あゆみの涙とゆうなのハンカチ
お腹が減ったので、フードコートでハンバーガーを食べた。
テーブルの上に置いたスマホが二台同時に震える。
先輩からのLINEだった。
『デートの様子どう?♡』
『私、応援早く終わりそうだからもうすぐ帰れるかも!』
あゆみちゃんが楽しそうに返信しているうちに、急に元気がなくなった。
フードコートに入る前にもトイレに行ったのに、また行きたいと言い出す。
「どうしたの?」
肩を抱いてゆっくり歩きながら訊ねたけど、
「大丈夫……」としか返ってこない。
駅に着き、昼過ぎの電車は空いていた。
ロングシートに座ると、僕は隣を軽く叩いて座るよう促した。
でもあゆみちゃんは首を振って、吊革を握ったまま立っている。
対面のまま、LINEで会話が始まった。
【どうしたの?】
既読がついて、しばらく経ってから返信。
【予定より早く……アレがきちゃって】
【いつものバックならナプキンあるのに、今日の新しいバックには入ってなくて】
【座ったらダメ……もう限界近いかも……】
涙目の絵文字がいくつも並んでいた。
僕は慌ててバックを探った。
──あった。 あかり先輩に「いつ何があるかわからないでしょ?」と言われて、以来ずっと持ち歩いている予備のナプキン。
最初は恥ずかしくて嫌だったのに、今はこれが役に立つなんて。
ナプキンをハンカチで包んで、そっとあゆみちゃんの手に渡す。
驚いた顔をしたけど、すぐに嬉しそうに自分のバックの中に入れて、ハンカチだけ返してくれた。
瞳に大粒の涙が浮かんでいる。
僕はもう一度ハンカチを差し出して、そっと涙を拭ってあげた。
僕は立ち上がり人の少ない車両の端の方にあゆみちゃんをエスコートした。
「もう直ぐ駅だから」と言って肩を抱いて励ましていた。
最寄り駅に着いて、ドアが開くなりあゆみちゃんが女子トイレに駆け込んだ。
僕はゆっくり歩いて、女子トイレの前で待つ。
しばらくして、メイクを直したあゆみちゃんが出てきた。
ホッとした安心の顔。いつもの優しい笑顔に戻っていて、僕も胸を撫で下ろした。
「大丈夫?」
「……ありがとう」
自然と手を繋いで、先輩の家に向かって歩き出す。
今度はあゆみちゃんの方が、ぎゅっと強く握り返してきた。
いつものたい焼き屋さんで、先輩の分も入れて3つ注文。
ちょうど餡が切れていて、新しく焼くから待っててねと言われた。
待っている間、あゆみちゃんはスマホを弄りながら、時々こっちを見て微笑む。
焼き立ての良い匂いがして、会計を済ませると今川焼きが一つサービスで入っていた。
「待たせちゃってごめんね」のおまけだ。
再び手を繋いで歩き出す。
もうすぐ先輩の家が見えるというところで、あゆみちゃんが立ち止まった。
「先輩と3人だと恥ずかしくて言えないから……今言うね」
少し涙声で、でもしっかりと僕を見つめて。
「今日は本当にありがとう」
「私、デートって初めてだったの」
「どうなるか心配だったけど……本当に楽しかった」
「本当に、ゆうな君で良かった」
そして、ちょっと膝を折って──
頬に、ふわりとキスをされた。
「また、二人だけでデートしたいな」
僕はちょっと嬉しかった。
再び歩き出して、門が見えた瞬間。
門扉から先輩が顔を出していた。
それを見つけたあゆみちゃんが走り出して、先輩に抱きついた。
そして、緊張の糸が切れたように泣き出した。
「デート楽しかった……!」
「下着屋さんもプリクラも……!」
「でも急に生理になっちゃって……」
「ナプキンなくて困ってたら……」
「ゆうな君がくれて……っ」
咽び泣きながら、言葉を絞り出すあゆみちゃん。
先輩は優しく背中を撫でて、
「怖かったね」
「私がいるから大丈夫だよ」
「もう大丈夫、大丈夫」
まるで以前、話していた、初潮で困っていた友達を保健室に連れて行った時の先輩と重なる。
突然の生理で困った妹を、優しくあやしているお姉さん。
僕はゆっくり歩いて、門の前で立ち止まった。
「ただいま」
「お帰り。大変だったみたいだね」
先輩はあゆみちゃんの肩を抱いて家の中へ。
お風呂が沸いているから、と促されて、あゆみちゃんは脱衣所へ。
僕はメイクを落として、ゆうなに戻った。
リビングで先輩が2人分のお茶を入れてくれて、先輩の横で今日の出来事を話す。
ナプキンを渡したところで、あゆみちゃんが泣いた話になると、僕も話ながら泣いてしまった。
「よく気づいて、ナプキン渡してくれたね」
先輩が優しく抱きしめてくれる。
「私は優しい妹を持って、本当に嬉しいよ」
先輩の涙が頬を伝って、唇と唇が近づいて──
あと少し、というところで廊下に足音がして、慌てて離れた。
ドアが開いてそこには、お風呂上がりのあゆみちゃんが立っていた。
先輩が貸してくれた部屋着が可愛くて、風呂上がりで頬が赤くなり石鹸の良い匂いが漂う。
でも、ちょっと気まずそうなすっぴんの顔がまた可愛かった。
先輩が3人分のお茶を入れ直して、冷めたたい焼きと今川焼きを温め直してくれた。
たい焼きを食べながら、あゆみちゃんは楽しそうに今日の出来事を先輩に喋る。
僕が話したのと同じ話を、初めて聞くように頷き笑って。
本当の姉妹みたいに。
ちょっと前までバラバラだった3人が、こんなにも温かい“家族”みたいな関係になっていた。
胸の奥が、じんわりと熱くなった。
あゆみちゃんは疲れとお風呂で温まったせいか、喋りながら眠ってしまった。
先輩と僕はソファーに寝かせて毛布をかけて、僕は静かに先輩の家を後にした。
外はまだ17時前で明るかった。
その夜、LINEが立て続けに届いた。
先輩
【あゆみちゃん18時頃起きてタクシーで帰ったよ】
【あゆみちゃんを守ってくれてありがとう】
【でも家の近くでキスしてたでしょ? 全部見えてたよ♡】
【どんな味がした?】【私とどっちがいいの?】
【あとプリクラ写真早く送って♪】
ヤバい、見られてた……!(笑)
続けてあゆみちゃんからも。
【私寝ちゃってた(笑)】
【今日は本当にありがとう】【楽しかったよ】
【ナプキンもありがとう】
【また2人だけで出掛けたいな♡】
【でも私がリビング入った時、何してたのかな?】
……月曜日の朝が怖いよ(笑)
そして木曜日の放課後
先輩の家に3人が集まりなんちゃって制服を着て撮影を楽しんだ。
プリクラデートの日、僕らが早く帰ると知った時に先輩はなんちゃって制服を着て、待ってようとしたらしい。でもあゆみちゃんの事を知った時に、それを止めたと。
だから木曜日の放課後に3人で集まりなんちゃって制服を着て撮影した。
2人づつペアになったり三脚を立てて3人で撮ったり暗くなるまで楽しんだ。
プリクラでは無かったけど3人でいる時間は、かけがえのない時間になっていた。
読んでいただいてありがとうございます
3姉妹の関係性が深まったお話でした
これでプリクラデート編は終わりです
次回より新章が始まります




