2-5 「──ずるいなぁ、ホント」
▽▲▽
──思い出すのは、いつも夕暮れ。
ひとりで辿る帰路。
帰ったところで、誰もいない。
パパは、しばらく帰れないらしい。
ママは、今日も夜遅いみたい。
学校に友達はいるけど、いつまでも一緒に居られない。
だってみんなには、お家で誰かが待ってるから。
パパやママが、待ってるから。
だから私も家に帰る。
誰も居ないけど、みんなに合わせて帰るのだ。
──けれど、その日。
「お帰り、縁寿ちゃん」
▽▲▽
「えん、エンジュ!」
昼休み。
二つの机を向かい合わせに並べてくっつけて、昼食を囲んでいた縁寿と美幸。
そんな中、美幸の話を上の空で聞き流していた縁寿は、彼女に突然名前を呼ばれてハッとする。
「あ、ごめん。話聞いてなかった」
「全くもう! 聞いたよ、またフッたんだって?」
そう、それが縁寿が上の空になった原因だった。
美幸が話題にしたのが、先日縁寿が上級生からの告白をフッたという話だったからだ。
「あぁ、うん」
自分が関わる話題なのに、興味なさげに生返事を返して紙パックの野菜ジュースのストローに口をつける縁寿。
「その人で何人目さ?」
真城縁寿は非常にモテる女子高生であった。
顔も小さく形も整っている上に、プロポーションもモデルと比べて遜色ないレベル。
無論、幾度も男子生徒たちからの熱烈なアプローチを受けて来たのだが、全てにべもなく振られていた。
さらに当の本人に至っては──。
「さぁ?」
美幸の質問に、縁寿は興味なさげに答える。
実際、彼女にとっては全く興味の無い話だった。
何度、どんな男子から告白されたとしても、まるで相手にしない。
いちいち記憶に留めさえもしない。
彼女にとって異性という存在は、皆その程度の価値しかなかった──ひとりを除いては。
その姿を見て、美幸はため息を吐く。
「我が校のエンジェル様は今日も厳しい、と」
彼女に告白した世の男子諸君は報われないなぁ、と美幸は諸行無常を感じた。
それでも、縁寿は別に傲慢な少女という訳ではない。
異性関係抜きであれば、周囲とも上手くやれている。
実際、女子からハブられたりイジメられたりはしてないし、にべもなくされてはいるが男子からの評判も別に悪く無い。
意外な関係構築の上手さと不思議なカリスマ性というのが、彼女にはあった。
「──ずるいなぁ、ホント」
──だからといって、全てが全て良い印象しかないわけではない。
むしろ、すぐ身近で彼女を見ている美幸自身が多少の暗い嫉妬心を抱かない筈がなかった。
彼女は自分のその嫉妬心自体を恥ずべきモノと自認しているが故に、決して表には出さなかったが。
「ん?」
だが、得体の知れないナニカがそんな彼女の心の隙間につけ入ろうとしていた。
「なんだろ、このメッセ──」
手元で弄んでいたスマホが、奇妙な通知を受け取った旨を彼女に示したのはそんな時であった。