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夏休みの予定

社交ダンス教室から帰宅する途中、

僕はスマホを取り出して、あかり先輩にLINEを送った。


【学園祭のパフォーマンス、社交ダンスに決まりました! 同じクラスの子がダンスの達人で、その子の母親が駅前のビルの2階で社交ダンス教室をしていて明日からレッスンが始まります】【あゆみちゃんと一緒に頑張ります】


いつもなら、すぐに既読がついて、

長い励ましのメッセージが返ってくるのに……

今日は、なかなか既読にならない。


「忙しいのかな」と思ったよ。

夜9時頃に部屋でスマホの動画を見ながら、習ったストレッチをしていた。

背筋を伸ばしたり、脚を広げて腰を落としたり。

まだぎこちなくて、鏡の前で何度もやり直す。

――これで本当にダンスできるのかな……。


そんなとき、スマホが震えた。

あかり先輩からだった。

【ごめんね、コンテスト用のポスター制作とショート動画の編集をしていて、LINEに気づかなかったの】

【社交ダンスに決まったんだね。頑張ってね】


あっさりした返信。

いつもなら、「ノリノリで返信で絶対優勝よ♡ どんな衣装にするの? 私もレッスンを見たいな!」

みたいな長文が来るのに。 先輩が総合プロデューサーとして、

遅くまで高校に残って僕らのために作業してるんだろうな、と思うと、

なんだか申し訳なくなった。


返信もせずに、ベッドに倒れ込んだ。でも、すぐにまたスマホが震えた。

今度はあゆみちゃんから。

【ゆうな君って、夏休みは何やる事とかあるの?】

僕は部活もしてないし、アルバイトの予定もない。だから

【特別にやる事は無いよ】

と返信すると、すぐに既読がついて、

【そう良かった】【また明日ね♪】


短いけど、なんだか嬉しそうな感じが伝わってきた。

僕は少し照れながら、スマホを置いて目を閉じた。

今日の疲れが、心地よい眠気を誘う。


――翌朝。

母に「今日から学園祭の準備で、毎日帰りが遅くなるよ」と伝えた。

「ふーん、がんばりなさい。でも、ちゃんとご飯食べてね」母はそう言ってくれた。

……女装で社交ダンスをするなんて、絶対言えないし普段の女装だって知らないはずだ。


学校に登校して朝のホームルーム。

高橋さんが教壇に立って、クラス全員に発表した。

「昨日話してた、学園祭のコンテストパフォーマンスが決まりました! ゆうな君とあゆみちゃんのペアで、社交ダンスにします!」

教室がどよめいた。男子の一人が、すぐに言った。

「社交ダンスって、テレビで見たことあるけど、難しそうじゃん。誰かに教えてもらえるのかよ?」

確かに、僕もそう思う。


ダンスなんて、誰かに教わらないと無理だよな……。高橋さんはにこっと笑って、

「それは大丈夫です。このクラスには、社交ダンスの達人がいたんですよ」教室中が

「え、誰!?」ってざわついた。

高橋さんは一旦止めて、みんなの視線を集めてから、

「それは、みゆきちゃんです! みゆきちゃんのお母様が先生で、駅前のビルで社交ダンス教室を開いてるんです。みゆきちゃんも協力して、教えてくれることになりました!」

「うおおお!」

クラスが一気に盛り上がった。 目立たないみゆきちゃんが、そんな才能を持ってるなんて、

誰も想像してなかったみたい。


みゆきちゃんは少し照れくさそうに、

でも嬉しそうに頰を赤らめていた。高橋さんが続けた。

「昨日、私は生でみゆきちゃんのダンスを見ましたけど……本当に綺麗で、感動しました!」

みんなが拍手し始めた。高橋さんが

「みゆきちゃん、何か一言!」と振ると、 みゆきちゃんは立ち上がって、少し緊張した声で言った。

「ゆうな君とあゆみちゃんが、良い結果を残せるように、頑張って教えます!」また拍手が沸き起こった。


いい雰囲気でホームルームが終わるかな、と思っていたら――男子たちから、僕に向かって言ったんだ。

「社交ダンスって、スカートひらひらさせるやつだろ! 白いパンツが見えないようにしろよ、ゆうな!」続けて

「せめて、見えてもいいような黒のパンツ穿いてくれよな!」

教室中に大爆笑が広がった。僕は恥ずかしくて、顔が熱くなって死にそうだった。

返す言葉が全く浮かばず、ただ下を向いて耐えるしかなかった。


隣の席のあゆみちゃんは、笑いながらも目が笑ってる。 口パクで

「スパッツ、穿いてね」って動かしてるのが、余計に顔を赤くさせた。

女子達は「もう、ひどいよ!」って笑いながらフォローしてくれて、なんとか収まったけどね

……僕の白いパンツ騒動でクラス皆が沸いた事は恥ずかしかったけど、皆が僕の事で笑ってくれた事は嬉しかったよ。


――放課後。

みゆきちゃんは「家に寄ってから行くから、先に2人で行ってて」とのこと。

僕とあゆみちゃんは、2人だけで駅前のビルに向かった。道中、あゆみちゃんがぽつりと話し始めた。「私、放課後は家の薬局を手伝ってるんだ」 そうだった。

あゆみちゃんの家は薬局で、放課後は忙しかったはずで。

僕も気になってたけど、なかなか聞けなかったんだ。あゆみちゃんは、少し息を吐いて続けた。


「お母さんに言ったら、『1年生の時しか出られないコンテストなんだから、がんばりなさい』って」

「だから、学園祭が終わるまでは、手伝い無しで良いってなったの」僕はホッとして、

「良かった……忙しいのに、無理させてごめんね」でも、あゆみちゃんは少し悲しそうな声で、

「でもね、その代わり……夏休みになったら、手伝いの時間が長くなっちゃったんだ」僕は立ち止まってしまった。

あゆみちゃんの横顔が、少し寂しげに見えた。


でも一息ついて、あゆみちゃんは笑顔に戻った。

「でもね、お母さんが『友達でアルバイトしてくれる子を紹介してくれたら、短くするよ』って言ってくれたの」

「だからゆうな君、大丈夫だよね?」突然の言葉に、僕は固まった。

大きな目をくりくりさせて、僕を見るあゆみちゃん。嬉しそうな笑顔。


夏休みに、僕があゆみちゃんの家の薬局でアルバイト……?

一緒にアルバイトをするなんて、夢みたいで嬉しい。

でも、僕はアルバイトの経験なんて全く無いし薬局で働く事が出来るのか心配でおどおどした声で、

「家に帰ったら、親に聞いてみるね……」


でもあゆみちゃんは、もう決まったみたいに、

「重たい荷物とかは私がやるから大丈夫だよ、本当に簡単なことしかさせないよ。お願い!」

嬉しそうに言われて、断れる雰囲気では無かったよ。


これで、僕の夏休みの予定が、6月の中旬で決められてしまった瞬間だった(笑)。


駅前のビルの階段を登り、社交ダンス教室のドアを開けた。

今日からのレッスンが、どんな風になるのか……少し、不安だけど、あゆみちゃんと一緒だから大丈夫だと思ったよ



読んでいただいてありがとうございます

夏休みの予定が強引に決められてしまったゆうな君でした。

次回からはしっかり踊ります

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