1-2 「テメェの面、覚えたからな!!」
『OKだ』
その声を聞くや否や、あらかじめ覚悟を決めていた慎二の行動は迅速だった。
現金の詰まったカバンを引ったくる様に掴むとソレで目の前の強盗に向かって振り下ろしたのだ。
「ギャ!?」
レジ一台分とはいえ、その中には紙幣のみならず小銭や棒金も入れた為、カバン重量は意外な程ある。
それこそ、ちょっとした鈍器として使えるくらいには。
「おめッ、何しやが──ぐへッ!?」
詰め寄ってきた二人目にもニ撃目をお見舞いする。
こうして、上手くカバンの中に衝撃を与えた所で最後にソレを入り口の方へぶん投げた。
「てめぇ、ぶっ殺してやる!」
ナイフを振りかぶったリーダー格の強盗。
それに対し、慎二はただ後ろに数歩下がる。
たったそれだけのことで、強盗の狂刃は慎二に対しての脅威を落とす。
何故なら二人の間にはレジカウンターがあり、それが障害になって強盗が慎二に向かって詰め寄れなくなっていた。
冷静であればそんな当たり前のことに気が付かない訳がない。
しかし、今の彼は慎二からの先制攻撃によって怒り心頭。
無論、冷静さも平静も失っていた。
レジカウンターに阻まれて、伸ばした手に握られたナイフは慎二へ届かない。
それなら、反撃は容易であった。
ナイフを手に伸ばされた腕を右手で掴み、その腕を左手で上から思いっきり殴る。
「痛っ!」
痛みで握力が弱り、落ちるナイフ。
レジカウンターに一度当たって此方側の床へ落下してきたソレを、慎二はさっと蹴って奥へ飛ばす。
『手際が良いな』
「昔ちょっと、ね!」
凶器を失った強盗を、彼はそのまま腕を拘束してレジカウンターの硬い表面に叩きつける。
「テメェ、アニキになにしやがる!」
強盗そのニが加勢──しようとするが、レジの狭さで思うように行かない。
ならばと内側へ回り込もうと走りろうとした時だった。
遠くから近づいてくるサイレンの音が聞こえ始めたのだ。
「は!?」
「いつ誰が通報しやがった!?」
明らかに早すぎる警察の到着に更に動揺が酷くなる強盗たち。
『無論、私が通報した』
慎二にしか聞こえない声の主がそう言ったが、無論その解答は彼等には届かない。
「あー、もうクソッ! 放せ!」
強盗その一が腕を振り回して強引に拘束を逃れると、慌てるそのニの首根っこを捕まえる。
「ずらかるぞ」
これ以上長居するメリットは無いと判断し、出入り口へ向かって走り出した。
「テメェの面、覚えたからな!!」
最後にそう言い残し、強盗たちは現金の入ったカバンを引ったくって逃げていった。
「ねぇ、最後めちゃくちゃ怖いこと言われたんだけど」
『気にするな、もし彼等が再び来たとしてももう君は大丈夫だ』
声の主が意味深な言葉で慎二の無事を保証する。
「ところで、結局アンタはどちら様で?」
強盗たちの逃げていった方角を見やりながら、慎二は声の主に問う。
声の主はさして躊躇う素振りもなく、彼の問いかけに自身の正体を明かした。
『私は、高性能サポートAI"イッカク"』
「──は?」
あまりに予想の外の答えに、思わず慎二の口から間抜けな声が漏れる。
そんな慎二の反応など意に介さず、イッカクはこう続けた。
『君に頼みたいことがある』