夏川
「今日も暑いねクロ。おばあちゃんの家に来てからずっと暑いんだから嫌だよね」
私は腕の中で気ままにゴロゴロする猫に話かけます。
麦わら帽子に半ズボンを履いて私はおばあちゃんの家の近くを猫のクロと一緒に散歩しています。
「あらぁ椎菜ちゃん。おばあちゃんのところの猫ちゃんとお散歩ね」
後ろから私のことを呼ぶ声がします。
「お隣のおばちゃん!こんにちは!そうよ、クロが暇そうにしていたもの。猫も運動不足はダメだと思うから連れ出してあげたの」
「そうなのね~。クロちゃんもリラックスしてるわ。椎菜ちゃんはお盆でいつまでいるの?」
私にはまだお盆というのがよくわかりません。だけど、夏のこの時期になると必ずおばあちゃんの家に家族で来るというのはなんとなくわかっています。
「たしか16日だったと思う」
「送り盆まではいるのね。ゆっくりしていきなね」
「うん!そうするわ」
隣のおばちゃんはいつも私がおばあちゃんの家に帰ってくると優しく話かけてくれます。私はここが好きです。自然はいっぱいあるし周りの人たちも優しいもの。
歩いていてもみんな話しかけてくれてすっごい楽しいから毎年のこの時期が楽しみで仕方ないです。
「ニャー」
「どうしたのクロ。歩きたいの?」
「ニャー」
私の腕からクロは飛び降りて優雅に歩き始めます。
「もうあなた本当に自由ね。今日も昨日と同じところに行くんでしょ」
クロは私の方を少し振り返るとそのまま歩き始めてしまいます。ついて来いと言わんばかりの態度に少しぷんぷんしますが、そんなことでいらいらするほど私はもう子供じゃありません。もう小学2年生なのだから幼稚園生の時の私とは違うんです。
クロを見失ったら大変ですから、しっかりとクロを見ながら追い掛けます。すると、道脇に生えているひまわりに興味が移りました。
「今日もひまわりは綺麗ね!クロ知ってる?ひまわりって太陽に向かって花を向け続けるんだよ」
「ニャー」
「あなたってお花よりもご飯が好きよね。こういうのなんて言うんだっけ。お母さんが言ってたんだけど…う〜ん思い出せないな」
「ニャ…」
「も〜私っておバカね。もっとお勉強して九九も覚えないとだし、ことわざも覚えないとダメなのに」
クロはお花に何も興味ないようでスタスタといつもの散歩道である川沿いに向かってます。
「歩こう〜歩こう〜私は元気〜」
広い田んぼや畑に私の声は響き渡るのが気持ちよくて最近はずっと歌っちゃいます。夏はたくさんの植物が生えてるからちょっと臭いですけど、そんな匂いもへっちゃらです。
もくもくの雲と広い青空は絵日記を書くときに凄く便利で何日も書いちゃうから、そろそろ田んぼとか畑を書かないと絵日記が毎日同じ絵になってしまいます。
「椎菜ちゃんこんにちは。今日も散歩かい?」
「郵便のおじちゃんこんにちは!クロのいつもの散歩ルートを一緒に歩いているの。絵日記に書くことも決めないと行けないから色んなものを見てるんだ」
「絵日記毎日書けてて偉いじゃないか」
「連続で白い雲と青い空を書いたらお母さんに怒られちゃったの」
「そりゃ怒られちまうわな。でも、この田舎じゃあんまり面白い絵は描きにくいのは俺もなんとなくわかるよ。何もないからねここ」
「も~絵日記に優しくないのよこの街」
「ハハハッ!何も言い返せねぇ!でも、いい街だよゆっくりしていきな」
「うん!私もこの街は好きよ!バイバイ!」
郵便屋さんはバイクに乗ってそのまま行ってしまいました。
街にあんまり子供がいないから、年に何回かしかここに来ないのにみんな私の名前を憶えちゃってます。
「ニャー」
「あ、ごめんクロ!今行くよ」
太陽がかなり強くて走るとすぐに汗をかいてしまいます。けど、クロを追いかけるまでに草の匂いは鼻に抜けるし太陽はじっと見てくるし、バッタは目の前を飛ぶしで走るだけでなのに面白いは何故なんでしょう。何にもないけど私の住んでる家の近くではありえないことばかりが起こります。
目が色んなところに移ってしまうので、クロに怒られちゃいます。
「また今日もあのお姉ちゃんいるかな!」
そんなことを思いながら川沿いへと向かいます。
クロの散歩コースはこのまま道を進んで川沿いに向かいます。ここに来た最初の日にその川へ行ったらこの街に住んでいる年上の中学生くらいのお姉ちゃんに出会いました。そのお姉ちゃんは毎日その川にいて見かけて声をかける度に遊んでくれたりお話をしてくれたります。クロはあんまり懐いていない感じがするのは不思議です。
あんなに優しいお姉ちゃんなのに。でも、猫は警戒心が強いから基本的に懐くのに時間がかかるということらしいです。時間が経てばクロも懐いてくれると私は願います。
「あ!川のお姉ちゃん!今日もいるのね!」
私は嬉しくてすぐにお姉ちゃんへ駆け寄ります。
クロは相変わらず呑気に川辺で寝そべっては昼寝を始めてしまいました。
「クロったら今日もお姉ちゃんに挨拶もしないで寝るなんて。悪い子ね」
お姉ちゃんは笑ってくれました。
「うふふ。椎菜こんにちは。クロちゃんには私はまだ懐かれていないんだね」
「クロは家族以外の人にあんまり心を開かないの」
「猫はそんなものだよ。でも、見てて可愛いから大丈夫」
「クロは人気者だからね」
「そうだね。そういえば昨日言ってたお友達とはビデオ電話できたの?」
私は昨日友達とテレビ電話することをお姉ちゃんに伝えました。それを覚えていてくれたことが凄く嬉しくて私は目をキラキラさせちゃいます。
「そうなの!ももちゃんとそらちゃん2人と話したの」
「学校のお友達?」
「そうよ!2人とも超かわいいの。1人はお嬢様みたいな感じでもう1人はすっごいパワフルなの」
「なかなか個性的だね」
お姉ちゃんは個性的と言いましたが、否定はできません。ももちゃんは多分お金持ちで凄い上品だと思います。お家にお手伝いさんがいるかもしれないと私は疑っています。いづれは絶対にももちゃん家に行って真実を目に焼き付けます。
そらちゃんは男の子みたいな性格で凄いいつも元気です。男の子に負けじとドッジボールでは活躍するし、色んなお友達がいます。
「うん!でも、私はこの2人が大好きよ」
「そういうお友達がいるのはいいことね。学校は楽しいでしょう」
「もちろん。この2人に会えるから学校は楽しいわ。授業もまだ面白いよ」
「お、いいことじゃん。頭良くなるね」
「覚えるのはあんまり得意じゃないから頭は良くなるか怪しいの」
お勉強はちゃんとやるけど得意ではない気がしてます。
「まだこれからだから気にしなくていいんだよ」
「ももちゃんとそらちゃんと一緒にお勉強は頑張るからいいの」
「その2人も夏休みの宿題頑張ってるよ多分」
「その話も昨日したわ。2人とももう宿題嫌がってた」
「みんな嫌がるんだねやっぱり」
2人とも絵日記には大苦戦しています。だけど、2人は書く内容がないということに苦戦していましたが、私は書くことがあるけど絵が毎回一緒になっちゃうことで苦戦しているので、ちょっとだけ2人とは違いました。
書くことがあって羨ましそうでしたので、私はこの街を胸を張って紹介しました。
「絵日記でこの街をあの2人に紹介したらここに来たがっていたの。今度連れてきたいな」
「う~ん。遠いけどもう少し大きくなったら来れるんじゃないかな」
あれ、なんで川のお姉ちゃんは私の家の場所を知っているのでしょう。
「お姉ちゃん私の家の場所知ってるの?」
「え?あ~何言ってんのさ。初めて会った日に言ってたでしょ」
「あれ、そうだっけ?一昨日のことも忘れるなんて私ダメね」
あの2人を呼ぶにしては私の家からは遠い田舎です。だけど、遠足のお泊り会だと思えばみんな許してくれるんじゃないかなと期待はしています。
来たら川のお姉ちゃんも紹介したいしおばあちゃん達も紹介していっぱいこの街を案内します。クロが懐くとは思えないけど、あの2人の可愛さならすぐにクロも近寄ってくるはずです。
「2人が来たらお姉ちゃんにも挨拶に来るわ」
「私に?そうね。私を見つけられたら挨拶に来てよ」
「この街はそこまで広くないからすぐに見つけられるもん」
「私隠れるの上手いから」
「フン!絶対に見つけてやるんだから」
若い人が多くないから見つけるのは簡単です。それに、いつも川にいるんだから次来た時も川に来れば必ず会えるはず。
お姉ちゃんが隠れるの上手いなんて私は信じれません。
クロはまだ寝てるのかなと思って川のそばに目をやると、クロが起きて何かと戦っているような雰囲気でいたので近づいてみました。すると、戦っていた正体はバッタということが分かりました。動くものに反応しちゃう猫は飛んできたバッタを獲物だと勘違いして狩りのスイッチが入ってしまったようです。負ける相手でもなんでもないのに戦いの姿勢を見せるなんて大人げないわ。それに、クロは虫を食べる習慣がないから狩る必要なんてありません。ただただ遊んでるだけね。
「この状態・・・絵日記の絵になるわ!でかしたわねクロ!さぁ!いつでも飛び掛かかっていいわよ!その状態を私はじっと見て絵日記に描くからね」
「シャー!」
クロ対バッタはお互いに全く動かない状態が続きます。ドキドキしながらその場を見守ってクロを小声で応援します。
「頑張れ~」
すると先に動いたのはバッタでした。ですけども、まさかの方向転換をしてクロとは反対方向に飛んでしまいました。バッタはクロに勝てないと諦めて逃げてしまいました。クロはがっかりした感じで狩りの姿勢を辞めてしまいます。
私もがっかりです。折角いい題材になりそうでしたのに。でも、クロの威嚇している姿はカッコよかったのでこれを今日の絵日記にしてみます。これはいい絵が描けそうです。
「クロちゃん惜しかったね」
「クロが先に戦いをしないからこうなるのよ」
お姉ちゃんもその姿を見ていたようで感想を言ってくれました。
「相手が飛ばない虫だったら勝負になっていただろうね」
「どんな虫が来てもクロが勝つから次が楽しみだわ!」
家でもおもちゃで遊ぶときはすばしっこいので、どれだけ早い虫が来ても捕まえられると私は信じてます。
「ニャー」
クロは虫が捕まえられなかったことが悔しかったらしく、私に何かを訴えてきます。私はその意味が何となくわかります。帰ったらあのおもちゃで遊んでくれということを私に目で訴えてきているのです。私は仕方ないなという顔でクロに気持ちを送りますが、クロに私の言葉が伝わっているかは不明です。心が純粋だからきっとクロには私の思うことは全て伝わっているのです。
これは間違いないのです。
「あれ、雨降りそう・・・」
目線の先には絵本で書いたようなでっかい入道雲がいつの間にか空に出来上がっていました。私は詳しいのであの雲が雨を降らせるくもだというのが手に取るようにわかります。だけど、まだあの雨の匂いはしないのですぐには降らないはずだと頭の中でいっぱい考えて答えを導き出します。その考えはシャーロックホームズとかいう名探偵が様々な事件を解決してきたのと同じで頭の良い考え方なのです。
「あれ、本当だね。椎菜は雨が降る前に早く帰りな」
「お姉ちゃんは?」
「私も帰るけど先に帰りな」
「え~一緒に帰ろうよ」
「やることがあるからダメ。ほらクロちゃんが帰りたがっているから」
「クロ。あなた早く帰りたいのね。しょうがないな」
「よし、じゃぁまたね椎菜」
「うん!バイバイ」
「あ、あと今日もだけどさ」
「大丈夫。お姉ちゃんのことは誰にも言わないよ」
「そう・・・ありがとう。じゃあね」
私は入道雲を背にして家の方向へと歩幅広くして歩きます。
川のお姉ちゃんは一緒にいたことを誰にも言っちゃダメだと毎回言ってきます。その理由を聞いた時は特に答えてくれませんでしたし、深く聞いてはいけないのだと空気で伝えてきます。私だってそこまで意地悪ではありません。
わからない理由にもやもやはしますが、誰にでも秘密は抱えていくものなのです。
仲良くしてもらえてるからこそ、お姉ちゃんとの秘密の約束は絶対に守ります。そして、話をしていいと言われたらお母さん達に真っ先に紹介するんです。
「ニャー」
「あなた本当にお姉ちゃんに懐かないわね。優しいんだから早く懐きなさいよ」
クロは歩くのが疲れたらしく、また私の腕に抱きかかえられて家まで帰ります。
この猫の自由さに私は呆れちゃうわ。
「雨降る前に帰るよ~」
鼻歌を歌いながら家に帰ります。
「犬の~おまわりさん」
「椎菜。あなた犬のおまわりさん歌いながら猫を描くなんて不思議なことをするのね」
私はおばあちゃんの家で絵日記を書いています。
お昼にあったクロの虫との戦いです。絵のモデルがすぐそばにいるから迷ったら確認できるからありがたいです。
クロは見られる度、恥ずかしそうにソワソワと部屋の中をウロウロしてはテーブルの脚とかにぶつかりそうになっておばあちゃんに笑われてます。
「おばあちゃん今日のクロは面白かったのよ」
「絵を見る限り何となくわかるわよ~。狩りの態勢ね~」
「バッタと戦っていたんだけどバッタに逃げられたわ」
「逃げられたんじゃしょうがないねぇ」
「見てて楽しかったからいいんだ。あのまま死闘になってバッタがやられてたらそれはそれで私叫んじゃうもん」
虫が苦手なわけではないですが、やられちゃった虫を見るのはグロイから好きにはなれません。女の子ですからグロイものに好奇心を抱くことは体が拒否してきます。
あのままクロが虫をやっつけていたらその場で叫んだかもしれないので、バッタが逃げたことが実は一番よい方向だったのだと私は思います。
川のお姉ちゃんも女の子ですから虫は得意ではない可能性が高いですし。
「あれ、椎菜この背景は川だね?」
「え、うん。そうだよ」
私はお姉ちゃんのことがバレないように必死に川に行ったことは伏せていました。だけど、この絵を見たらそりゃ川だとわかってしまいます。
「川のところに森があるんだけどそこには近づいてではダメだからね」
川へ行ったことを深く聞かれなくて助かりました。
「森に?何で?」
「あそこはここの地域の人たちが誰も近寄らない場所だからねぇ。言い伝えであそこはあの世とこの世の中間地点と呼ばれてるのさ」
「ふーん。なんか怖いね」
「言い伝えを守ってるからあそこには誰も入ったことがないのさ。特に夏はダメだよ」
「天国と繋がってるってこと?難しくてよくわかんない」
「椎菜にはまだ難しかったかな?でも、それであってるよ。なんにせよ近寄らないようにね」
あそこの川に森があったなんて知りませんでした。入っちゃいけないと言われると入ってみたくなってしまいますが、私はまだ天国になんて行きたくありません。
もし、あの森に入ったらどうなってしまうんでしょう。中に悪い大人がいて襲ってくるのかお化けがいっぱいいてそのまま連れていかれるのか。考えるだけで怖くなっちゃいますが、私にはそこの森に行く機会なんてありません。
森があったことさえ知らなかったんですから。
非常に気になる話だからあの2人に話そうかと思いましたが、気になってその森に行きたいと2人が話をし始めてしまったらどうしようもできません。そんな危険な場所に連れて行ったらバチが当たっちゃいます。
「あら、私の描いたクロは上手だわ!クロ本人にも見せないと」
私はソワソワしてるクロの元へと駆け寄ります。急に私が近づくものですから、目をまん丸に見開いて驚いた顔を私に見せます。
明らかに逃げようとしているのがこちらに伝わりますがそうはさせません。絶対に私の描いたクロを本人に見せつけるのです。動こうとするクロの方向を読んでそちらに私が先回りして逃げ場を無くします。先回りされることを考えていなかったクロはまた目をまん丸に見開いて今度は口も開いています。負けを認めたのか大人しく招き猫のようにその場へ座りました。
逃げられる前に絵日記をクロに見せつけたので私の勝ちです。
「どう?上手でしょ?」
「ニャー・・・」
「納得いってなさそうねあなた。私絵は上手なほうよ?」
「ニャー」
「もっと上手く書かないと褒めてくれなさそうね。図々しいわね。あなた本当に」
「ニャー」
「来年はもっと絵が上手くなって来るから期待していなさい」
クロはそのまま台所の方へと消えてしまいました。餌を求めに行ったのかもしれませんが、さすがにそこまで追う気は私にありません。次はクロに納得されるまで絵が上達しなければなりません。お勉強に加えて絵も頑張らないといけないなんてとっても忙しいことになってしまいます。
「椎菜はクロとのおしゃべりが上手ね」
おばあちゃんは関心している口ぶりで私を褒めてくれます。
「私にとっては簡単なことだもん」
「そうかいそうかい。それは子供だからクロとのコミュニケーションも取りやすいんだろうね」
「そうなの?」
「大人になったら色んなことができなくなるからね。今を大事にするんだよ」
大人になると何ができなくなってしまうんでしょうか。大人は逆に色んなことができるようになるいいことだらけのものだと私は個人的に思っています。お菓子もいっぱい食べられるし、夜はいくら起きていても怒られません。なんでも自由にできる大人は私にとっての憧れなのですが、大人になってクロと話せなくなるのは耐えられません。大人になりたいのに、大人になりたくない理由が1つできてしまったことは私にとって悩ませてしまう大きな種です。クロとはずっと仲良くしていたい存在なのですから。
「そういえば椎菜。帰って来てからお線香あげていないんじゃない?」
「あ!そうだわ!それは大変!おばあちゃんお線香に火をつけて」
「はいはい」
お線香の煙の匂いは嫌いじゃありません。独特な匂いだけど不思議と嫌な気持ちにはありません。
「じゃぁそれ鳴らしてお手を合わしてね」
「うん!」
(チーーーン!)
私はおじいちゃんにだけは心の中で川のお姉ちゃんのことを話します。
いつも遊んでくれることやクロが全然懐かないことなど、話したいことは沢山ありますが手を合せてる時に話すには限界があります。
今日は川のお姉ちゃんとお話したことだけ伝えましたところ、おじいちゃんの写真は私の話に満足そうに笑っています。その隣にある小さな壺も一緒に。
「さぁそろそろお父さんお母さん帰ってくるから、晩御飯の支度しましょうか。手伝ってくれる?椎菜」
「もちろんよ!いっぱいお手伝いしてたくさん褒めてもらうんだもん!」
「そうね。じゃあ台所に行こうか」
「うん!クロのおやつもあげないと」
クロが私に絡まれることを察して全力で逃げる姿が見えました。
追いかけます。
「う~ん見つからないな~」
私は今日も川のお姉ちゃんのところにいます。昨日絵本で四つ葉のクローバーのお話を読んで無性に四つ葉のクローバーを探したくなりました。なので、お姉ちゃんに協力してもらって見つけてもらってます。
この野原にはクローバーがいっぱいあるので絶対に見つかると信じてます。
「お姉ちゃん!そっちはどう?」
「ん~なさそうだね」
「おかしいな~すぐに見つかると思ったんだけどな。私の推理は間違っていたのかしら」
学校の友達達は結構簡単に見つけてきます。なので、私はてっきり簡単に見つかるものなのだと勝手に決めつけていたのですが、どうやらその決めつけはあまりにも現実とかけ離れていたようです。
昨日クロに絡み過ぎたからその腹いせにクロが先に見つけて食べてしまったのかもしれません。そう思ってクロを見ているのですが、相変わらずいつも通り川のそばで昼寝をしては私達のことを全く見ていません。
「あなた食べてないわよね?」
「・・・」
ぐっすりと寝ているためか私の問いにはなにも答えてくれません。
「寝過ぎね!もう。あ、あれって」
川の下の方を見ると、すぐ近くになにやら黒くて不気味な森があることがわかりました。私はその森に目を合わせたまま視点を変えられない状態になってしまい、惹かれている変な感じ。明らかに普通のキレイな森ではなく、何かしらいけない力を宿しているとしか思えない恐ろしくて惹かれてしまう悪い魅力を持つ森です。頭では見てはいけないと理解しては危険信号を出すのに意識はそちらに全て持ってかれて体のコントロールを全て吸われるようなふわふわした気持ちになってきたので私はどうにかなっちゃうのかもしれません。
「椎菜!!!」
「川のお姉ちゃん・・・私」
「危ないところだったよ。あの森の言い伝え聞いたでしょう」
「うん。詳しくはわからなかったけど、天国と繋がってるっておばあちゃん言ってたわ」
「そうね。言い伝えでこの地域の人は誰もあそこには近づかないの。あまりにも危険だから」
森が危ないという意識は全くわかりませんでしたが、私は今起きた変な感覚でその危険さを知ってしまいました。ただただ木が生えている周りと何も変わらない環境のはずなのに表す顔は怖さそのもので、言葉にはできない何かがまとわりついているのではないかと思われます。これは絵日記には書いてはいけないのだと私の中の私が叫んできます。
「怖いね」
「そうだね・・・この話は家族にはしない方がいいよ。みんな心配しちゃうからさ」
「うん。絶対言わない」
「そう。それでいいの。いい子だね」
私にはあの森がこちらに微笑んでいるようにも見えました。森に表情なんてないはずなのに私はどこを見てそう捉えてしまったのでしょうか。謎が多すぎて正しい判断が無理です。
「椎菜。今日はもう帰りな。ほら、足元に四つ葉のクローバーあるからそれ持って帰りな」
「え、あ、うん。ありがとう」
もう今の私には四つ葉のクローバーのことなんて頭から消えかけています。それほどまであの森は恐ろしく頭に強烈なインパクトを残していきました。
そして、見間違いかもしれませんがお姉ちゃんもどことなく悲しい顔をしています。
今日は変な日です。
あの森以外誰も笑顔にならない変な日です。こんな日は何度もあってはいけない気がします。
「クロ帰るよ」
「ニャー」
クロは何もわかってないとは思いますが。あれだけぐっすり寝ていたクロが私の一声で帰る準備を整えます。何かしらクロ自身で感じるものがあったのかもしれません。
「じゃあねお姉ちゃん」
「じゃあね椎菜」
私は今日の短い散歩を切り上げました。
「今日は四つ葉のクローバーを見つけたの」
文明の力は素晴らしいものです。タブレット端末のビデオ通話機能を使うことで遠くにいる人とのコミュニケーションが取れます。
「椎菜ちゃんそれどこでも見つかるわよ」
「そのはずなんだけど私には全然見つからなかったんだよ。ももちゃん」
今日も2人と時間があったので「ももちゃん」と「そらちゃん」とのビデオ電話を行っています。
「私の家のお庭を探せばいくらでも見つかるはずだわよ」
「それはももちゃんのお家がでかすぎるだけな気もするよ」
やはりももちゃんのお家はかなり大きいようです。
「そうだ!そうだ!あたしだってなかなか見つからなかったぞ!」
そらちゃんは今日も元気です。
「椎菜その四つ葉のクローバー1人で見つけたの?」
「え?」
そらちゃんの質問に私は少し戸惑います。川のお姉ちゃんのことを伝えることは本人に止められていますので、この場でお姉ちゃんのことをいうのは約束を破ることになってしまいます。
「そうよ。クロと一緒に探したの」
「てことは、見つけたのはクロだね」
「そらちゃん!なんでそんなこと言うのよ!私かもしれないじゃない」
「絶対ないね」
「ひどい!私だって見つけること簡単にできるもん」
「前見つけに行った時も椎菜だけ見つけられなかったじゃんか」
「あの日はたまたまだもん」
私とそらちゃんの戯れにももちゃんが凄いことを言って制止してきました。
「こらこら2人ともやめなさい。爺や紅茶を持ってきてくれるかしら〜」
「ももちゃん!爺やって!?」
「もも!?今なんて」
「え?あ、あぁ。おばあちゃんの家にはお手伝いさんがいるのよ」
ももちゃんのお家はお金持ちであるというのがこれで確定してしまいました。お手伝いさんというのは本当にいるものなのですね。お母さんもももちゃんのお家はお金持ちだと信じていましたから、あとでお母さんに報告しないといけません。
「ももちゃんのお家どれだけ広いのよ」
「そこまでじゃないわ〜」
「でも、爺やがいるってことはメイドさんもいるってことじゃないの?」
「3人はいるわね」
「うわぁぁぁ。す、凄い」
「そんな事ないわよ。ここは私の家じゃなくておじいちゃんおばあちゃんの家だもの」
この世界に爺やと呼ばれる人とメイドがいるなんて想像もつきません。絵本や物語の世界にしか有り得ないファンタジー的な何かだと思ってた私を完全否定してきます。
「てことは、メイドになればももちゃんの家で働けるってことね!ずっと一緒にいれるんだね!」
「え…椎菜ちゃんそのいい方はちょっと気持ち悪いかもしれない…」
「酷い!」
「言い方ってのがあると思うのよ。今のはちょっと気味が悪い感じがしたかもしれないわね〜」
「ももちゃんもっと傷をえぐるのやめてよ」
ももちゃんはなかなかに鋭く人を言葉で切ってきます。私にはまだ分からないですが、何故か切られても悪い気がしません。褒められてる訳でもないのに悪い気がしないのはおかしな話のはずなのです。
「メイドはそうだな…私でも出来るかもしれねえな」
「そらちゃんには無理だと思うよ椎菜的には」
「なにィ!椎菜!どういうことだ」
「あなたお皿とか割りそうだもん」
「お皿は買い替えるものだろ」
「その考えが怖い!」
「3時のおやつはつまみ食いもするぞ」
「ダメだよ!それはももちゃんのおやつだよ!」
「3時のおやつ食べ過ぎるとママに怒られるんだからももの家行ったらたらふく食べる」
「メイドさんのお仕事じゃないのよそらちゃん。普通に遊びに行くことと同じだと私は思うわ」
そらちゃんにはメイドは無理だと思います。
「そうね〜うちの家でそらちゃんがメイドになったら専属の見張りをつけようかしら〜」
「もも!それメイドさんの意味ないじゃん!」
「お皿を割ったら数えてお金を払ってもらうわね〜」
「今…300円しかない」
「将来はもっと稼げてるわよ〜。でも、そらちゃんがメイドで家にいたら家は明るくなりそうね」
「それは任せろ!」
周りを明るくする摩訶不思議な力は確かにそらちゃんにあります。それは他の人では簡単に真似出来ないそらちゃんの個性であり、クラスに1人いるだけで雰囲気が変わる凄い個性です。
「あ、爺や。ありがとう」
爺やがももちゃんに紅茶を持ってきました。初めて爺やと言うお方をお目にかかります。
「もも様。お紅茶でございます」
「爺や。こちらお2人が私のお友達よ」
「おぉ…これこれははじめまして。いつも私共のもも様と仲良くして頂きありがとうございます」
「え、あ、は、はい!」
「お、おう!」
私もそらちゃんも急に緊張してしまいました。
「2人共緊張しすぎよ〜」
丁寧で物腰柔らかい爺やはみんなから愛されそうなオーラを醸し出しています。
爺やとお話をちょっとだけしましたが、その際に気になることを言われました。
「椎菜様…失礼を承知でお伺いさせていただきますいただきます」
「え、なにかしら」
「最近幽霊と会われましたか?」
「会ってないと思うわ。いつもクロといるだけよ」
「そうですか…失礼いたしました」
私はその時言われたことがずっと引っかかってしまいます。その言葉を爺やが言ったことをももちゃんからも謝られましたが、爺やは霊を感じる力が強いらしくちょっとした違和感さえも感じ取ってしまうとの事らしいんです。
お化けと出会った記憶はありませんが、やはりあの森の近くに行っていたことが原因でしょうか。よく分かりませんが、そこまで強く爺やも感じた訳ではないとの事なので放っておきますが、ちょっとだけ気になります。
それから2人とのお馬鹿な話の連続は終えて今日も1日を終えました。
だけど、やっぱり爺やの言葉にだけは違和感が意識の外でずっっと残ってはいじめてきます。
この夜を境に私は日常が脱線して御伽噺に舞い込むことになります。
次の日いつもいるはずの川のお姉ちゃんに出会うことは出来ませんでした。お姉ちゃんにだって予定はあるのだから仕方の無いことなのですが、あれだけ毎日会っていたお姉ちゃんが急に消えることが不安だとさえ思ってしまった私はお姉ちゃん依存です。そして、クロが川の傍で寝なくなりました。あれだけお姉ちゃんを無視して寝てたクロが全くくつろぎをせずに川の周りをウロウロしています。
ウロウロしてはある箇所を見つめて威嚇をする始末です。
お姉ちゃんがいないだけでなく、クロもいつもと違うため2つの日常歯車が狂っているため、私にはどうしてもソワソワするしかないのです。
明日は19日。
お家に帰る日です。
明日会えなかったら川のお姉ちゃんにはもう会えません。
だけど、どうでしょう。
19日になって最後のバイバイ言いに来たのにやっぱり川のお姉ちゃんはいませんでした。
「う〜ん。やっぱり今日もいないのね」
「ニャー」
「あなたまた昨日みたいに怖い顔してるのね」
「・・・」
「ご機嫌斜めね!お姉ちゃんいないしクロはおかしいしどういうことかしら。こんなモヤモヤがある状態で帰りたくはないわ!」
私は諦めて帰りの道へと戻ろうとしました。でも、クロが私の腕を振りほどき地面へと着地しました。
「本当にどうしたのかしら」
クロは無言で歩き始めてしまいます。
私は無意識についていってしまいます。
クロを1人にしてはいけないという気持ちでついていっているのではなく、何かに引かれるように私はクロを追います。それは私だけでなくクロも何かに引かれるように歩いてるのでは無いでしょうか。
つまり、私達は何かによって歩かされている。
「怖い」
という気持ちも思い浮かべないほど意識の外からごくごく自然に私を誰かが操作します。
操作権を奪われたら何も足掻くことなんて出来ません。ただひたすらに間を任せて進むのみ。全力で抵抗はしていますがそんなことは無意味だと最初から教えこまれます。
(私が私じゃなくなる)
今の私は誰なのか。
椎菜という女の子は私であっているのか。
そういったことさえもあやふやになるほど私は自我を失いつつ、神経から伝わる外部信号を脳へと直接届けます。
(私…こんなだったっけか)
多少保ってる私自身で自分を見つめ直しますが、明らかに私じゃありません。
「誰なんだ私は」
自問自答に答える自分はいません。
意識に閉じ込められた私は視覚情報から自分がどこにいるのか特定をしてしまいました。
ここは森の中。単なる森であればビビる必要性さえ無いのだが、ここはあの川沿いにある森だ。おばあちゃんがあれだけ近寄るなと言っていた天国に近い森。
私はそこに足を踏み入れた。いや、招かれたと言っても過言では無い。
(誰に?この森に?)
あたりは昼間とは思えないほど鬱蒼と木々が生い茂っては暗さを示し、夏を忘れるほどの静けさを突きつけてくる。
どんよりとした雰囲気は息苦しさを与えてより一層考える力を奪う。
鼻腔を刺激する青臭い葉っぱの匂いは私の不安を増大させるにはこれとない代物だった。
「この森では孤独だ」
この森には誰もいない。
天国に近いと言えど私は死んでなんてない。ただの人間の予定だ。社会の雑踏を踏んで強く生きる1人の女性でも、生きてるのは間違いない。
「どこへ向かうの?猫ちゃん」
私は目の前を歩く黒い猫に問うが答えは帰って来ない。そもそもこの黒い猫はなんなんだ。懐かしささえ感じ取ってしまうこの猫を私は知っているのかもしれない。
そう思いながらついて行くと川へと出た。
「夏の川…綺麗だわ」
昼間なのに真っ暗な夏の川はホタルの光で照らされて足りない光量を補う。
身体を照らすは太陽ではなくホタルの陽。お尻から放たれる独特な光は私を満足させて全身を光のアクセサリーで包み込む。
「美しいな。綺麗だな。もっと纏いたいな」
私はその一心で川へと足を踏み入れて遠くに見える対岸へと向かおうとしたが、その行動を全力で止めてくる者が現れる。
「椎菜!戻って!」
その言葉は私の自我を元に戻す鍵になりました。
「あれ、川のお姉ちゃん」
私の目の前にはいつものお姉ちゃんがいました。すっごく焦った顔をして私の事を見ています。
「どうしたの川のお姉ちゃんそんな顔して。怖いわよ?」
「あぁよかった戻ったのね」
「なんか変な感じがしたわ。今まであんなの味わったことな無いもの」
「椎菜今あなた一瞬大人になってたんだよ」
「そうなの!?不思議ね。私まだ2年生だから大人なんてまだまだ先だわ」
「そうなんだけどね」
お姉ちゃんは何か意味のわからないことを言います。確かに変な感じにはなりましたし、自分が自分じゃない言葉に出来ない状態にはなってましたが、大人になってたなんてそんな常識外れなことは信じられません。お姉ちゃんは私に冗談を言ってるに違いありません。
「私はまだまだ子供なんだから大人になる気はないわ」
「でも、椎菜の大人の姿は綺麗だったよ。誰かさんに似てたけどね」
「誰かに?」
私と川のお姉ちゃんに共通のお友達なんていたとは驚きです。
「そうね…あなたの1番身近な人」
「それじゃ分からないわ」
「分からなくていいの」
意地悪してきます。
それにしてもまた会えたことはとっても嬉しいです。でも、私は会えちゃった場所を思い返して大変なことに気がつきます。
「大変だわ!ここあの森よ!」
「うん…そうだね」
「おばあちゃんとの約束を破っちゃったから謝らないと。天国に近いって話だけどここ誰もいないのね。あれ?あそこに人が」
私は先程までここは孤独だと思ってたのに何やらちょっとぼんやりとした人が安心そうな顔をしてそこら辺を歩いています。
「もうそろそろダメね。椎菜ここから出してあげる。着いてきて」
「そうね!ここにずっといると怒られちゃうもの」
ほぼ意識のない状態で入ってきてしまった私は来た道を戻るという正当法でが使えませんので、お姉ちゃんが道を知ってて助かりました。
「やっぱり地元の人は詳しいのね」
「うん」
暗く不気味な森の姿は変わりませんが、お姉ちゃんといればなにも怖くありません。いつも通りお話をいっぱいしますが、今日はどこか悲しそうな顔をして頷いているだけです。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
「あ、そういえば私今日でお家に帰るの。そのお別れを言いに来たのよ」
「送り盆だもんね」
「川のお姉ちゃん遊んでくれてありがとうございます」
すると、川のお姉ちゃんは泣いてしまいました。
「もう!なんで泣くのよ!私はまたこの街に来るから会えるじゃない」
「会うか…そうだよね。そう…会えるよ」
川のお姉ちゃんは何か言いたげな顔をしながら言葉を口から出すのを止めています。
「私は椎菜の成長した姿を見れてよかった」
何を言い始めたのでしょうか。
「これで私は満足だよ。こうやって一緒に遊べて話を聞いてあげて森に迷ったら助けてあげて…ちょっとは自分の使命を果たせたかな」
「何を言ってるの?」
「いいんだよ。ほら、ここが出口だよ」
私はやっとあの暗い森から出てこれました。久々の日差しと暑さに懐かしささえ感じちゃいます。
「ニャー」
「あなた先に出てたのね!心配かけちゃったかしら」
「ニャー」
「無事に出れたから帰ろうか。お姉ちゃんも帰らないと」
「私はやる事あるから先に帰りな」
「でも、そこ危ないよ」
「いいのよ。椎菜…今日のこと」
「うん!誰にも言わない」
「言っていいよ。驚かせてよね」
初めてお姉ちゃんは自分の事を人に言っていいと許してくれました。これで存分にお母さんとお父さんとおばあちゃんに紹介できます。それがいかに嬉しいことなのでしょうか。
「いいのね!ありがとう!」
「うん!きっと驚くよ。名前も教えとく」
「最後の日に全部教えてくれるのね!お姉ちゃん名前なんて言うの?」
「私は''もな''…萌奈だよ」
「萌奈お姉ちゃんって言うんだね!また次来た時も遊んでねお姉ちゃん」
「うん。会えたら」
「大丈夫。ここに来たら絶対いるでしょ?」
「そうかもね」
「じゃあ行くね!バイバイ!またね!」
「バイバイ椎菜。さようなら」
「ニャー」
私は萌奈お姉ちゃんの事を話したくて仕方ありません。
クロと一緒にお家へと戻りました。
「ただいま!」
私はすぐにみんなのところへと向かいました。
「あらあら今日は早かったわね」
「そういう日もあるわ!」
「何か話したげだね。こっち来なさい」
私はあのお姉ちゃんの話をし続けました。
一緒に遊んでくれたり、クロが全く懐かなかったり、クローバーを見つけてくれたこと。沢山お話をしました。
そんな話をしている間にお母さんとお父さんもリビングに集まってきたので、みんなにお話をしました。こっちでも友達が出来たことをみんなは凄く嬉しく思っているようで、ニコニコしながら聞いてくれます。
ですが、残念ながら森の話をしないといけません。
「おばあちゃんあのね」
「ん?どうしたの?」
「私約束を破っちゃったの」
「あらあら、何をしたの?」
「あの森に入っちゃったの」
「まぁ!椎菜!大丈夫だった?」
「私は大丈夫よ」
その話を聞いてお母さんも驚いていました。お母さんも子供の頃からあの森には近づくなと言われていたので、私が入ったことをとても心配そうな目で見てきます。
「あんた本当に大丈夫だったの?お母さんもあそこの森のことはよく知ってる。誰も近寄らないし入って行方不明になった人がいるって噂もあるの」
「大丈夫!あのお姉ちゃんが森から連れ出してくれたの」
おばあちゃんとお母さんは唖然としてます。
どうやら、地元の人が入らない森にわざわざ入って私を助けてくれたそのお姉ちゃんに感謝をしているようです。
「そんなにやばいのかその森は」
お父さんはここの人じゃないので言い伝えにちょっと疑問を持ってるようです。お母さんがすぐに反論します。
「あなた。その森は禁足地なの。この街で1番危険な場所なのよ。地元の人はその恐ろしさを知っているから誰も近寄らないし入ろうともしない。そんなところに迷い込んだうちの娘を助けてくれたならお礼をしないといけない」
「禁足地か…それはなかなかだな。椎菜よかったな優しいそのお姉ちゃんに助けてもらって」
お父さんは顔を近づけてきました。
私はとあることに気がつきそうです。
「この街に子供は少ないわ。中学生くらいの子なら名前さえ聞けばどこの家の子かわかるわ」
おばあちゃんはそう言うと電話の近くによります。
「椎菜。そのお姉ちゃんの名前わかる?」
私は再びお父さんの顔を見ます。
ふと、何に気がついたのか分かりました。
「お父さん…川のお姉ちゃんに顔が似てる」
「え?俺?」
「なんとなく似てるの。萌奈お姉ちゃんに」
「え…?萌…奈?」
あんなに喋ってたみんなは一瞬で沈黙しました。なんででしょう。理由が分かりません。
お母さんがすぐに私へ焦りの顔で寄ってきます。
「椎菜…その名前本当なんだね」
「間違いないよ。そのお姉ちゃんは萌奈っていうの」
お母さんはおばあちゃんに確認をします。
「ねぇお母…この街に萌奈って子はいる?」
「いないわ。絶対に」
次にお母さんは私に顔を向けます。
「萌奈お姉ちゃんは森から一緒に出たの?」
「いや、萌奈お姉ちゃんは森でやる事あるって言ってたから残ったよ」
私のその発言を気にみんなは泣き始めました。
「萌奈……」
「萌奈お前…椎菜と遊んでくれたんだな」
お母さんは特に泣いています。
「萌奈…現実で会わせてあげられなくてごめんね。会いたかったんだよね」
「お母さんどういうこと?」
「萌奈…椎菜と沢山遊んでくれて沢山お話してくれて、いっぱい面倒見てくれてありがとう。お母さん嬉しいよ」
もう何が何だか分かりません。
おばあちゃんは何故か仏壇の方にいってナンマイしてます。
「萌奈。椎菜と遊んで楽しかったかい?また遊んでやってくれ。ゆっくり帰るんだよ」
見つめる先にはおじいちゃんの写真の横の小さい壺がありました。
「そのお姉ちゃんはいいお姉ちゃんだった?」
私はその問にすぐ回答します。
「いいお姉ちゃんだった!」
その年以来私は萌奈お姉ちゃんに出会えることは無かった。
萌奈お姉ちゃんが私の本当のお姉ちゃんだったことを知ったのはだいぶ後。産まれる前に亡くなった萌奈お姉ちゃんはおじいちゃんと同じお墓に入ってるとのこと。
大人になってもあの時遊んでくれた事は忘れられない。唯一の姉との遊びなのだから。
今でも夏の川を見るとお姉ちゃんを思い出す。
遊んでくれてありがとう
お姉ちゃん




