2-11 『十連ガチャなら、SR以上確定だが?』
『何となく攻撃パターンはわかった。今から私の言う通りに動いてくれ』
今のままだと鞭を躱しながら時間を消耗するだけ。
文句をつけたものの代案は思い浮かばない為、ソシャゲイザーはイッカクの案に乗ることを決める。
「頼むぜ?」
特に詳細は聞いていないが、まぁ無茶は言わないだろう。
そう思いながら半身になって動きやすい構えを取り、イッカクからの指示を待つ。
『右右左前左右後右前前後』
「待て待て待てぃ!?」
イッカクからもたらされた、あまりにもあんまりな指示に彼は思わずタタラを踏む。
「ゲームの隠しコマンドみたいなこと言われても!?」
端的すぎて具体性のない移動指示に文句をつける。
『信じている、君なら出来ると』
「その謎の信頼はなんだ!?」
出会ってからまだ一日しか経っていないのだから、そのリアクションもさもありなん。
だが、言われたからには期待に応えねばと、両手で頬をバンバンと叩いて気合いを入れ直す。
「よっしゃ、こい!!」
次々にイッカクの口から告げられる短過ぎる指示にしたがい、細かくステップを踏むように鞭を避けていく。
無理に前へ出ない、だが複雑かつ面倒な回避指示にソシャゲイザーは──。
「──いや、意外と出来るもんだな」
意外と順応出来ていた。
彼自身のポテンシャルの為せる技か、それともソシャゲイザースーツの高性能っぷりのせいか。
怪人から見たら、まるで惑わせるかのような動きで鞭攻撃の乱打を避け続ける。
そして、ついにイッカクが狙っていた展開が訪れる。
無軌道に無作為に打ち続けた触手の鞭同士が、ある一点に集中する。
しなる触手同士がそれぞれの動きを一斉に阻害し出す。
「触手が絡まった!」
結果的に、複雑に絡みついた一つの大きな結び目が出来あがった。
「こんなアニメみたいな間抜けな展開あるんだな」
思わず他人事のような感想が口から出るが、これで憂いはなく無った。
「今、何とかしてやるよ!」
ようやく得られた千載一遇のチャンスに、ソシャゲイザーは走りながらガチャッチメントに効果投入する。
「さぁ、ガチャの時間だ!」
【カッキーン】
そしてグリンとレバーを回して、表面に現れたホログラムカードをよく見もしないでタップ&スワイプ。
【ハイシュツ R】
そして、想定していなかったワードがガチャッチメントから発せられた。
「レア!?」
思わずバッと勢いよく振り返ると背後に浮かぶ巨体なホログラムカードには青い字でデカデカとRの表記がされていた。
つまり、以前引いた必殺技よりレアリティが低い。
予想外の──いや、ガチャというシステム名を騙っているのだからスカがあるのはわかりきっていた筈だが、ここで引くしか!?とソシャゲイザーは内心焦る。
だが、一度引いてしまったのだから後には引けない。
「う、うぉー!!」
精一杯の虚勢込みで、若干弱めのホログラムエフェクトと共に右の拳を怪人へと叩きつける。
「必殺の【ヘヴィ・ブロー】!!」
「あ゛あ゛っ!」
青い残光を軌跡と残しながら叩きつけられた拳を受け、よろめいて怪人は数歩下がる。
──だが、それだけだった。
次の瞬間には、睨みつけるように顔を上げて猛禽の鉤爪を振りかぶって襲いかかってきた。
「いや全然効果ない! ブ○ンクフォームのマイ○ィキック並に効いてなくない!?」
慌てて鉤爪による攻撃を腕を掴んで止めて、ガラ空きの腹部へ蹴りを入れて迎撃する。
深追いの追撃はせずに数歩後ろに下がって、構えを取りながらようすを伺う。
「やっぱりレアだからか!?」
仮にブラン○フォームのマイティキッ○並の威力だったとしたら、もう一発入れれば倒せる。
もしくは、もう通常打撃だけで倒せるだけ削れているかもしれない。
だが、そんな確証はどこにもない。
わかるのは、SR必殺ならやれてたという事のみ。
そして、最悪な事に今のソシャゲイザーには制限時間がある。
──休憩時間の終わりが近づいてきていたのだ。
次で是が非でもSRを出さねばと二回目の必殺ガチャをしようとガチャッチメントに手をかけたその時。
『ここでひとつ、提案がある』
イッカクが再び提案をしてきた。
先程の案に乗って成功したばかりで、ソシャゲイザーは期待しながらイッカクの言葉の続きを聞く。
『十連ガチャなら、SR以上確定だが?』
「──鬼か、おのれは?」




