第八話 引っ越しと揺れる思い
引っ越し当日は、朝から、慌ただしく動いていた。亜子は、前日に、雪絵に電話して、引っ越しする事を伝えた。雪絵が 「私、手伝いに行くね」 と言ったので、亜子が駅まで雪絵を迎えに行った。噴水広場で、雪絵と合流して、アパートまで帰った。アパートに着いた亜子達は、荷物を運び出している健太の元にむかった。雪絵は、すぐに
健太にむかって手を振りながら
「健太さ~ん! 来ましたよ」雪絵に気付いた健太も、笑顔で手を振り替えす。
「おはよう、雪絵ちゃん、わざわざありがとね。助かるよ」
「いえ、少しでも、お役に立ちたかったし、何より、健太さんに会いたかったんです」と、顔を真っ赤に染めて言った。そんな二人のやり取りを見ていた亜子が
「もう、お兄ちゃんも雪絵もラブラブ光線発射しないの。見てるこっちが、恥ずかしくなるよ」と、亜子が冷やかしを言った。健太は
「何だよ。その変なネーミングは! ただ仲良く話をしてただけだよ」
雪絵も、うんうんと、大きく頷いた。
健太は、荷物の入った、段ボールを抱え、引っ越しセンターのトラックに持って行く作業を繰り返していると、雪絵が
「私も、手伝います。半分持ちますよ」
「いやいや、重いからいいよ。俺なら大丈夫だから。雪絵ちゃんは、紙袋に入ってるやつとかを持って行ってくれる?」
「はい、分かりました」雪絵は、健太に言われ通り、荷物が入っている紙袋を持って行く作業をした。亜子は、空になった部屋の掃除をした。何とか午前中までには、荷物をトラックに詰め込めた。健太は、引っ越しセンターの社員に、実家の住所を書いた紙を渡し
「お願いします」と、トラックを見送った。
トラックを見送った後、亜子が
「じゃ、お兄ちゃん、私は、先に家に行っとくね。家の掃除しておかないといけないし。それに、晩御飯の支度もしなきゃね。ってことで、お兄ちゃん! 雪絵をよろしくね」
「分かった。じゃ、ごめんけど、掃除は頼むな! 俺達も、早めに家に行くから」と、健太は言って、亜子を先に行かせた。残った健太は、お世話になった大家さんに、挨拶をして、雪絵と駅に向かって歩いた。
健太達が、駅前に着いた頃、健太達がいたアパートの前に車が一台止まった。紛れもなく、麗子だった。麗子は、高笑いをしながら、健太が、住んでいたアパートに向かった。
「あぁ~、健太様のお住まいやっと見つけましたわ。健太様、ごめんくださいましぃ~」と、インターホンを鳴らす。しかし、反応はない。それも、そのはず健太は、いないのだから。麗子は
「健太様! 恥ずかしがらずに出て来てくださいまし」と、何度もインターホンを鳴らす。しかし反応がない。麗子は、玄関のドアノブを回してみた。ギギィィッと言う音をたてながら、ゆっくりと玄関のドアが開いた。 が、麗子は、部屋の中を見て、唖然とした。
「何で、何もないんですの? 確かに健太様のお住まいのはず……これは一体どういうことですの。健太様は、いずこ~」 と、アパート全体に、麗子の叫びがこだました。
一方、健太達は、駅前デパートの辺りを歩いていた。
「もう、昼だし、何か食べて行こうか? 雪絵ちゃん」
「そうですね。ちょうど、お腹も空いた頃だし、軽く食べたいです」
二人は、駅の近くにある喫茶店に入った。二人とも軽食を頼んで食べた。食後のコーヒーを飲みながら雪絵が
「何か、恥ずかしいですね。健太さんと、二人っきりで出掛けるの初めてだし。何かデートしてるみたい」
「そうだよね。いつもは、亜子も一緒だから! でも、たまには、いいんじゃないかな。二人で出掛けるっていうのもさ」 健太の言葉に、雪絵は、頬を赤らめた。
「あの、健太さん! 私は、健太さんの事がす……あっ、やっぱりいいです。私が、健太さんに触れても、気を失う事が無くなった時に私の気持ちをいいますね」
「ゆ、雪絵ちゃん。分かった。俺も、頑張って早く、この体質を治さないとね」と、お互い笑いあった。
健太と雪絵が、喫茶店で食事をしている頃、真樹と千夏も駅前に来ていた。千夏は、健太の
「これからも、仲のいい友達でいてね」と言う言葉が、ずっと胸の奥に引っかかっていた。思い出すだけで、瞳には涙が溢れてくる。そんな、千夏を心配して真樹は、千夏を外へ連れ出したのだ。真樹は、千夏を連れて、ショッピングを楽しんだ。だが、千夏は、うわの空。健太の事で頭がいっぱいだった。
「千夏、やっぱりまだ、如月くんの事、好きなの? 忘れられないの?」 「うん……健太くんの事忘れる事なんて出来ない。健太くんに好きな人がいたとしても、私も健太くんが好きだもん」と、涙を浮かべながら言った。それを見た真樹は
「なら、いつまでも、落ち込んでてどうするの? 如月くんが、もう一度千夏に振り向いてくれるよう頑張らなきゃ。千夏、勇気を出して一歩前に進みなよ」と、真樹は千夏の肩を押した。千夏は、瞳に溜まっていた涙を拭い
「私、頑張るから、絶対まけない。健太くんを振り向かせてみせるから」と、心の中で叫んだ。
健太達は、喫茶店を後にして、デパートの中を歩いていた。
「折角の休みなのに、俺達の引っ越しを手伝ってくれて、ありがとね。雪絵ちゃん! お礼に何か買ってあげるよ」
「そんな悪いですよ。私が、勝手に手伝っただけなんですから」
「それでも、いいから何か、お礼をさせて」
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらいますね」
「何がいい?」
「どうしよいかな? じゃ、携帯に付けるストラップがいいです」
「うん、じゃ、アクセサリー店に行こうか」
二人はアクセサリー店に向かい、どれにするか悩んで
「私、これがいいです」 と、雪絵が、手に取ったのは、犬の形をした皮製のストラップだった。
「健太さんも、一緒に買いましょうよ。私、健太さんとお揃いのを付けたいし」と色違いのストラップを取った。
「うん。いいよ。買おうか。雪絵ちゃんは、犬が好きなの?」
「はい、私、犬好きなんですよ。可愛いし」と子供のように無邪気な笑顔をして言った。健太は
「ちょっと、待ってて」 と、言って、健太は、もう一つ星のストラップを手に取り、会計を済ませた。
「はい、雪絵ちゃん!」「ありがとうございます。大切にしますね。そう言えば、もう一つ買ってたみたいですけど……」 「あ~、あれは、明日、友達の誕生日だから、プレゼントとして、買ったんだ」
「そうなんですか?」
「じゃ、そろそろ行こうかな」
二人は、駅に戻り、電車に乗って、一時間ほどかけて、健太の実家がある町に着いた。
駅から、そんなに離れてはいない健太の実家は、歩いて十分ぐらいの距離だった。すでに、健太の家には、引っ越しセンターのトラックが、荷物を下ろしている最中で、亜子が、対応していた。すぐさま、健太と雪絵は、亜子の元へ行き
「亜子、ごめんな。遅くなって」
「あっ! お兄ちゃん、雪絵! お帰り。トラック今、来たとこだよ」と、荷物の確認をしながら言った。
荷物をおろし終わったトラックを見送り、部屋の片付けを行なった。雪絵も手伝った為一時間足らずで、すべての作業が終わった。
作業が終わって、亜子が 「お兄ちゃん、これから、雪絵と、晩御飯作るから、疲れただろうし、部屋でゆっくりしときなよ。出来たら呼びに行くからさ」
「うん。分かった。じゃ、よろしく」と健太は、二階の自分の部屋へとむかった。
自分の部屋に入った健太は、ベッドに寝転び、ボーッと天井を眺めていた。すると、携帯電話が、着信を知らせる音が鳴る。健太は、携帯を開き、着信相手を見ると、千夏と画面は、示していた。 健太は慌てて、通話ボタンを押した。
「もしもし」
「あ、もしもし、健太くん? 千夏です」
「千夏ちゃん、どうしたの?」
「あの~? 今から、少し会えないかなぁ~? 健太くんに話したい事があるの!」
「えっ! 千夏ちゃん、ごめん、今日は引っ越しで、疲れてるから……」 「引っ越しって? 健太くんが?」
「うん……色々あってね。明日でも、いい?」
「そっか……分かったよ。じゃ、明日の放課後にでも、話しようね。ごめんね、健太くん、また、明日」と、言って電話を切った千夏の声には、覇気のない声だった。その声に不安を感じた健太は、「千夏ちゃんから、逃げてたら、駄目だよな。明日は、ちゃんと話をしよう」と、小さな声で言った。
亜子と雪絵は、楽しそうに、晩御飯の支度をしていた。支度をしながら、亜子が
「雪絵、本当にお兄ちゃんと付き合いたいの?」 「勿論だよ。私は、本当に健太さんを好きになったんだもん」
「そっか……」
「何? どうしたの? 亜子?」
「あのさ……多分、お兄ちゃん、今、すごい悩んでるのよね。私、知ってるの? お兄ちゃん、今、同じ学校に好きな人がいるみたいたのよ。でも、体質の事があって言い出せないでいるみたいなのよね」
「えっ! そんなぁ~……」
「だから、お兄ちゃんを本気で好きなら、早くしないと手遅れになっちゃうよ。ライバルは、多いと思う」
「そうだよね! ありがと、亜子! 私も、頑張らないと」
「ライバルが多いよね、私も、雪絵も」
「本当だよね」と、笑いあいながら、晩御飯の準備を続けた。
晩御飯の支度が、整い亜子が、健太を呼びに部屋へ向かった。
「お兄ちゃん! ご飯出来たよ。早く、食べようよ」
「はぁ~い。分かった。すぐ降りるよ」と、部屋を出た。亜子が、部屋の前で、待ってるのに、気付いた健太は
「亜子? リビングで待ってればいいのに?」
「別に、いいじゃない。それより、お兄ちゃんも、はっきり答えだしなよ。じゃないと、皆、傷ついちゃうよ。女の子にとって失恋は、痛手だからね」
「何だよ。急に?」
「私、知ってるんだよ。お兄ちゃん、同じ学校に、好きな人がいるって事はね」
「えっ! 何で、それを……」
「何年、お兄ちゃんの妹をしてると思ってんの。お見通しだよ。妹としては、お兄ちゃんが、選んだ人に、文句はないけど。その変わり、ちゃんと答えを出して決めなよ」 健太は、観念したように 「亜子には、隠し事、出来ないな。分かったよ。ちゃんと、答えだして決めるから」
「はい、よろしい。じゃ、ご飯食べに行こうよ」 と、リビングに降りてテーブルを三人で囲んでご飯を食べた。
ご飯を食べ終わった頃には、もう、空には、点々と星が輝いていた。
「あっ、もう、こんな時間だ。私、そろそろ帰りますね。今日は、ありがとうございました」と、雪絵が立ち上がって帰り仕度を始めた。健太は 「夜だし、雪絵ちゃん送って行くよ」
「いや、いいですよ。私の家、ここから近いですし、大丈夫です」
「本当に、いいの?」
「はい、あの、健太さん、今日は、ありがとうございます。ストラップまで、買って貰って、まるで、デートしてるみたいでした」と、恥ずかしそうに、下を向いて話した。健太も
「俺も、楽しかったよ。また、遊ぼうね。じゃ、気をつけてね」
「はい、じゃ、お休みなさい」雪絵は、健太に見送られて、家路に着いた。
健太は、雪絵を見送った後、自分の部屋へ戻り、これからの事を考えた。 「やっぱり、千夏ちゃんにも、俺の体質の事、言わないといけないな」
と、思いながら、健太は夢へとおちた。
そして、次の日……




