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ワンパン令嬢、指先ひとつで無双す  作者: 桜井正宗


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11/12

令嬢、処刑台に舞い降りる

 ──帝都広場。

 夜が明け、雲ひとつない空の下に処刑台が建てられていた。


 並べられたのは、帝都内で“アルシェ・クラインに協力した”とされる者たち。

 名もなき市民。店主。衛兵の妻。そして、その中に──


「セレスタ・ヴァルデン。反逆幇助の罪により、吊るし首とする」


 処刑執行官の声が、広場に響いた。


 


「アルシェ様は、戻ってきます。

 あの方はわたしたちを見捨てたりしない──わたしは、そう信じています!」


 セレスタが叫んだ。

 市民たちは、うつむく者、涙を拭う者、そして目を逸らす者。

 誰もが沈黙に押しつぶされようとしていた。


 


「……正義ってのは、ねえ」


 壇上の上。

 黄金の椅子に腰掛けた宰相ナヴァロは、面白そうに笑った。


「誰かを吊るせば、成り立つものなのよ。わかりやすいでしょ?」


 白い手袋をはめなおし、優雅に片手を掲げる。


「執行を──」


 


 ゴォォン……!!


 空が、鳴った。


 突如、雷鳴のような衝撃音が帝都に轟く。


 


「な、何事だ!?」

「上!? 上から何か──」


 


 そして──


 


 処刑台の中央に、“白い影”が舞い降りた。


 銀髪が風に揺れ、ドレスの裾が月光のように広がる。


 地に着地したその人影は、

 ──ワンパン令嬢・アルシェ・クライン。


 


「待たせたわね、帝都」


 


 瞬間、広場が沈黙した。


 誰かが、呆然とつぶやく。


「……帰ってきた……」

「アルシェ様だ……!」


 


「騎士団、包囲しろ! 射て! 撃てぇええええ!!」


 ナヴァロが金切り声を上げる。

 弓兵が一斉に構え、矢が空を埋め尽くす──


 


 アルシェは、指を構えた。


「わたしはね、恐怖で口を塞がれるのが、いちばん嫌いなの」


 ツン。


 指先が地面を突いた瞬間、広場の足元から轟音の衝撃波が爆ぜた。


 矢は空中で霧散し、弓兵たちは吹き飛び、騎士団の隊列は音を立てて崩れていく。


 爆風に巻かれずにいた市民が、呆然と見上げた。


 


「ワンパン……」

「令嬢が……帝都を……守った……?」


 やがて、拍手が──ひとつ、またひとつと広がっていく。


 


◇ ◇ ◇


 


「ナヴァロ・シュヴァイン。

 あんたがやってきたのは、恐怖による統治。

 わたしは──“その椅子”を指先で壊しに来たのよ」


「貴様ごときが、帝国の構造に逆らえると……っ!」


 ナヴァロが懐から魔導銃を引き抜き、魔力を込めて発砲。


 砲弾は光のように伸び、アルシェの胸を貫こうと──


 カッ。


 指先ひとつで、斜めに弾いた。


「甘いわね。暴力に頼る者は、暴力に負けるのよ」


 


 アルシェはゆっくりと歩き出す。


「わたしは恐怖で支配する女より、

 希望で前を向かせる女になりたいのよ──」


 ──ツン。


 人差し指が軽くナヴァロの玉座の土台を小突く。


 


 バゴォォン!!!


 ナヴァロごと、玉座は背後の政庁の壁を突き破り、瓦礫とともに大破。


 土煙の中、ナヴァロはかろうじて意識を保っていたが、もはや声を発する力も残っていなかった。


 


◇ ◇ ◇


 


 セレスタが縄を解かれ、崩れるようにアルシェに抱きついた。


「アルシェ様……やっぱり……!」


「ごめんね、遅くなって。火炎瓶と罵声には、ちょっとトラウマあって」


「……! もう……笑顔が戻って、本当によかった……!」


 


 市民たちの歓声が巻き起こる。


「アルシェ! アルシェ万歳!」

「帝国の希望だ!」

「この人こそ、新しいリーダーに──!」


 


 わたしは苦笑して、バジリスクの隣に並ぶ。


「王に、とか言われてるけど。あたし、ドレスより動きやすい服派なんだけどな」


「それでも、今のお前なら誰でも黙らせられる」


「ふふ、あんたまでそんなこと言うの? 調子狂うわね」


 


 夕日に照らされた政庁前。

 わたしとバジリスクは並んで歩き出す。


 恐怖の支配に、指先で決着を。

 “ワンパン令嬢”は、今や帝都の希望そのものだった。

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