1-3 「何その嫌すぎる名前のヒーロー!?」
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「はー、そんな事件巻き込まれるなんて運が無いんだかあるんだか」
「全くです」
コンビニ強盗撃退から約十時間後。
勤め先のスーパーの休憩室で、慎二はたまたま休憩時間の被った店長と一緒に食事を摂っていた。
このスーパーの店長は三十代半ば、肩口で綺麗に切り揃えられた髪型の女性で、従業員の中では割と歳が近い慎二とは仲が良かった。
「てか、今更だけど今日仕事して大丈夫だった? 事情が事情だし休んで貰っても構わなかったけど」
自分の店で買ったのり弁を突きながら、彼女が慎二にそう言う。
慎二はあの事件の後すぐに店長へ連絡し、警察への聴取がある為、遅刻ないしシフトを遅くの番へと変更して欲しい旨を伝えたのだ。
「いや、別に怪我もしてないですし」
ついさっき人生のハイライトに入るようなアクシュデントに見舞われたばかりとは思えない、まるで緊張感がない様子で、慎二は半額の唐揚げ弁当を頬張る。
「ただまぁ、駆けつけた警察の人にはめちゃくちゃ絞られましたけどね」
事件の後に駆けつけた警官の皆々様は、一部始終を知るや否や慎二に対して厳重注意をしたのだ。
その際の剣幕を思い出して、思わず彼は辟易とした表情を浮かべる。
「そりゃそうよ!」
そんな彼に対して、当たり前だ馬鹿と店長は声を上げる。
「ウチのマニュアルでも、変な反抗はしないようにってなってるんだからね」
売り上げも大事だが、従業員の人命が何より大事と店長は言う。
それに対して、いやはやおっしゃる通りでと慎二は苦笑いを浮かべた。
「そもそも、なんでンな無茶したのよ?」
少し考える間をおいて、とぼけたように彼は返す。
「レジの子が怖がってて、なんか危うかったんですよ」
嘘は言ってない。
レジの女の子が危なっかしかったのは間違いではない。
まぁ、一番の理由では無いが。
「にしても、犯人に抵抗する理由にはならないでしょ?」
「いや、でも悪い奴に従うのって釈然としなくないですか」
「そりゃそうだけど」
のり弁の磯辺揚げを咥えながら渋い顔をして店長が頷く。
「罪には罰というか、通すべき筋ってあると思うんですよ」
「まぁ、無事だったから良いケド」
釈然としないがわからなくもない、という慎二の絶妙な着地点にそう店長は結論付けた。
「無茶はあまりしないでよね?」
実際のところ、慎二は謎の声に従ったが故にあぁいう選択を取ったのだけれど。
それを彼女に言ったところで信じてもらえまいと、彼はは内心ひとりごちる。
『無茶ではない。事実上手く行ったであろう』
──もっとも、今スマホを証拠として見せれば話は違うだろうが。
慎二が今も懐に忍ばせてるスマホには、あの事件以降あの声の主ことAIのイッカクが入り込み居座り続けていた。
何を隠そう実はあの時から声は慎二のスマホから聞こえていた。
「はははははっ」
慎二は、乾いた笑い声を上げながらポケットにあるスマホを今すぐにぶん投げたい衝動を抑える。
自称高性能サポートAIイッカクは、完全に無断で慎二のスマホに勝手にインストールされていたのだ。
「まぁ、平気そうなら良いケド。アタシは先に上がってるから、あとはごゆっくり」
ささっと食べ終えた弁当を片付けて、颯爽と休憩室を出ていく店長。
「あ、今度新しい人取るから、よろしくね」
「了解っすー」
慎二は、その後ろ姿をにこやかな作り笑いで見送って、ドアが閉まった瞬間に即スマホを取り出した。
『やぁ、シンジ』
「やぁ、じゃない!」
まるで友人に対するソレの様に、スマホ画面上から片手──いや、片脚をあげて挨拶する存在がいた。
一昔前のカートゥーンアニメみたいなデフォルメを施された、青白いユニコーン型のマスコットキャラクターじみた姿。
あと、何故か馬なのに直立二足歩行している。
どうやらこのふざけたキャラクターがイッカクのアイコン姿らしい。
「そもそもなんで俺のスマホに!?」
先程確認したら、入れた覚えのないアプリが勝手にインストールされていた。
青地に白でユニコーンを模ったマークが付いている謎アプリだ。
──しかも、地味に容量が大きい。
現代人のスマホはただの連絡手段ではなく多目的ツールと化しているので、無駄な容量喰う謎アプリを勝手に入れるなんぞ最悪中の最悪の行為である。
『先程も言ったが、君に頼みがあるからだ』
そんな慎二の切実な悲鳴なぞ意に介さず、淡々とイッカクは言葉を紡ぐ。
『シンジ、正義のヒーロー"重課金戦士ソシャゲイザー"へ変身して街の平和を護ってくれないか?』
「何その嫌すぎる名前のヒーロー!?」




