2-9 「せめて人道的なスピードで!」
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──実際に走り出したことで、彼は気がつく。
マシン・ソシャレイダーの機体性能は、ソシャゲイザーの想像を遥かに超えていた。
そも、特撮作品に登場するマシンのカタログスペックいうのは実際のモノより盛られている。
それは一般機種のガワを変えただけで、中身は別に夢のスーパーマシンでは無いからだ。
昨今はCGの多用などで機体性能を実際より誇張する映像表現が一般化したが、それはソレとして。
では、実際にカタログスペック通りのスーパーマシンがあったのなら、どうなるか。
──その答えが、コレである。
「ぎぇぇえええ!? は、はや、速い速い速い!! し、死ぬぅぅううぇ!!!?」
下手なF-1はおろか、最早何故地面にタイヤが付いたままなのかが不思議になるレベルの超加速とソシャゲイザースーツ無しだった場合を考えるのが恐ろしいまでの旋回時のGにより半狂乱になるソシャゲイザー。
公道を走る、という表現すら生ぬるいスピードで雷光の如く突き抜けていく。
「あば、あばばばばば」
安全が保証されていない分、乗っている彼が感じている恐怖は絶叫マシンの比ではない。
『人語を忘れてしまったのか?』
「な、ななならじ、じじん、せめて人道的なスピードで! うんて、んをッ!!」
『了解した』
瞬間、ガクンという音と共に急速に落ちるスピード。
そして慣性の法則によって食後の胃がギュッと締まる。
「──うっぷ」
『吐くのは別に良いが』
「良かねぇよ」
『もう着くぞ』
眼前に見えた白亜の校舎、そして三階の窓から投げ出される女生徒の姿が。
落ちる女生徒の正体が縁寿であることに気づいたソシャゲイザーは、叫ぶ。
「急げ!!」
叫びに呼応するかのように、マシン・ソシャレイダーのエンジンが大きく唸りを上げてマフラーがジェットを噴き上げる。
そして大きく反動をつけて宙へ飛び出した。
弧を描いて飛ぶマシンの上で半身を上げたソシャゲイザーが、落下する縁寿の身体を優しく抱き留める。
「──ギリギリセーフ!」
腕の中で茫然とした眼差しで見つめてくる縁寿の身に怪我が無いかをサッと確認する。
「着地任せるからな」
『任された』
マシン後方にあるマフラーが変形し、機体の真下へ向けてジェット噴射。
まるでホバーのような挙動で、ゆっくりと校庭へと着地した。
「離れてて」
ソシャゲイザーは着地すると地面に縁寿を下ろし、避難を促す。
「え、あ、いや」
突然現れて自分を助けてくれたヒーロー的な人に対して戸惑う縁寿。
そして何より、その彼の声は──。
「もしかして、お──」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁア!!!?」
耳を劈くような悲鳴、いや奇声に彼女の言葉が掻き消される。
例の怪人が縁寿の無事を見て、砕けた窓枠から身を乗り出して叫んでいた。
「えぇぇンじゅぅうう!!!?」
その異様なようすに危機感を感じたソシャゲイザーが強い口調で彼女を急かす。
怪鳥の若き絶叫を耳にして、あの怪人の狙いが縁寿であると察すると、彼は仮面の下で険しい表情を作って敵を睨む。
「早く逃げて!」
「う、うん」
彼女が後ろ髪を引かれるような雰囲気で立ち去ったのを一瞬だけ振り返って確認したソシャゲイザーが、怪人の方へ向き直る。
「推しのピックアップガチャは、天井してからが真の勝負!」
校舎からコチラを睨む怪人に、拳を突き出して構えを取って叫ぶ。
「重課金戦士、ソシャゲイザー!!」




