに掛けて急いで制服に着替えた。更衣室を出るとあゆみちゃんがそしてみゆきちゃん待っていた。僕はドレスをみゆきちゃんに渡した。一言お礼を言いたかったけど、早くいかないと時間だよと言われて一言「行ってくるね」と言ってあゆみちゃんと写真部のブースへ急いだ。
写真部のブースでは野次馬化したクラスのみんなが僕らの到着を待っていたよ。
写真部の催し物は学園祭の人気コンテンツのコスプレ写真館。写真部OBの貸衣装屋さんから借りてきたメイド服や漫画やアニメ衣装を着て、グリーンバック前で撮影し、背景合成してデータを貰ったりプリントアウトするサービスだ。
ブースにはタキシード姿のあかり先輩が待っていて、「ゆうな君あゆみちゃん総合優勝、おめでとうございます」と言ってから説明を始めた。
「今回は優勝者のお二人には優勝者に相応しい特別な衣装を用意してあります。それは目の前の白い布で隠されている中にありますので、お二人でその布を捲ってください」とあかり先輩の声がブース内に高々と響き渡った。
僕はそのあかり先輩の高揚した声にちょっと驚き武者震いが走ってしまった。でもあゆみちゃんと共に1歩2歩と前に進んで一緒にトルソーを覆っている白い布を掴んで、あかり先輩のカウントダウンに合わせて勢いよく白い布を捲った。
つづく
ここまで読んでいただいてありがとうございます
今回のタイトルの【Shall we ダンス?】は社交ダンスをネタにしようとした時から考えていました
色々と調べましたがここまで書くのは大変でしたがようやくダンスから解放してもらえそうです
次回は特別な衣装が披露されます
正直その特別な衣装の為に長い物語を書いてきました
その衣装を当てられる方が居たら嬉しいです




