第五話 御令嬢の恋
高級車のベンツから、降りてきたのは、高校二年生の綾瀬川麗子と言う名前のお嬢様だった。綾瀬川グループは、超一流財閥の一つで、健太の通っている高校にも、莫大な寄付金を寄せている。その、綾瀬川グループの御令嬢の麗子は、健太と同じ学校の一つ上の先輩なのだ。麗子は、車から降りると、執事と思われる、白髪の人にむかって「成宮、ご苦労様! では、行って参りますわ。帰りは、いつもの時間でよろしく頼みますね」
成宮と呼ばれた白髪の執事は、麗子に向かって深くお辞儀をすると、車の助手席に戻り、学校を後にした。
麗子は、御令嬢と言うのに、ふさわしい美貌の持ち主だ。髪の毛は、綺麗なブロンドで、縦ロールがよく似合っている。麗子が、歩けば、男子生徒は、皆が立ち止まり、麗子を見ている。麗子は 「私ほどの、美貌を持っていれば、男子なんて、イチコロですわ。今日も、私の、美貌に、男子達を虜にさせて、差し上げますわぁ~! おっほほほ~」と、声高らかに笑っていた。麗子は、高笑いをしながら、教室に入っていった。健太は
すごい人が、いるんだなぁ~! と、思いながら、千夏と一緒に、教室へ向かった。
昼休憩になり、健太は、亜子の手作り弁当を片手に、屋上に向かった。屋上には、ベンチがあり、そのベンチに健太は、座り、亜子の弁当を開けた。亜子の弁当は、健太の大好物が、沢山入っていた。健太は、亜子の弁当を食べ終わると、屋上を後にして、教室に帰ろうと、廊下を歩いていると、廊下の反対側から、今朝、見たあの、御令嬢の麗子が、歩いて来ていた。麗子は、何かを探しているのか、周りをキョロキョロしながら歩いていた。何だろうって健太は、思い麗子に声をかけてみた。
「あの~、何か、探してるんですか?」キョロキョロしていた、麗子は、突然の健太の声にびっくりして
「きゃ! ちょっと、びっくりさせないでくださいます」と、顔を上げると、自分の目の前に、イケメンの男子がいるのに再び、びっくりした。
「あのぅ~、せ、先輩? どうしたんですか?」健太は、キョトン顔の麗子に、声をかけると
「この学校に、こんなイケメンが、いたなんて私とした事が、一生の不覚でしたわぁ~」と、頭を抱えてうなだれた。健太は、そんな麗子の姿を見て、吹き出して笑った。「先輩、面白い人ですねぇ~、で、何を探してたんですか?」と、麗子の顔を覗き込むと、麗子は、真っ赤な顔をして
「えっ! いや、別に何でもないですのよ。ただ、私、コンタクトを落としてしまったので、探しておりましたの」と、麗子は、オドオドしながら言った。
「そうなんですか! じゃ、俺も、一緒に探しますよ」
「いや、そんな悪いですわ」
「任せて下さい」
と、わざと麗子に向けてウインクして見せた。
麗子は、そんな健太の顔を見て、胸が、張り裂けそうなくらい苦しくなった。これが、恋なのだろうかと思いながら、健太の顔をずっと見つめていると、真っ赤だった顔が、ますます赤くなっていった。
「じゃ……お願いしてもよろしいですか?」
「もちろんですよ」と、健太は、廊下に、はいつくばって麗子と一緒に、コンタクトを探し始めた。探し始めて、二十分が過ぎただろうか、健太は、腕時計を見て
「後、五分で、休憩終わっちゃいますね」
「やっぱり見つからないですわね。もう、諦めますわ」
「まだ、大丈夫だし、もう少しだけ」と、健太は、探していると、床が、何か光ったように感じた。そこに行って見ると、コンタクトがあった。健太は、コンタクトを拾い上げ、麗子に
「先輩! ありましたよ! これですよね」と、麗子に近付き、麗子の手に触れないように、コンタクトを渡した。
「これですわぁ~! ありがと! 助かりましたわぁ~。何と、お礼をいったらよいか」
「いや、お礼なんていいですから。今度は、落とさないよう気をつけてくださいね。それじゃ」と、行こうとした、健太に、麗子が
「あっ、ちょっと、あなたのお名前を教えてくださいな」
「俺ですか、一年の如月健太です。じゃ、失礼します」と、行って健太は、急いで教室に戻った。そんな、健太の後ろ姿を見つめながら、麗子は
「如月健太、なんて優しい方なんでしょう。この私、貴方に、恋心を抱いてしまいましたわ」と、小さな声で言った。
何とか、午後の授業に、間に合った健太は、眠気を誘う、授業を乗り越え、放課後をむかえた。放課後になり、健太は、帰る準備をしていると、突然、健太の教室のドアが、開き、甲高い声で
「如月健太様は、このクラスにいまして」と、麗子が、入ってきた。クラス全員が、唖然とする中、麗子は、教室を見渡し健太を見つけた。
「健太様」と、麗子が、言うと、さっきまで、唖然としていたクラス全員が、健太に目を向けた。クラスの男子からは、怒りの視線、クラスの女子からは、嫉妬の視線、様々な、視線があった。健太は、千夏とも、目が合った。健太は、困った視線を千夏にむけて、助けを求めた。そんな、健太の視線を見て、千夏は、麗子に
「あのぅ~、如月くんに何か、用ですか?」と、麗子に言った。麗子は
「昼休憩に、健太様には、大変お世話になりましたの。そのお礼にと思ってやってきましたの。」と、言って健太を見つめた。千夏は、健太に
「何があったの?」と、小さい声で聞いた。
「いや、昼休憩中に、先輩が、コンタクトを落としてたらしくて、一緒に探しただけだよ」と、千夏に説明した。
「健太くん、今日は、早く帰らなきゃ駄目なんでしょ」
「うん、亜子の様子が心配だし」
「なら、早く帰ってあげなきゃ」
健太は、麗子に
「先輩、今日は、妹が、風邪をひいて心配なんです。また今度でいいですか?」
「そうなのですか? それは、仕方ありませんわ。では、後日、お礼させて頂きますわ」と、言って、教室を後にした。
麗子が、出て行った教室は、静まり返り、部活に行く子や帰宅する子で、あっという間に、教室には、健太と千夏だけになった。
「千夏ちゃんは、これから部活だよね。頑張ってね」
「うん、部活だよ。「うん、部活だよ。今度、大会もあるし、頑張らなきゃ」
「そっか、頑張ってね。それじゃ~」
「うん! ありがとう。頑張るね! あっ、そうだ、今度、健太くんの家にお邪魔してもいいかな? 妹さんにも会ってみたいから」
「いいけど……亜子にも、聞いてみとくね!」
「うん!じゃ、また明日ね。バイバイ!」
千夏は、健太に手を振りながら教室を出て、部室に向かって行った。健太も、家路に着いた。
学校を出て、帰ってる途中に、朝、見かけたベンツが、止まっていた。健太は、ベンツの横を通り過ぎようとした時に、車の窓が開いた。窓を開けたのは、麗子だった。
「あっ! 健太様! お帰りなのですか? よかったら、家までお送り致しますわ」
「えっ! 大丈夫ですよ。途中、買い物もしなくちゃいけないし」と、健太は、麗子に一礼して、走ってその場を去った。麗子は、そんな健太を見ながら
「見れば見るほど格好いいですわ。私にも、ついに、春が、来ましたのね。必ずや、健太様を私の魅力で、振り向かせてみせますわ」と、言いながら、健太が見えなくなるまで見つめていた。
アパートに帰った健太は、亜子に、今日の出来事を話した。亜子は、夕御飯のおかずを箸で、つつきながら
「お兄ちゃんも、大変だね。でも、気をつけなきゃ、すぐ、気絶しちゃうんだから」
「分かってるよ。何で、こんな体質になっちゃったのかな? 治ってくれれば、いいんだけど」
「パパだって、お兄ちゃんみたいに、気絶してたみたいで、パパは、ママには、大丈夫だったらしいから、だから、お兄ちゃんも、誰かを本当に好きになったら、治るんじゃないかな? 妹としては、複雑だけど……」
「そんなもんなのかなぁ~。」
「まぁ、お兄ちゃんに好きな人が、出来たら私が、お兄ちゃんにふさわしい人なのか、どうかをチェックするから」と、腕を組んで言った。
「はいはい。お手柔らかにお願いしますよ」と、健太は、答えた。
「あっ、そういや、クラスの友達が、今度、うちにお邪魔してもいいかなって言ってるんだけど……いいかな? 亜子にも、会いたいって言ってるんだよ。多分、亜子もその子の事は、気に入ってくれるとは、思うんだけど」
「いいよ、お兄ちゃんのお友達なら! 私も、お兄ちゃんに紹介したい友達いるし、私の友達にも会ってくれる?」
「分かった! ありがとう、亜子」と、約束し、一日の終了を告げるよう深い眠りについた。




