1-6 「新ヒーロー、初めました!」
「──【変身】ッ!!」
瞬間、掲げられたスマホから眩い光が放たれる。
白昼のような極光に驚くより先に、身体に何かが次々と装着される感覚が始まる。
そして光が収まると、慎二の姿が変わっていた。
「マジか」
──いや、変身していた。
黒のインナースーツの上から纏った白と青の装甲は西洋の騎士をモチーフとしているよう。
胸部中央に装着されているのは眩い光を放つ炉心。
そして蹄デザインのブーツに、ヘルムから伸びる一角獣のツノ。
「最高じゃないか!」
如何にもなヒーローが、そこに立っていた。
「良いじゃん、騎士とユニコーンモチーフにしては平成ラ○ダーへ敢えて寄せないデザイン! パワードスーツの感じはどちらかというとアメコミ寄りか? このデザインやった人って誰!?」
『それは企業秘密だ』
「うわっ、びっくりした」
いきなり耳元で聞こえたイッカクの声に驚く慎二。
『ソシャゲイザースーツと私は一体化しているのだから当然だろう。むしろスーツ内蔵AIとしてが私の本分だ』
「なるほど」
手をポンと叩いて、わかりやすく納得した様子を示す慎二。
だがすぐにソワソワと何かを気にし出した。
「でも、さっきの変身ってヤツ、大丈夫だったかな?」
『大丈夫とは?』
「スマホを真っ直ぐ上へ掲げて変身って叫ぶプロセスって、たっく○ファ○ズの変身ポーズと同じだからさ著作権とかに接触しない!?」
『気にするな』
「そうか、じゃあ気にしない!」
慎二がその場で軽く跳躍しながらスーツの着用感を確かめていると、怪人は彼の突然の変身に驚きの声をあげた。
「お、おま、お前も怪人だったのか!?」
「どーみても怪人じゃねーだろ目ェ腐ってんのか」
『口悪っ』
「いやぁ、ついついテンション上がっちゃって」
『だろうな』
炉心からの光がそこそこの輝きをを保ったままでいることを確認して、イッカクはそう答える。
『胸のヤツがE.S.ドライヴといって、そこでシンジの感情をエネルギーへと変換している』
「つまり?」
『テンション上がれば上がるほど強くなる』
胸部中央から溢れる光量は、如何に今の慎二の感情が高まっているかを示していた。
そして、彼らが色々確認をしている間に怪人もまたある種の覚悟を決める。
「今更引けねぇ、ぶっ殺す!」
ブルりと一度武者震いをして己を奮い立たせると、怪人は頭部を前に突き出すような姿勢で慎二に向かって突進を始めた。
闇夜を照らす街灯の灯りが、頭部の太く頑強そうな角を鈍く光らせる。
「うぉっ!」
慎二はその突進に対して、咄嗟に回避する──ではなく、受け止めるという選択を取った。
無論、あくまで咄嗟の判断で熟考した末のモノではない。
もしこれが生身であったなら、彼の命運はここで尽きていたであろう。
──生身であったのなら。
「な、なにぃ!?」
慎二はその突進を受け止め切った。
コンクリートの地面に彼が踏みしめた轍の跡が延びて、その突進自体が並の勢いではなかったことを物語っているにも関わらず。
そして彼は、鋭利な角を躱し、頭を脇腹に通してガッチリとアームロックをかける。
「おりゃあ!」
更に、足腰に力を入れて怪人の身体を高く持ち上げると、そのまま地面に叩きつけた。
ズンという鈍い衝撃と共に怪人の身体がコンクリートに沈み込む。
「がはっ!」
怪人は全身を打つ痛みに苦悶の声を上げる。
「追撃!」
地面に伏す怪人に向かって、勢いよく左足による踏みつけ攻撃を繰り出す慎二。
怪人はその攻撃を耐えてから踏みつけた左足を掴んで払い、慎二の姿勢を崩す。
そして倒れかける慎二に立ち上がりついでにカウンターとして殴りかかった。
コンクリートを砕く怪しき拳が、慎二の鳩尾に深く突き刺さる。
「痛って!」
生身で受ければ致命傷確定の拳を受けて、彼は痛いと叫ぶ──だけで済んでいた。
そしてお返しとばかりに、痛烈なアッパーを怪人の下顎にお見舞いする。
怪人は辛うじてそのアッパーカットを背を逸らして躱し、バックステップで少し距離を取る。
一方的に嬲れる相手じゃないと、警戒心を露わにして慎二の様子を注視してきた。
対する慎二も次の攻撃に備えて、半身になって構えを取る。
そんな彼に、イッカクがこう話しかけた。
『シンジ、名乗りは上げないのか?』
「名乗り?」
『さっきも言ったが、ソシャゲイザーの強さは君のテンションに左右される』
「うん」
『名乗りを上げた方が、君はアガるだろう?』
「確かに」
「新ヒーロー、初めました!」
右の拳を高く突き上げて彼は叫ぶ──いや、産ぶ声を上げる。
真新しい鎧に身を包み、怪人をも救う為に立ち上がった特オタヒーロー。
その名も──。
「重課金戦士、ソシャゲイザー!!」