2-2 『だが、シンジに頼むより他は無い』
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「それでそのまま逃げて来たけどさ、あの爆発の正体って何なの?」
『アレは怪人スーツを構成し、内部に蓄積されていた感情エネルギーの発露だ』
「発露?」
『風船の中から空気が抜けるようなモノであると認識すればいい。怪人スーツ自体の保護機構もある為、中の人間にも強いダメージは無い筈だ』
つまりあの爆発は火薬によるモノでは無く、爆発によく似た別な現象であったということだ。
ならば、見た目の派手さの割に被害が無い事への説明がつく。
強盗そのニの彼が無事っぽくて慎二は取り敢えず安心する。
ようやく胸を撫で下ろし、ついでにコーヒーでも飲もうと電子ケトルに水道水を注ぎ始める。
それを台座にセットして電源を入れた段階で、慎二はある事を思い出す。
「あ、そういえばE.S.ドライヴって」
ソシャゲイザーの胸部中央にカ○ータイマーまたはアー○・リアクターの如く鎮座するエネルギー源を、イッカクはE.S.ドライヴと呼称していた。
エモーショナル・スペシャル、つまり特別な感情を原動力にする装置だった筈だと慎二は思いだす。
『ソシャゲイザーも近しい原理のエネルギーを原動力にしている』
慎二は予想が的中し、パチンと指を鳴らす。
『だからこそ、ソシャゲイザーでなければ怪人を倒した際に中の人間を救えない』
しかし、続いたイッカクのセリフは流石に予想外であった。
『近しいエネルギー同士をぶつけ合うことで、怪人スーツのみを破壊できる』
ある種の対消滅みたいなモノだと思ってくれても良い、とイッカクは続ける。
そのセリフに何となく理解ができた慎二はこくりと頷いて見せる。
『むしろ、通常火器などで怪人を倒してしまった場合は──』
「──中の人ごと、怪我したり死んでしまう可能性があるのか」
割と洒落にならない理由が返って来てしまい、思わず黙りこんでしまう慎二。
彼は脳裏をよぎる嫌な想像を頭を振って追い払い、そもそもな核心についてイッカクに問いただす。
「それでお前は一体何なんだ? ソシャゲイザーも含めて誰が何の目的で作って、俺に与えたんだ?」
『目的は奴らの怪人遊びの阻止と抑制。そして私を作ったのは──』
『──わからない』
イッカクから出た言葉は、慎二の質問に対する答えではなかった。
『その情報に関しては、意図的にロックが施されている。私が知り、話すことができないように』
慎二は思わず眉間に皺を寄せて、顎に手を当てて考え込む。
そして厳しい視線を床のスマホにじっと向ける。
電子ケトルの隙間から漏れるコトコトという沸騰音が、気まずく静まりかえった朝の台所に響く。
『おそらく、話が漏れると作成者の身に危険が迫る可能性があるからだろう』
「確かにらしい理由だけどさ」
『怪しい、か』
正体不明で目的不明の開発者が作った謎のアプリというのを怪しく無いと言うのは流石に無理がある。
だが、それは指摘した慎二だけでなくイッカク自身も理解していることであった。
自身の信用を裏付けるモノが何も無い、報酬等の明確なメリットを提示することも出来ない。
しかし、それでもイッカクは慎二に頼むより他はなかった。
『だが、シンジに頼むより他は無い』
イッカクは切実に、慎二へと頼み込む。
それが己の存在意義に直結するが故に。
『お願いだ、私と共に戦って欲しい』




