第二話 お弁当
ピピッ ピピピ! 目覚まし時計の朝を報せる音が鳴る。千夏は、ゆっくりと布団の中から、手を伸ばし、目覚まし時計を止めた。ひとつ伸びをして、机に飾ってある写真に向かって
「おはよう、健太くん」 と、写真の健太に話しかけた。千夏は、健太の写真を見つめ、パジャマを脱ぎ、制服に着替え、長い髪の毛を一つに纏め、リボンで結んだ。学校の支度が整った千夏は、階段を下りて、自分のお昼の弁当を作った。
「いつか、健太くんのお弁当も、作ってあげたいな。健太くんの好きな物って何だろう?」
と、考え事をしていた。学校に行く途中も、健太の事考えながら、歩いていたら、突然、
「千夏~! おっはよぅ~! 何、朝から、考え事してんのよ」
声をかけてきたのは、友達の平沢真樹だった。
「あっ! おはよう、真樹!」
「千夏、何考えてたの? もしかして、男の事? 誰よ? 誰の事よ?」 「何言ってんのよ。別にそんなんじゃないわよ。別に、健太くんの事なんて……」
と、言いかけた瞬間に、口に手を当てて、言葉を濁した。だが、真樹には、しっかりと聞こえていた。真樹は、ニヤニヤしながら、千夏の顔を見て「そっか、そっか! あの如月くんの事をねぇ! で、いつからなのよ? 教えなさい!」
「別に、そんなんじゃ、ないわよ」
「そんな訳ないわよね? 顔が赤いわよ」
「もう、別にいいじゃない。どうせ、言っても真樹は、からかうくせに」と、千夏は、頬を目一杯膨らませた。
「この際、教えなさいよ。応援するから! 今なら、如月くんも、彼女は、いないんだし、チャンスだよ」
「それは……そうなんだけど……」と、女子高生らしい恋話に花を咲かせながら学校に行った。
学校に、着いた千夏は、真樹に、からかわれ赤くなった顔を、落ち着かせて、教室に入った。席につくと、横から、
「千夏ちゃん! おはよう!」
と、千夏が、さっきまで、赤くなっていた、原因の健太に、声をかけられた。千夏は、再び、赤くなりそうになったが、おさえて、
「おはよう! 健太くん! 今日は、早く来たんだね」と、胸の高鳴りを押さえつつ言った。
そんな、状況を見た真樹は、そんな千夏を応援しようと、二人の後ろから、近づき
「おっはよぅ~! 千夏! 如月くん」と、わざとらしく、健太と千夏の肩に手をまわした。健太は、一瞬、何か分からなかったが、自分の肩に、真樹の手が、触れているのを見た瞬間、机に突っ伏して、気絶してしまった。気絶した、健太を見た、千夏は
「健太くん! 健太くん! どうしたの? しっかりして」と、健太の体を揺らしてみたが、なかなか、目を覚まさない健太を心配して、千夏と真樹は、健太を保健室に運んだ。
保健室のベッドに、健太を寝かせて
「私、健太くんが、目を覚ますまで、ここに、いるね」
「分かったよ。千夏が、いた方が、いいだろうしね。でも、どうしちゃったんだろう如月くん? 急に、倒れちゃってさ」「さぁ? でも、中学の時にも、一回、あったのよね。あの時も、今日のように、気を失ってたんだよ。あの後、健太くんに、聞いてみたんだけど、教えてくれなかったんだね。身体のどこかが、悪いのかなぁ~? 心配だよ」
「そっかぁ~。前にも、あったんだ。それは、心配だよね。千夏は、本当に、如月くんの事、好きなんだね。千夏の、そんな、心配そうな顔、見たことないもん。好きじゃなきゃ、そんな、顔出来ないと思うなぁ」
「うん。健太くんの事は、中学の時から、好きなの。いつも、優しく接してくれるし、何より、健太くんの笑顔を見たら、元気になれるし」
「じゃ、私は、千夏の恋を応援するね」
「ありがと。真樹、私、頑張るね」
「うん。じゃ、私は、教室に戻るよ。後は、よろしくね」と、真樹は、保健室をあとにした。
真樹が、居なくなった保健室は、静かだった。健太は、気を失ったままで、保健室の先生は、今はいない。そんな状況に、千夏は、不謹慎ながら胸が、高鳴りドキドキしていた。それもそのはず、健太が気を失って、心配だが、今は、二人っきりなのだ。
千夏は、健太の顔を見つめ、そっと健太の手を握って、気を失っている健太に向かって
「今、寝てるから、言うけど、私は、健太くんが、好きです」と、言って気を失っている健太の頬にキスをした。しばらくして、健太は目を覚ました。
「健太くん、大丈夫? 倒れてから、全然、目を覚まさないから心配したよ」
「ごめんね、千夏ちゃん。また、心配かけちゃったね」
「ううん、いいよ。健太くんが、無事なら」
「そう言えば、今、何時頃なんかな?」
「今、昼休憩中だよ」
「えっ! 俺、長い間、気を失ってたんだ。ごめんね。もしかして、千夏ちゃん、ずっと居てくれたの?」
「うん。心配だったからね。」
「ごめんね、ご飯も、食べてないんだよね。俺も、もう大丈夫だから、お礼に何かおごるよ」
「気にしないで。私、お弁当持ってきてるから。でも、今日、ちょっと作りすぎちゃってて……健太くん、よかったら一緒に食べてくれる?」
「いいの? じゃ、お言葉に甘えさせてもらうね。千夏ちゃんの手料理食べれるなんて、すっげぇうれしいよ」
「そんなに、たいした物じゃないよ」と、話をしながら、健太と千夏は、弁当を持って、屋上に行って、弁当を食べた。
「千夏ちゃん、弁当、ありがとう。すごいおいしかったよ」
「お粗末様、健太くんの口に合ってよかった」
と、弁当箱を片付けながら、千夏は、真剣な顔をして、
「健太くん、また、一緒にお弁当食べてくれる? 今度は、健太くんの分も作ってくるから」
「いいの? ありがとう。楽しみにしてるよ!」 昼休憩が、終わり午後の気だるい授業を眠気と闘いながら何とかやり過ごす。
放課後になって、
「千夏ちゃんは、これから部活なんだよね。頑張ってね。それと、今日は、本当ありがと」
「健太くんは、これから帰るんだよね。お疲れさま。また、明日ね」
「じゃ、また明日。バイバイ、千夏ちゃん」と、言って、健太は家路に着いた。
千夏は、健太を見送ってから、陸上部の部室へ行き、ユニフォームへ着替えた。そこには、真樹の姿もあり
「千夏、あれからどうなったの?」
「昼休憩の時に、目が覚めて、その後、健太くんと屋上で、お弁当を一緒に食べちゃった」
「へぇ~、千夏、やるじゃん」
「ちょっと、勇気出して、誘ってみたの。でも、さすがに告白は無理だったんだけどね」
「いやいや、千夏にしては、上出来だよ」と、真樹は、感心した。
部活を終え、帰る時に、真樹に呼び止められ
「千夏! 明後日の日曜日、暇? 暇だったら、服買いに行かない?」
「いいけど、どうしたの? 急に?」
「いや、もしもの為に、千夏の服を選んであげようと思ってね」
「もしもの時って?」
「千夏が、如月くんとデートする事になった時に、困らないようにに決まってるじゃない」
「はぁ~、って、健太くんとデートなんて無理だよ。緊張しすぎて、私の身が持たないよ」
「まぁ、いいから。日曜日、十時ぐらいに千夏の家に行くから」
日曜日になり、真樹は、約束通り千夏の家に来て、千夏と真樹の二人は、駅前のデパートに向かった。




