先生と同級生に
下着屋さんから出てお礼を言ってる最中、僕の後ろから声が。
「こんにちは、あかりちゃん」
何処かで聞いた、穏やかな声。
先輩が僕の肩ごしの後ろの人に挨拶。「こんにちは、関根先生!」
僕は凍りつく。お尻のケアをしてくれて、ナプキンを薦めてくれた命の恩人――
保健室の関根先生!
怖くて振り返れない。体が固まって、息が止まる。
先生と先輩が親しげに話す。「あかりちゃん、ゆうなくんの事ね。
あの後、保健室に来ないから心配してるのよ」
先輩が「ゆうな君を見かけたら必ず保険室にに行くように、
きつく言っておきますから。安心してください」
「でも、ゆうなくんってお礼にも行っていないんですね。これは叱らないと……」
と言いながら、先輩が僕の足を軽く踏む。
痛い! でも、声を出せない。
先生が、ふと僕に気づいて。「このお嬢さんは誰なの?
あかりちゃん、一人っ子のはずだし、高3の同級生にも見えないけど」
僕は下着屋さんの時とは別のざわつきが爆発。
心臓が胸を叩き割るように鳴る。
「こっちを見ないで、先生……お願い、このまま立ち去って」
祈るように目を閉じる。
でも、そんな事を先輩が許すはずがない。
強引に僕の肩を掴んで振り向かせ、「親戚の子で、あかねです。中3です」
胸が張り裂けそう。息が苦しい。
続けて、「田舎育ちで、週末だから遊びに来てるんです。都会に憧れてて」
僕に挨拶を促す。先輩が先生に見えないように、背中を指で突く。
早くとツンツンと。
「あかねです……中学3年生です。都会のお店は、人がいっぱいで凄いですね」
女声で喋る。声が上ずって、震える。
先生が優しく、「可愛い娘さんね中3だから、受験頑張ってね。
あかりちゃんみたいに立派な姉がいて羨ましいわ」
会釈して去っていく先生の背中を、僕達は見送る。
バレてなかった……ホッとして、力が抜ける。
先生が雑踏に紛れてから、先輩がくすくす笑い出す。
「焦ったね! まさかここで関根先生に会うなんて。運がいいのか悪いのか」
僕は肩を落として、「もう、心臓止まるかと思った……」
喉がカラカラ。汗が冷たくなる。
「喉渇いた。休憩しましょう」
モール内のコーヒーショップへ。
店内は混雑してるけど、何とか対面の席を確保。
座った瞬間、どっと疲れが押し寄せる。
体が沈み込むように。
先輩が心配そうに、「お尻は大丈夫? 座ってて痛くない?」
僕は頷いて、「多分大丈夫です。ナプキンが守ってくれてる」
アイスコーヒーを一口で一気に半分飲む。
冷たい液体が喉を滑り落ち、ようやく息がつける。
でも、先輩が眉をひそめて、「ダメよ。あかね、女の子はそんな飲み方しないの。
優しく、ゆっくりね」
注意されて、僕は反省気味に下を向く。
「ごめんなさい……興奮しちゃって」
そしたら、隣の席が空いて、新たに母と女子高生くらいの二人組が座る。
穏やかな会話が聞こえてくる。
僕は注意された余韻で、俯いたまま。
でも、また声が響く。
「あかり先輩だ!」って、少し驚いた感じの下級生風の声。
何処かで聞いた事のある声
先輩が目線を合わせて、女の子が「1年A組のあゆみです」
やっぱり。僕のクラスメイトで、しかも隣の席のあゆみ!
「なんでここにいるんだよ……」
先輩の頭の中では、「そのクラス、ゆうなと同じと思ったはず」
「ゆうなくんって知ってる?」
あゆみ「ハイ知ってます。隣の席ですから」
先輩の顔が、ぱっとほころぶ。
僕は下を向いたまま、首を横に何度も振る。
「やめて、先輩……」
でも、無理。
クラスでの僕の事を、アレコレ聞き出される。
「あゆみちゃん、ゆうなくんってどんな子? 最近、明るくなった?」
「うん、入学した頃に比べると、最近明るくなってきてる感じです。
暗くて目立たない子だったけど、優しいんですよ」
そんな風に、僕を見ていたのか……。
胸が熱くなる。嬉しいような、恥ずかしいような。
先輩とあゆみの会話が弾む。
でも、あゆみ聞く、「何でゆうな君のこと知ってるんですか?」
先輩が、さらっと嘘を。「この前の学園祭の会議で、ゆうな君居眠りしちゃって。
いびきかいてね。私、怒って何度も起こしたのに、その度に寝て困ったの。
だから、授業中も寝てるんじゃないか心配で、気になってたのよ」
それは嘘だ! 僕は会議中、寝てなんかいなかった。お尻が痛くて、俯いて耐えてただけ!
「あゆみちゃんにそれは嘘だ!と」言いたいけど言えない
思わず、テーブルの下で先輩の足を軽く蹴る。
でも、先輩が逆に僕の足を踏み返してくる。
痛っ! 完全に諦めモード。
そんな中、尿意が急に襲ってくる。
朝から水分控えてたのに、コーヒーで限界。
再び先輩の足を蹴る。
テーブルの下で、こっそりLINEを送る。「トイレに行きたいです……」
先輩のスマホが振動。メッセージを読んで、僕に小さく頷く。
ホッとする。
「私たち、これでいくね。あゆみちゃん、また学校で」
立ち上がる。
そのまま店を出るかと思ったら、先輩があゆみに僕を紹介し始める。
尿意を我慢してる僕を。
「この子は親戚の子で、あかね。中3なの」
僕は仕方なく、「あかねです……中3です」
クラスメイトのあゆみに、精一杯の女声で。
ばれないか、心配でたまらない。でも、トイレに行きたくて、それどころじゃない。
あゆみちゃんが「先輩の親戚の子ですね。同じくらい可愛い! あかねちゃん、バイバイ」って、手を振る。
僕も手を振り返す。教室で隣の席の女の子に。
先輩にも挨拶して、ようやく店を出る。
大急ぎで女子トイレへ。
読んでいただいてありがとうございます
女装姿で関根先生と同じクラスのあゆみちゃんと遭遇したゆうな君に新たな試練が
次回は初めての女子トイレへ




