第七話 健太の決意
遊園地から、帰った後も、健太は、雪絵の笑顔を忘れられなかった。まだ、胸の高鳴りが、おさまらず、窓の外をぼんやりと眺めていた。そんな健太に亜子が
「お兄ちゃん! どうしたの? 何、黄昏てんのよ。もしかして、雪絵が、気になってる?」と、ニヤニヤしながら、健太の顔を覗き込んだ。
「えっ、ち、違うって……ゆ、雪絵ちゃんの事なんて考えてないよ」
図星をつかれた健太は、慌てて、言い訳をした。「いいよ、お兄ちゃん! 隠さなくても。雪絵は、可愛いし、すごくいい子だからねぇ~。でも、うかうかしてたら、とられちゃうよ! 雪絵は、自分では、モテないって言ってるけど、けっこう、雪絵って、モテるんだから」と、亜子は、健太の背中を叩いた。
「痛いって、雪絵ちゃんは、関係ないから」
「まだ、しらを切りますかぁ~? そんな、赤い顔をして。折角、雪絵のメアドと携帯の番号を教えてあげようと思ったのに。白状しなさぁ~い」と、亜子は、雪絵のメアドと番号の書いてある紙を健太の前でちらつかせた。健太は、観念して
「あ~、そうだよ。雪絵ちゃんの事、考えてたよ。今日は、俺のせいで、あんまり、遊べなかったし、今度、遊ぶ時は、もっと、楽しませてあげたいってね」と、健太は、亜子に、見透かされたのが、悔しかったのか、はぶてた口調で言った。
「素直で、よろしい。じゃ、これ」亜子は、雪絵のメアドと番号の書いてある紙を手渡した。
「でも、お兄ちゃん! これだけは、言っておくけど、いくら雪絵だからって、私は、お兄ちゃんの一番なんだからね。私は、雪絵にだって負けないから」と、亜子は、胸を張って言い放った。
「はいはい、分かってますよ。亜子姫は、俺の一番大事な妹ですから」
「う~、納得いかないぃ~。私が、妹じゃなかったら一番じゃないわけ? いいもん、妹の私は、所詮、お兄ちゃんの彼女になんてなれないんだから」
「分かったよ。言い直します。亜子姫は、俺の一番大事な人です。これでいいか?」
「うん!許してあげます。あっ、そう言えば、お兄ちゃんのメアドと番号、雪絵に教えておいたからね」
「いつの間に? まぁ、いっか。ありがと、亜子。じゃ、もう、遅いし寝ようか」と、目をこすりながら布団を敷いて、健太は、夢の世界に入っていった。
朝になって、健太は、いつものように亜子に、起こされ、朝御飯を食べている時、健太の携帯が鳴った。健太は、携帯を確認すると、雪絵からのメールだった。
「おはようございます。健太さん、昨日は、ありがとうございました。また、遊んでくださいね」と書いてあった。健太は 「おはよう、昨日は、こっちこそありがとう。また、誘うね」
と、すぐに返信した。
学校に行く途中も、雪絵とのメールのやり取りをした。健太は、気分よく学校に行っていると、後ろから、大地に声をかけられた。
「おっす、健太。おはよう! 何か、いい事でもあったんか? 顔が、ニヤケまくってるぞ」
「おはよう! 大地。まぁ、ちょっとな」
「何だ、何だ? 教えろよ。千夏の事なんか?」「いや、千夏ちゃんの事じゃないよ」と、健太は少しだけバツが悪そうな表情になった。それを、大地は見逃さなかった。 「健太……お前まさか……他に好き子が出来たのか?」
「実は……妹の友達を好きになったのかもしれない。その子の事を考えると、ドキドキするんだ」「お前という奴は、千夏ちゃんがいるのも関わらず、他の子がいいだなんて。何で、お前の周りには、可愛い女の子ばっかり集まるんだよ。不公平極まりない」
「いやいや、そんな事言われても」
「しかも、健太に妹がいるなんて聞いてなかったぞ。写真見せろや」
「別に、いいけど……」 健太は、携帯の亜子の写真を大地に見せた。
「まじで、お前の妹なの。すげぇ可愛いじゃん。やっぱ、世の中不公平だぁ~」と、立ち止まって、頭を抱えて嘆いた。そんな大地を周りの生徒が、クスクス笑いながら通り過ぎていく。健太も、知らない振りを決め込み、足早に大地の元を離れ学校に向かった。
一方、その頃、亜子の学校では、亜子と雪絵が、教室で楽しそうに話していた。
「雪絵、あんた、お兄ちゃんにどんな手を使ったのよ。お兄ちゃん、帰った後も、ずっと、雪絵の事を考えてたみたいだったし」
「本当に! うれしい! ちょっとは、健太さんとの距離が縮まったかな?」
「妹としては、複雑な心境なんですけど……」
「あはは、まぁまぁ、さっきも、健太さんとメールしたし、私は、本当に楽しくて仕方ないよ。また、健太さんと遊びたいな」と、雪絵は、健太とのデートを想像し顔を赤らめながら言った。
「雪絵! お兄ちゃんの一番は、私なんだからお忘れなく」と、亜子は言って笑いあった。
「そうだ、今度、遊びに来なよ。お兄ちゃんには、内緒にしとくから」
「うん、わかった」
健太はと言うと、教室に入って、自分の窓側の席に着き、千夏だけには、悟られないように笑顔を作り千夏と話をしていた。そこに、真樹が現れて
「おはよう! 千夏、如月くん。こんな朝っぱらから、御両人仲がよろしいですねぇ~。もう、秋だと言うのに、お熱い事で。私にも、分けてくださいな」と、おばさんくさい喋り方をしながらやって来た。
「何、言ってんのよ! 普通に話してただけじゃない! ね、健太くん」 「えっ! うん、そうだよね」
「どうしたの? 健太くん?」
「いや、何でもないよ……」と、健太は、慌てて手を振りながら言った。そんな健太を見て、二人は首を傾げた。真樹は、千夏にだけ聞こえるように、小さな声で
「如月くん、何かあったの? 何かいつもの如月くんじゃないんだけど……」
「真樹も、そう思う。私も、何か変だなって思ってたの?」
「そっか、じゃ、あいつに聞いてみるかな? 千夏も来なよ。気になってるんなら」
「うん……」と、千夏は、真樹の後を追った。
二人は、隣の教室に行き、大地を探した。机の上に突っ伏している大地を見つけ、真樹が声をかけた。
「ちょっと、中川! あんたに如月くんの事について、聞きたい事があるんだけど」
「何だよ、平沢? 健太の事って?」と、眠りを邪魔された大地は、不機嫌そうに答えた。
「今日の如月くん、何か変なのよ? あんたなんか知ってるでしょ。千夏も気になってんのよ。教えなさいよ」
「べ、別に、何もねえよ。平沢の勘違いなんじゃねえのか?」
「絶対、嘘ね! あんたは、隠し事してる時は、目をそらして話すんだから。バレバレなのよ」
大地は、舌打ちをして
「分かったよ、言えばいいんだろ。健太は、ただの恋煩いだよ。朝、健太に会って聞いたら、健太が、そう言ったんだよ」「如月くんが、恋煩いですって? あんた、またそんな嘘を言って」
「嘘じゃねえよ。健太が言ったんだよ」と、二人の会話を後ろで聞いていた千夏が、大地の発言にショックを隠しきれず、とぼとぼと歩いて教室を出て行った。 授業が、始まっても大地が言った言葉が、頭の中を回っていた。
「健太くんは、誰の事で悩んでるんだろう。私、それとも、真樹、麗子先輩?」と、心の中で葛藤するも、モヤモヤが消えないでいた。
健太も、千夏の事を考えていたが、千夏よりも、雪絵の方が頭から離れない。
「やっぱり、俺は、雪絵ちゃんが好きだ」と、自分に言い聞かせた。
放課後になり、健太が「千夏ちゃん、部活頑張ってね! それと、これからも仲のいい友達でいてね。それじゃ」と言って、教室を出た。千夏は、健太の後ろ姿を見ながら、涙をこらえ切れず涙が、頬に流れた。
アパートに帰った健太は、亜子に
「なぁ、亜子? 思ったんだけど……実家に帰らないか?」と、話を切り出した。
「どうしたの? お兄ちゃん? 私は、別にいいけど……実家から学校は近いし」
「いや、何だか実家に帰りたくなってさ。じゃ、来週の日曜日ぐらいに引っ越しするか」と、亜子に言った。
「いいの? お兄ちゃん、学校遠くなっちゃうよ。片道二時間かかるんじゃない?」
「いいよ。大丈夫だからさ。気にするなって」
そして、引っ越しの日がやって来た。




