ビューティフル・ドリーマー
いよいよ、明日の土曜日から学園祭が始まる金曜日になった。
今日の授業は午前中のみで、昼休み以降は学園祭の準備の総仕上げ。
それまで手伝いを免除されていた僕とあゆみちゃんとみゆきちゃんの3人も、さすがに準備を手伝うことになった。
1年生の催し物は全クラス喫茶店。
我が1A組は「味で勝負する喫茶店」
教室を綺麗に掃除してから、机を並べてテーブルクロスをかけ、借りてきたカップ等を丁寧に洗ったり、雰囲気を出すために飾り付けをしたり。
みんなで協力して、教室が少しずつおしゃれな喫茶店らしくなっていく。
そんな中、校内放送であかり先輩の声が響いた。
そては、女装&男装コンテストの投票を促す放送で、本日15時が投票締め切りとなりますとアナウンスをしていた。勿論、僕とあゆみちゃんは、事前に一緒に投票したよ。
入場券と学生証を持って、空き教室の投票所へ。高校1年生の僕らには、初めての本格的な投票。
入場券と学生証を提示して本人確認されるだけで、緊張してしまった。
15年の人生で、こんな経験は初めてだったからね。
投票所にあかり先輩がいるんじゃないかと思ったけど、それは叶わず。
上級生が監視員として座っていて、それも緊張を煽った。投票用紙をもらい、1Aの「ゆうな&あゆみ」の欄に○を付けて、半分に折って投票箱へ。時間としては数分だけど、ものすごく長く感じた。
投票自分に投票するなんて、もう最初で最後のはずだと思ったからね。
もし記名方式だったら、指が震えて書けなかったかも。
でも、クラスのみんなは「僕らに投票したよ」って言ってくれて、嬉しかったよ。
投票は終わったけど、結果はまだわからない。
他のクラスも強そうで、不安しかなかった。あゆみちゃんも「自分に○付けたとき、緊張しちゃった」って言ってた。
「自信はあるけど、1位だったらいいね」そう言いながら、ダンス教室に通っていた。
――今日は、みんなで普段の殺風景な教室を、少しでも雰囲気が出るように頑張っていた。
身長158センチの僕は高いところに手が届かないから、
椅子に座ってカップを拭いたりしていた。
そんな時に、高橋さんが大きな紙袋を持って教室に入ってきた。「ゆうな君、いる?」僕は「ここにいるよ!」って手を挙げたけど、
作業でみんなが忙しくて見つからないみたいで、
もう一度「ゆうな君!」って呼んだから、立ち上がってアピールしたよ。やっと気づいてくれて、近づいてきて、
大きな紙袋を僕に渡してきた。「ごめんね、注文してたピンクのメイド服がやっと届いたの。ちょっと着てみてくれない?」その瞬間、クラスのみんなの手が止まって、視線が集中した。
実は注文ミスで到着が遅れていて、学園祭に間に合わないかもと思っていた。
学園祭前日にやっと届いたんだ。みんなが「早く着替えてこいよ!」って煽る中、
僕は袋を受け取って、更衣室に急いだ。
制服を脱いで、万が一用の黒スパッツを穿いてから、
ピンクのメイド服に袖を通した。白のニーハイとカチューシャもね。
心配してたサイズはほぼぴったりで、安心した。胸のリボンが大きくて、フリルがいっぱい。
更衣室の大きな鏡で自分の姿を見て、思わず笑顔になった。メイクはしてないけど、十分に可愛い。
白ニーハイが足を綺麗に見せて、カチューシャもワンポイント。僕のチョイス、間違ってなかった。
でも胸が欲しかったけど大きなリボンがそれをカバーしていた。
思わずスマホで自撮りしてしまった。でも、みんな待ってるから、急いで教室に戻った。
学園祭前日の廊下は、準備で忙しい生徒たちでいっぱい。
ひと際目立つピンクのメイド服姿で人込みを縫うように歩く。当然、僕に視線が集まる。
「あいつが1Aのゆうなか……」
「可愛いな……」痛い目線もあったけど、嬉しくて気持ち良かった。
可愛い服を着てるのが、嬉しくて嬉しくて、目線を感じるのも嬉しくなってしまった。
もう、ちょっと前の僕とは違う僕がいた。
1Aの教室に戻ると、みんなから「あかねちゃん、可愛い!」を連発された。
明日はクラスの女子がメイクしてくれることになってたから、メイド服を汚さないように注意しながら、練習でメイクを受けた。
でも、あゆみちゃんがチラチラ僕を心配そうに見てるのが可愛かった。
きっと、自分でメイクしたいんだろうなってわかってて、それが愛おしかった。
メイクが終わって鏡を見せてもらった。
この前より可愛くなったけど、あゆみちゃんの方がまだ上手いかも。
――今日もダンスの練習があり、駅前の教室に行く時間が近づいていた。そこで、高橋さんが「みんなでクラス写真撮ってみない?」って提案。「いいね!」とみんな賛成して、
僕とあゆみちゃんをセンターにして、セルフタイマーで何枚か撮った。
ピースしたり、笑顔だったり。
そんな撮影中、校内放送であかり先輩の声が響いた。「先ほど投票を終了した女装&男装コンテストの開票を行い、投票結果が出ましたのでお知らせします」教室が一瞬で静まり返った。あかり先輩は続けた。
「細かい投票数は控えますが、投票の少ない順に発表します。この順位が日曜日のステージ順になります」僕の心臓が、ドクドク鳴った。
隣にいたあゆみちゃんの手を、思わず握ってしまった。
あゆみちゃんの手からも、鼓動が伝わってきた。
あかり先輩が「それでは発表します」と言って、
5位から順にペアの名前を読み上げていく。発表の度に遠くの教室から、歓声やため息が聞こえてくる。3位まで発表されたけど、まだ1Aの名前は呼ばれなかった。そして2位の発表――隣の隣の1C組のペア。その瞬間、1A組は沸きに沸いた。
僕とあゆみちゃんはハイタッチして、抱きついて泣いていた。
クラスのみんなが「おめでとう!」って僕を叩いてくる。
痛かったけど、無茶苦茶嬉しかった。
その後、スピーカーから、
「1位は、1A組のゆうな&あゆみペアになります」と流れてあかり先輩の声が、
「ゆうな君、あゆみちゃん、1位おめでとうございます」
「投票は圧倒的な差で1位になりました。本当におめでとうございます」
「日曜日のステージも、1年生の代表者のみんな、頑張ってください」
目の前で言ってくれなかったけど、あかり先輩から「おめでとう」を言われたことも、嬉しかった。
その後、もう一回クラス写真を撮って、
僕は更衣室で制服に着替えて、メイド服を綺麗に畳んで袋に入れた。
一度教室に戻ってダンス教室に行ってくるねと挨拶をしてから、
3人で駅前の社交ダンス教室を目指して歩いていた。
昨日の木曜日のレッスンで、先生から「明日の金曜日は総仕上げよ。本番用の衣装とメイクで、ステージの袖から出て踊り終わって袖に戻るまで、一連の流れを練習するからね」と言われていた。なので、今日はちょっと楽しみだった。
ビルの階段を登り、2階の社交ダンス教室のドアを抜ける。このドアを通るのも、あと数回だと思うと、ちょっぴり寂しさが込み上げてきた。
最初は恥ずかしさと緊張でいっぱいだったのに、今ではここが第二の居場所みたいになっていたんだよね。ドアを開けて入ると、先生がいつもの明るい声で挨拶してくれた。
でも、すぐに「ゆうな君、もうメイクしてるの?」と笑われてしまった。はっと気づいて、顔が熱くなった。そう、学校から時間がなくて、メイクを落とさずに来てしまっていたんだ。
慌ててトイレでメイクを落とし、女性用のメイクをみゆきちゃんがしてくれた。
社交ダンス用の濃いメイクで、目元が強調されて、鏡の中の自分が別人みたいに華やかだった。
もうメイクには慣れていたけど、この濃さはあゆみちゃんには無理だろうなと思った。
次に、あゆみちゃんの男装メイク。これは先生が担当してくれた。初めて男性用のメイクをしたあゆみちゃんを見たけど、本当に男の人みたいで、凛々しかった。
輪郭がシャープになり、目力が強くなって、ステージ映えしそう。
この男装メイクも、日曜日の本番は先生が学校でしてくれるって言ってくれて、嬉しかった。ダンスのレッスンからシューズ、衣装、メイクまで、本当にお世話になりっぱなしだ。良い結果でお返ししたい気持ちでいっぱいだった。
本番用の衣装を着て、シューズも履く。あゆみちゃんとお互い見慣れないメイクで、思わず笑いそうになってしまったよ。
健太君が「ゆうな兄ちゃん、本当の女の子みたいで可愛いね! もしかして、みゆき姉ちゃんより可愛いかも?」って無邪気に言った瞬間、みゆきちゃんがポカンと健太君の頭を叩く姿が面白くて、みんなで笑いが爆発した。
軽くウォーミングアップをして、本番のリハーサルへ。レッスン場の端から歩いてセンターに立ち、90秒のワルツを踊り切り、端に戻るまでを繰り返した。
もう踊るのが楽しくてたまらない。ステップが体に染みついてきて、あゆみちゃんのリードに自然と体が応じる。あゆみちゃんも同じ気持ちらしく、もっと踊っていたかった。
そんな時、みゆきちゃんが誰かと電話しているのが目に入った。高橋さんと話しているようだったけど、しばらくするとダンス教室のドアの外が騒がしくなってきた。
何かと思ったら、ドアが開いて、クラスのみんなの顔がどっと現れた。全員じゃないけど、半分ぐらいはいたと思う。高橋さんが「クラスの喫茶店の準備が早く終わったから、みんなで応援に来たよ!」って笑顔で言った。
嬉しかった。みんな準備で疲れているはずなのに涙が出そうだった。
「早く踊れよ!」の声に押されて、僕らはセンターに立った。練習で昼休みにも踊っていたけど、本番用のメイクと衣装とヒールの高いシューズを穿いた僕とあゆみちゃんを、みんなが食い入るように見つめている。音楽が流れ、僕らは踊り始めた。回転の瞬間、視線を感じながらも、体が自然に動く。汗が額を伝うけど、楽しさが勝つ。ダンス教室の床全体を使って踊る。
踊り終わると、自然に拍手が沸き起こった。「凄い!綺麗だった!」「頑張ったね!」の声が重なり、嬉しくて嬉しくて、泣いてしまった。隣を見たら、あゆみちゃんも涙目。「泣くなよ、こっちまでもらい泣きするじゃねえかよ」って誰かが言って、みんなが笑った。
でも、良い雰囲気の中で、僕らはみんなの前なのに手を繋いで泣いていた。今までの苦労──触れ合いの恥ずかしさ、汗の戸惑い、ステップの失敗──が、ようやく報われた気がした。
その流れで、「みゆきちゃんのダンスも見たい!」の声が上がった。みゆきちゃんは驚いていたけど、みんなの熱気に押されて、健太君と踊りを披露することに。僕らも端で見た。
本気のみゆきちゃん姉弟のダンス──背中に武者震いが起きた。凄かった。回転の滑らかさ、息の合ったリズム、優雅な上下動。3週間ちょっと練習した僕らだからこそわかる、そのレベルの高さ。
自然と涙が出てきた。踊り終わり拍手の嵐に、僕も手を叩いた。
あゆみちゃんがどう思ったか聞きたかったけど、怖くて聞けなかったよ。僕らのペアも、このくらいになりたいと思ったけどね。
みゆきちゃんはみんなに囲まれて、「プロみたい!」と言われて恥ずかしがっていた。先生も手を叩いて喜んでいた。
今日1日で、クラスの絆の強さを感じた。最初は僕もみゆきちゃんも目立たない存在だったのに、今ではみんなが友達みたいになっていて、良い雰囲気。
明日の土曜日の学園祭初日はメイド服で喫茶店の客寄せを頑張り、日曜日のステージもみんなの応援を力に変えて頑張ろうと誓った。
帰宅して、布団に横になりながら、濃い今日1日を振り返った。
そして自撮りしたメイド服の写真や、僕とあゆみちゃんがセンターのクラス写真をあかり先輩にLINEした。すぐに返信が。
「選挙1位おめでとう! ピンクのメイド服、可愛いね。明日からの学園祭、楽しみだね。私も最後の学園祭を精一杯楽しむから、あかねちゃんもしっかり楽しんでね」
そう、あかり先輩は3年生。だから、僕らと同じ高校生としての学園祭はこれが最後になる。
来年の学園祭には、もうあかり先輩はいないんだと思ったら、自然と涙が溢れてきた。
ちょっと寂しくなって、学園祭前日の今日の日付が変わらないで、寝て起きたらもう一度金曜日にならないかと祈っていたけど、気づいたらスマホを握ったまま土曜の朝になっていたよ(笑)
ここまで読んでいただいてありがとうございます
今回で長かった学園祭の準備編は終わりで、次回よりいよいよ学園祭の本編が始ます
エピソードタイトルのビューティフル・ドリーマーと最後のゆうな君の気持ちが分かる人が居てくれたら嬉しいのですが
宜しければ感想やレビューをお願いします
学園祭の本編はラスボスが大暴れしますお楽しみ下さい




