初めての女装での外出
デート当日の朝。
目が覚めた瞬間から、胸の奥がざわついていた。
ベッドの上でゆっくりと体を起こし、
窓から差し込む柔らかな朝陽が部屋を優しく照らす。
僕はまだゆうなの姿――いつものTシャツと短パン姿で、鏡の前に立つ。
深呼吸を一つ。今日がその日だ。女装で外出する、初めての本格的なデート。
手が少し震えながら、新しいショーツを手に取る。
木曜日に先輩からもらったナプキンを、丁寧に貼り付ける。
ふわっとした感触がお尻に触れる瞬間、
守られているような安心感が広がる。
現実が押し寄せてくる。
「これで外を歩くのか……バレたら? 先輩に迷惑かけたら?」
不安が心をよぎるけど、それ以上にワクワクが勝る。
心臓の鼓動が、ドクドクと耳元で鳴り響く。
新しい組み合わせに包まれながら、僕は先輩の家に向かって歩き始めた。
朝の住宅街は静かで、時折通り過ぎる人々の視線が気になって、
足取りが速くなる。
でも、このざわつきが、なんだか心地いい。
先輩の豪邸に着くと、ドアが開く音が響いた。
「あかねちゃん! 来てくれたのね。早く入って、入って♡」
満面の笑顔で迎え入れてくれる先輩。
その笑みに、僕の緊張が少し溶けていく。
リビングに通されて、すぐにチェンジタイム。
ゆうなの服を脱ぎ捨て、あかねの姿へ。
まずは下着から。
背中に手を回し、木曜に練習した盛りブラを着ける。
パチン、という小さな音が部屋に響き、胸の締め付けが体を包む。
鏡に映る自分――肩幅が柔らかくカバーされて、女の子らしいシルエットが生まれる。
先輩が後ろから近づいてきて、優しく褒めてくれる。
「わあ、ブラ着けるの上手くなったわね。練習したんでしょ?」
僕は頰が熱くなって、照れくさく頷く。
「うん……家で、鏡の前で何回か。恥ずかしいけど、先輩みたいに上手くしたくて」
その言葉に、先輩の目が輝く。
「嬉しい♡ あかね、どんどん女の子らしくなってるよ」
小さな褒め言葉が、心を温かく満たす。
これが、姉妹の絆なのかな……。
服選びの時間。
木曜に選んだ3着の中から、僕はピンクのワンピースを選んだ。
コンセプトはちょっと大人っぽい中学3年生。
ふんわりしたスカートが膝下で揺れて、中3らしい可愛らしさを演出。
着てみると、体が軽くなるような気がする。
先輩は自分の173cmの長身を活かした、すらっとしたパンツルックにジャケットスタイル。
細身のパンツが脚を長く見せて、まるで女子大生みたい。
二人並んで鏡の前に立つと、完璧なコントラスト。
年の離れた美人姉妹――お姉ちゃんはクールで洗練された雰囲気、
妹は愛らしいピンクのワンピース。
メイクは中3を狙って、軽めに。
先輩の細い指が、チークを優しく乗せて、リップを塗ってくれる。
「可愛くしすぎないの。田舎から来た妹設定だから、自然にね」
そして、髪。
黒髪ロングのウィッグを用意してくれていて、二人で鏡の前でセット。
先輩の長い髪と同じように、軽くウェーブを入れて。
完成した姿に、僕自身が息を飲む。
美人姉妹の誕生。
この瞬間、僕は完全にあかねになれた気がした。
出発前に、先輩がふと思い出したように振り返る。
「あかね、お尻は大丈夫? 今日一日、外出だからね」
僕は頷いて、素直に答える。
「薬とナプキンのおかげで、だいぶ楽になりました。ありがとうございます、先輩」
でも、続けて本音がこぼれる。
「でも……ナプキンが、好きになっちゃって。今付けてるの、
木曜にもらったやつが一番フィットするんです。お尻が優しく守られてる感じが、安心するんですよ」
先輩の表情が、優しく溶ける。
「ふふ、女の子みたいね。あかね、どんどん本物の妹になってるわ。
もっと種類、試してみようか? 今日は予備も持ってきなさい」
その言葉に、胸が温かくなる。
この人、僕のすべてを、優しく受け止めてくれる。
先輩の家を出て、徒歩約7分の最寄り駅まで。
外の空気が、肌に直接触れる。
初めての女装外出――風がスカートを軽く揺らし、
ウィッグの髪が頰をくすぐる。
心臓が喉元まで上がってくるようなざわつき。
歩き方がぎこちなくて、先輩にすぐ注意される。
「あかね、内股で優しく。ガニ股になっちゃってるわよ。
女の子はもっとしなやかに」
「ご、ごめんなさい……」
頑張って女の子らしく歩こうとするけど、おぼつかない。
股間の違和感、ナプキンの柔らかい圧迫感が、歩くたびに意識を刺激する。
「バレたらどうしよう。先輩に迷惑かけちゃう……」
そんなプレッシャーで、足が震える。でも、必死に頑張る。
先輩の横顔を見ると、優しい笑みが。
「大丈夫。あかねは可愛いから、誰も疑わないわよ」
その一言で、少し勇気が出る。
商店街を通る。
遠くから、鯛焼き屋さんの焼ける甘い匂いが漂ってくる。
あんこの香ばしい匂いが、鼻をくすぐる。
先輩が目を細めて、「このお店、美味しいんだよ。
帰りに寄ろうね♡ あかね、鯛焼き好き?」
「うん、大好き……」
そしそしたら、お店の人が先輩に気づいて声をかけてくる。
「あかりちゃん、お出かけ? その可愛い子は誰?」
先輩がふざけて、「可愛いって、私ですよね?」 お店の人が笑って、「違うよ、そのワンピースの子だよ。可愛いねえ」
僕、頰が熱くなって、下を向く。
先輩が拗ねたふりで、「もう、ここで鯛焼き買わないからね!」
お店の人が慌てて、「ごめんね、あかりちゃん。あかりちゃんは可愛いより、美人さんだからさ!」って、
必死に機嫌を取る。
先輩が笑顔で「帰りに寄りますから」って言うのを見て、僕は思う。
この人、怒らせたら怖い。絶対に逆らっちゃいけない……。
小さなエピソードだけど、先輩の存在感に、ますます惹きつけられる。
電車に揺られて、12分。
ショッピングモールに到着。
数年前にできた新しいモールで、この辺りの若者たちの遊び場。
ガラス張りのエントランスから、賑やかなBGMと人の波が溢れ出す。
正直、知り合いに会う可能性が高い。
先輩の長身と美貌が、目立つんだ。
「今日は初めてだから、2時間くらいで帰りましょうね。無理しないで」
先輩の気遣いが、嬉しい。
でも、最大の問題はトイレ。
女装だから男子トイレは無理。女子トイレに入る勇気もない。
いくらバレない自信があっても、男の僕が入るのは、罪悪感で胸が痛む。
だから、今日は水分を控えてたのに……お腹が少し重い。
でも、そんな心配を吹き飛ばすくらい、
先輩とモール内を歩くのは楽しかった。
手をつないで、人ごみを抜ける。
「ここ、人気のカフェよ。スイーツが絶品。あかねの好きそうな大きな甘い苺のケーキがあるわ」
お気に入りのお店を、次々教えてもらいながら。
笑い声が混じって、最高に楽しい。
この時間だけは、すべて忘れられる。
読んでいただいてありがとうございます
とうとう女装で外に出てしまったゆうな君
あかねとして初めての外出が始まった
次回からあかり先輩に翻弄されるあかねちゃん編が始まる




