2-8 「いやもう、ガッカリだよ!」
▽▲▽
「行くぞイッカク──【変身】ッ!!」
姪の身に危険が迫っているとなった瞬間、慎二の行動は早かった。
休憩室から走って店の裏口を出て、人気のない店の裏手へやってくると即座にスマホを掲げて変身する。
太陽のような眩い光を放って、ソシャゲイザーへの変身が瞬時に完了する。
そしてすぐさま高校がある方向へ駆け出そうとする──が。
『待つんだ』
イッカクが突然呼び止め、ソシャゲイザーはつんのめって派手に転倒した。
「痛った、くはないが何!?」
早く助けに行かねばという焦燥感も相待って、普段より語気が強くなるソシャゲイザー。
反面、AI故か普段通り冷静なイッカクはすぐさま呼び止めて出鼻を挫いた理由を述べた。
『走るより早く到着する方法がある』
「何かあるのか!?」
『ガチャッチメントの三番目のスイッチを押すんだ』
右腕に装着されているガントレット型アタッチメントであるガチャッチメントには、三つのスイッチが備え付けてあった。
「こうか」
言われるがまま、ソシャゲイザーは上から三番目のスイッチを押す。
『そして、【コール マシン・ソシャレイダー】と叫ぶんだ』
「よし、【コール マシン・ソシャレイダー】ッ!」
瞬間、ガチャッチメントから謎の光弾が射出された。
その光弾は複雑な軌道を描いて飛び、宙で一回転した後に、ソシャゲイザーの眼前へと着弾する。
「危なっ──って」
着弾した光弾の光が消えると、そこには一台のマシンが鎮座していた。
「これは、バイクか!」
輝くシルバーの重装甲と一角獣を彷彿とさせる角の装飾がついたカウルが印象的な、大型バイク──その名もマシン・ソシャレイダー。
「特撮ヒーローのお約束、最高じゃんか!」
突如現れた超カッコいいスーパーマシンの姿に、緊急事態であることも一瞬忘れて見入るソシャゲイザー。
「これなら早く高校まで行け──」
早速ソシャレイダーに跨ったソシャゲイザーだが、ハンドルの横にあるモノを見つける。
エンジンキーの挿入口の代わりにあったソレは、自販機等でよく見かけるアレであった。
「──ねぇ、イッカク。コレってもしかして」
『あぁ、そうだ』
ハンドル横に付いていたのは、所謂硬貨投入口であった。
『ワンプレイ五百円』
「遊園地のパンダのやつかよ!!」
思わずパシッとバイクを叩く。
「いやもう、ガッカリだよ!」
ガッカリではあるが、背に腹は変えられない。
文句は後回しにして、彼は五百円玉を投入する。
カコンという音がした瞬間、ソシャレイダーのエンジンが低い嘶きを響かせ始める。
ハンドルを回してエンジンを噴かし、いざ出発──の瞬間に、ソシャゲイザーはハタと気がつく。
「あ、いや待って」
『どうした』
「俺、大型二輪免許持ってないんだけど」
ソシャゲイザーこと真城慎二は普通自動車免許 (AT限定) は所持していたものの、大型二輪免許は所持していなかったのだ。
つまり、彼はバイクの運転をする資格を有していなかった。
『あー、うん。自動運転だから気にするな』
それに対してイッカクは、微妙に歯切れ悪くフォローを入れる。
「そっか、じゃあ大丈夫──なのか? 自動運転だからといっても免許は必要じゃない?」
イッカクの回答に一瞬納得し掛けたが、生真面目かつ細かいところが気になる性格の彼は、一度気にし始めたら止まらなくなってきた。
「あとコレ車検通ってる? ブ○イドの時代から道路交通法が強化されたから車検通ってないと公道走れなくなったんだよね。これベース車種何? もしかして完全に一から造ってあるわけじゃないよね? あ、やっぱりナンバープレート付いてないじゃ──」
矢継ぎ早に重箱の隅を突くような質問が繰り出され、いい加減面倒臭くなったイッカクが怒鳴る。
『いいから! 乗れ!!』
「あ、はいッ!!」