2-12 「──ごめんね」
「随分と足元みた商売してくれやがって!」
ここぞという絶好のタイミングで差し込まれた十連ガチャの存在に、ソシャゲイザーは激昂した。
『私が値段と仕様を設定した訳では』
「開発者、覚えてろよ!!」
顔を上げて空の彼方を睨み、まだ見ぬ開発者に対する怨念を叫ぶ。
いつか会うことが出来たら絶対ぶん殴ってやると彼は堅く決意を固め、ついでに十連ガチャをしぶしぶ回す決意も固める。
「一回五千円か」
必殺ガチャが一回五百円だから、単純計算で五千円。
財布に入ってたかな、と思い出そうとした時にイッカクから注釈が入る。
『いや、三千だ』
「コスパ良くね?」
むしろそれなら、今後は十連メインで引いていった方がいいまである。
先程のR必殺技も必殺技として見るなら弱いが、通常攻撃よりは強い。
ガチャの性質上、何が出るかわからない為に戦闘プランには組み込みづらかったが、あらかじめ引いて置いてストック出来るのなら話は別である。
『だが、選択しなかった必殺技は即時破棄。再利用不可だ』
「は?」
まさかの糞仕様に、ガチめの苛立ちが滲んだ疑問符がソシャゲイザーの口から漏れる。
とてもヒーローが出していい声色ではなかった。
「十連ってより、確定ガチャに近いな──っと!?」
イッカクとの話に少し気を取られていたソシャゲイザーを、怪人が押し倒す。
上に覆い被さり叫びながら怪人は首を絞めにかかってきた。
「え、え、んじゅ、えんじゅぅぅうう!!」
両手で首が絞まらないように怪人の腕を掴んで抵抗しつつ、腹部へ蹴りをいれて怪人を身体の上から退かして跳ねるように起き上がると、ソシャゲイザーは呟く。
「──迷う余裕も、理由もないか」
休憩時間云々、お金云々より、姪に危害を加える気満々の相手をこのままにしてはおけない。
ソシャゲイザーは覚悟を決める。
「やるぜ、十連必殺ガチャ!」
その宣言と共に、左手に召喚される五千円。
ガチャッチメントに近づけると、硬貨投入口にその五千円がずるっと吸い込まれていった。
【カッキーン】
【カカカカカカカカッキーン!!】
通常より強めなガチャッチメントのシステム音声に合わせて、ソシャゲイザー胸部のE.S.ドライヴの光が強くなる。
【ジュウレン カッキーン!!】
「おりゃ!」
音声にて十連ガチャの始動を確認したソシャゲイザーが勢いよくレバーを回す。
まるでギアが上がったかのように普段より重く手答えのあるレバーが回転し、ホログラムカードが一気に排出される。
【レンゾク ハイシュツ!!】
十枚のカードがソシャゲイザーの周囲を回転しながら囲み、その中の一枚を彼が掴み取る。
真紅の文字でSRと書かれたカードを。
【セレクト SR】
彼の手中で解けて消えたカードが、背後に巨大化して再出現する。
そして巨体なホログラムカードの中からマシン・ソシャレイダーがひとりでに姿を現す。
「なるほど、今回はこういう趣か」
彼はソシャレイダーに騎乗し、ホログラムカードが落とす影の中からヘッドライトが瞬く。
眩いヘッドライトが怪人を照らし、その閃光に彼女は手を翳して顔を隠す。
「いくぜ?」
マシン・ソシャレイダーが感情エネルギーの光を纏い、その場で高速回転する車輪との摩擦で生じた炎が、龍の如く細く長く立ち昇る。
威嚇するようにアクセルを吹かし、次の瞬間に彼は突撃する。
「必殺、【マシン・インパクト】ッ!!」
眩いライトの閃光で敵の動きを止め、怪物的な超加速による突進が炸裂する。
衝突の瞬間にウィリーするように前輪が持ち上がり、怪人を押し潰しながら地面を慣性に従って削りとるように引き摺り倒す。
「え、ぇえんじゅ──」
そして怪人の身体が危うい輝きを放ち始め──。
「──ごめんね」
悲しい今際の言葉を残して、爆発した。




