第六話 ライバル宣言
健太に、とって日曜日は、天国だった。麗子と知り合ってからというもの、毎日、麗子に迫られ て気が抜けないでいた。 それに比べ、日曜日は、健太のアパートで、日がな一日のんびり出来ると思うと、健太は、嬉しく仕方なかった。が、亜子の一言で、のんびり出来るはずの日曜日が、なくなった。亜子が
「お兄ちゃん! 今日、なんだけど、さっき、友達から電話があって、今から、遊ぼうって」
「そっか! 気をつけて行って来なよ」
「何言ってんの~! 勿論、お兄ちゃんも一緒に行くんだよ」
「えっ! 俺も?」
「うん! 前言ったじゃん。紹介したい友達が、いるって。今日は、その子と遊ぶの」
「そっか、それじゃ、行かなきゃいけないね」
健太は、溜め息を一つ吐き、肩を落とした。
亜子に急かされ、準備をして、駅前の噴水広場に向かった。噴水広場に着いて、亜子は、辺りを見回していると、雪絵が、すでに待っていた。雪絵も亜子に気付き、手を振りながら、亜子のところへ走ってきた。
「亜子! おはよう!」「おはよう! 雪絵、お待たせ! 約束通り、お兄ちゃん連れて来たよ」と、亜子に言われ、亜子の後ろに目をやると、亜子の生徒手帳の中にあった、写真の人が、目の前にいた。雪絵は、慌てて「あっ、初めてまして。亜子ちゃんの友達の有村雪絵です」
「こちらこそ、亜子の兄の健太です。よろしくね! 有村さん」と、二人は、ご丁寧にお辞儀をしあった。
「あの~、亜子の生徒手帳に、入ってた写真より格好いいです」
「ありがと、そう言ってもらえて、うれしいよ! てか、亜子! 何で、写真入れてんだよ」
「まっ! いいじゃない! 私は、ずっと、お兄ちゃんと、一緒にいたいから」と、亜子は、惚けて見せた。
それから、三人は、亜子の提案で、遊園地に行く事にした。三人は、駅のホームに向かい、電車に乗り込み、四つ先の駅スペシャルランド駅で、降りた。駅名通り、駅のすぐそばに、大きな遊園地がある。
三人は、チケットを購入し、園内に入った。一通り、園内を回ってから、 亜子が
「私、メリーゴーランドに乗りたい」と、指を指した。健太は
「俺は、いいよ。亜子と有村さんで、乗ってきなよ。見てるから」と、雪絵の方を見て言うと、
「私も、いいよ。亜子行って来なよ。お兄さんと一緒に見ててあげる」と、雪絵が、言った。
「え~、何で~、いいもん、一人で行ってくるもん」と、亜子は、頬を膨らませながら、メリーゴーランドに向かっていった。健太と雪絵は、亜子の後ろ姿を見つめながら、メリーゴーランドのすぐそばにある、ベンチへ腰をおろした。
「有村さん、亜子と仲良くしてくれてありがとね。亜子って、小さい頃は、人見知りが、激しくてなかなか、友達が出来なかったみたいでさ、いつも、一人で遊んでたんだよ。たまに、寂しそうな、表情してたし、だから、心配してたんだ。中学に入って、有村さんみたいな、明るい子と友達になれたから、良かったよ。亜子は、俺の前では、無理して、明るく接するからね。本当、ありがとう。有村さん」と、健太は、亜子の小さい頃を思い出しながら、言った。
「そんな……私の方こそ仲良くしてもらってるんですよ。亜子が、声かけてくれなかったら、こんなに仲良くなれてなかったと思います。ちょっと、亜子が、羨ましいです。こんなに、妹想いのお兄さんがいて。私のお兄ちゃんなんか、私が、困ってても、何もしてくれないし……あの、私の事も、亜子みたいに、雪絵って呼んでください」
「えっ、うん、分かったよ……じゃ、雪絵ちゃんも、俺の事、健太でいいよ。それと、雪絵ちゃんのお兄さんも、態度では、素っ気なくしてるかもだけど、本当は、心配してると思う。妹を心配しない、お兄さんなんていないよ」と、雪絵の方を見て、笑顔を見せた。
雪絵は、そんな健太の笑顔を見て、心臓が、破裂しそうなくらい急に、鼓動が、高鳴った。
「ありがとうございます。でも、やっぱり亜子が、羨ましい。こんな優しいお兄さんがいて……」と、赤くなった顔を手で覆い隠しながら言った。二人が、そんなやり取りをしてる中、亜子が乗ったメリーゴーランドが、可愛らしい音楽とともに、動き出した。健太は、亜子に、時折、手を振りながら、メリーゴーランドを眺めていた。しばらくすると、音楽が、止まり、亜子が、二人の元へ帰ってきた。
「楽しかったぁ~! 次、何乗る? 今度は、皆で、乗ろうね」と、亜子は、足早に歩いて行った。健太と雪絵は、後を追うように、歩きだした。亜子が
「今度は、観覧車に乗ろうよ」と、指をさした。 健太は、高いとこは、苦手だったが、仕方なく乗る事にした。
観覧車に乗り込み、ゆっくりと上に上がっていく。だんだんと、健太の顔色も、青くなっていく。そんな健太を見て、雪絵が、心配そうに
「健太さん、大丈夫ですか? もしかして、高いとこダメだったんですか? 顔色が、悪いですよ本当に」
「うん! 実は、ダメなんだよ。でも、雪絵ちゃんも、乗りたそな顔してたし」と、健太は、頭を掻きながら言った。
「まぁ、もう少しだし、我慢しとくよ。降りたら、少し、休憩させてね」観覧車は、ゆっくりと地上に降りた。
観覧車を降りた健太は、亜子に手を引っ張られ、近くのベンチに座った。「ごめんね、お兄ちゃん。お兄ちゃんが、高いとこ苦手なの忘れてた。ハンカチ濡らしてくるから、雪絵、お兄ちゃん見ててね」と、言って、亜子が、走っていった。雪絵は、真っ青な顔をして、うつむいてる、健太の隣に座り
「健太さん、大丈夫ですか? 少し、横になった方が、いいですよ。私の膝でよければ、枕にして構いませんから、横になって休んでください」と雪絵は、健太を心配して言った。しかし、健太は「大丈夫……だよ。少し、座ってれば、治るから。心配かけて、ごめんね、雪絵ちゃん。せっかく楽しく遊んでたのに」
「でも、健太さん……」と、雪絵は、健太の肩に手をまわし、健太を横にさせようてした時、亜子が、走って帰ってきた。雪絵に気付いた亜子は、走りながら、雪絵に
「雪絵~! お兄ちゃんに触ったらダメ~」と、叫んだが、遅く、雪絵は、健太の肩を押して、健太の頭を膝の上に乗せてしまった。健太は、雪絵の膝枕の上で、そのまま気を失った。亜子が、二人の元について
「あ~、遅かったかぁ~、雪絵に、ハンカチ濡らしてくるの頼めばよかったよ」と、亜子は、肩を落として言った。雪絵は、何が何だかわからず
「えっ! 亜子、どういう事なの? 健太さんが、どうしたって?」
「お兄ちゃん、雪絵の膝の上で、気を失っちゃたんだよ」と、健太の顔を見て、言った。
「えっ! 何で? 健太さんが、気を失ったの? 私は、心配だったから、横にしてあげたかっただけだよ」亜子は、雪絵に、健太の秘密を話していいのか、迷ったが、仕方なく、話す事にした。亜子は、急に、真剣な表情になり
「実はね、雪絵……お兄ちゃんは、家族以外の年頃の女性に触られたら、気絶しちゃう、変な体質をもってるのよ」
「えっ! 何それ? じゃ、私が、健太さんに触れちゃったから……気を失ったの?」と、言うと亜子は、大きく頷いた。「お兄ちゃん、小さい頃から、そんなだったから、毎日が、大変なんだよね。だから、私が、お兄ちゃんの体質が、治るまででいいから、お兄ちゃんの隣にいてあげたいの。私の、恋は、決して、叶わないものだけど……お兄ちゃんの体質が、戻るまでは、私が、お兄ちゃんを守らなきゃ」と、亜子は、気絶している健太を抱き起こし、雪絵と変わり、健太の頭を自分の膝の上に乗せて、頭をゆっくり撫でた。雪絵は、亜子の話を聞いて
「一生、その体質が、治らない訳ないんだよね。亜子だけが、頑張る事ないじゃない。私も、手伝いたい」
「ありがたいけど……無理だよ。私のパパも、お兄ちゃんと同じ体質だったけど、ママに出会ったおかげで治ったの。だから、お兄ちゃんにも、早く、お兄ちゃんにとって一番大切な人が、現れくれたら、治ると思うんだけど……」亜子の話を聞いて、雪絵は
「私じゃ……ダメかな? 健太さんの写真を見た時、いいなって思ってたの。それで、今日、健太さん本人に会って、私は、確信したの。健太が、好きなんだって。妹の、亜子には、悪いけど……私、健太の彼女になりたい。ううん、絶対に、なってみせるよ」と、亜子に、宣言した。亜子は
「そっか! じゃ、私達は、恋のライバルになっちゃったね。でも、私も負けないから! でも、雪絵が、ライバルになってくれて、良かったよ」 「私も、負けない! 健太さんといつか、手を繋いで、デートするよ」と、二人は、お互いの気持ちを言い合った。
健太が、目を覚ましたのは、もう、空が、オレンジ色に染まる夕方だった。
「ごめん! 俺、また気絶してた? しかも、夕方になってる。ごめんね、亜子、雪絵ちゃん」と二人に頭を下げた。
「ううん、いいよ! お兄ちゃんは、悪くないし、私達は、今日、楽しかったもん! ね、雪絵」 「うん! 楽しかったですよ。私の方こそ、ごめんなさい。私が、触っちゃたから、気絶しちゃったんですよね。今度からは、気をつけますね」
「お兄ちゃん、ごめんね、雪絵が、心配してたから話しちゃたの」
「そっか……いいよ、いつまでも、隠し通せないしね。びっくりさせちゃったよね、雪絵ちゃん」 「びっくりしましたけど、亜子から、健太さんの事を聞けて良かったです。また、遊んでくださいね」と、雪絵は、健太にとびっきりの笑顔を見せた。健太は、夕日をバックに、雪絵の満面の笑顔を見て、今まで、あじわった事が、ないくらい胸の高鳴りを感じていた。「うん。また、遊ぼうね。今度は、気絶しないよう頑張るから」と、健太も、顔を赤く染めながら笑顔を見せた。
健太は、帰る途中も、雪絵の顔を見る度に胸の高鳴りを感じながら、家路についた。




