初めての女子トイレと
尿意とざわつきの初女子トイレ。
先輩が小声で注意。「必ず座って、音姫を使うのよ。忘れないで。
堂々と入って。絶対バレてないから、大丈夫」
トイレ内に入る。
当たり前だけど、男性用の便器なんてない。全部個室。
見慣れない風景に、一瞬驚く。ピンクのタイル、花のイラストの壁紙。
女の子だけの世界。
でも、それどころじゃない。尿意が限界。
開いてる個室を探す。一番奥の個室が空いてる。
鍵をかけて、間に合う。
ちゃんと座って、音姫のスイッチオン。
水音が響いて、ホッ。
少し冷静になって、思う。
「僕は男なのに……ショーツにナプキン、女装して、モールの女子トイレにいる」
また、少し完璧なあかねに近づいた気がした。
ナプキンを確認――汚れていない。安心。
でも、個室の端にある小さな箱に目がいく。
これが、先輩が言ってた「使ったナプキンを入れる箱か」か。
蓋を開けて入れるんだ……。
ざわつきが再燃。
「僕も、ここで交換したら……」
替えのナプキンはバッグにある。
しばらく葛藤。恥ずかしさと好奇心がぶつかる。
結局、交換せずに個室を出る。
手を洗い、ハンカチで拭いて、鏡で顔を確認。
あかねの笑顔が、そこに。
この世界、男は絶対知らない。絶対に見せられない、女の子だけの秘密。
トイレを出ると、先輩がまた誰かと話してる。
「またかよ!」
相手の顔を見て、固まる。同じクラスの男子――
クラスを仕切ってる、悪い奴じゃないけど、目立つグループのやつら。
一人で立っていた先輩をナンパしたらしい。僕のあかり先輩を。
会話から、僕と同じクラスだって気づいていて、また学園祭の会議で居眠りした嘘のエピソードを。
「ゆうなって、授業中いつも寝てるよな。昨日も居眠りして笑ったわ」
翌日、僕がクラスの笑いものになったのは、後日談。
でも、あのおかげでクラスに馴染んでいったんだ。
あかり先輩、ありがとう……。
トイレから出てきた僕を見て、先輩が「この子、どう思う?」って、男子たちに逆質問。
「可愛い!」「服似合ってる」「彼女にしたいわ」
僕は笑いを我慢した。
「こいつら、騙されてるぞ!」
笑いそうで、必死に抑える。
先輩も分かってるみたいで、くすくす笑顔。
「親戚の子で、あかね。中3よ」
男子たちが「中3なら、うちの高校受験してよ!」
先輩が「田舎の親戚の子だから、無理ね。残念」
残念がる男子たちを後にして、僕と先輩は歩き始める。
「もう、モールから出たい……」
なんかのゲームみたい。爆弾が上から落ちてきて、右に左に避けるような時間。
疲れ果ててる。
「そうね、もう出ようか。トイレ、どうだった?」
「緊張したけど、大丈夫でした。でも、あの箱……見てはいけないと思って、交換しませんでした」
先輩が優しく、「そうなの。あかねは優しいのね。
でも、それが女の子なんだよ。顔では笑顔作ってるけど、生理の時は大変なの。
女の子には、優しくしなさいね」 駅に向かいながら、自然と腕を組む。
先輩の温もりが、心を落ち着かせる。
読んでいただいてありがとうございます
女子トイレを克服したら同じクラスの男子に遭遇したゆうな君
次回はモールからの帰路です




