1-8 『さぁ、必殺技を叫べ』
『課金だ、ソシャゲイザー』
「やっぱりね!?」
嫌な予感が見事的中した瞬間である。
重課金戦士と称するのだから、どっかに課金要素があるんだろうと彼も予想はしていた。
だが身構えていたとしても、実際くると「うわぁ」と思ってしまうのである。
「ちなみに一回いくら?」
『五百円』
「タッケェ!!」
ガチャガチャ換算だとしても割と高級な部類の金額だった。
昨今のソシャゲのガチャで考えてみても、五百円あれば二回くらい回せる。
一般的に、得体の知れないガチャに五百円入れるのはかなり勇気が必要なコトであった。
オタクの財布の紐が緩むのは趣味だけであり、それ以外にはむしろ一般人より固めだったりするのだ。
「初回無料ガチャとか、フレンドポイントガチャとかデイリーガチャとか無いの!?」
『無い』
納得いかない値段設定にどうにか抜け道はないかと食い下がるも、無常にもたった二文字で希望を斬り捨てられる。
「状況を打破できるガチャって具体的に何?」
『必殺技ガチャだ』
「ひ、必殺技かぁ」
ちょっと撃ちたい、と若干彼の心が揺れた。
必殺技と言えば、男の浪漫の代名詞として名高い概念である。
ヒーロースーツを着ただけでテンションが上がったタイプの特撮オタクとして、彼はこの瞬間ちょっとだけ財布の紐が緩むのを感じた。
「──まぁ、ちょっとやってみますか!」
最終的に、お金より浪漫を取ったソシャゲイザーは課金を決意する。
「えーと、財布は」
『左手に出しておいた』
そう言われてハッとして左の拳を開くと、黄金に光る硬貨がいつの間にか握られていた。
流石サポートAIと、心の中でその手際の良さを賞賛しつつ、硬貨を投入口へ入れる。
【カッキーン!】
入れた瞬間、身も蓋もない効果音が鳴り、若干ソシャゲイザーの気が滅入る。
「効果音、もうちょっとなんとかならなかった?」
『近年の特撮ってこんな感じだと思ったが』
「そうだけどさ!?」
文句を言いながらも、円形レバーを掴み一回転させる。
するとガチャッチメントの表面に青白いホログラム製のカードが出現する。
【ハイシュツ SR】
『当たりだ、カードをタップしてスワイプしろ』
「こうか?」
言われるがままにソシャゲイザーはホログラムのカードに人差し指と中指を添えて、右横にスライドさせる。
ガチャッチメントから飛び出したカードが派手なエフェクトとともに巨大化し、彼の背後に再出現する。
「お、おぉ!?」
カードの表面には大きく赤い文字でSRと記載されている。
『さぁ、必殺技を叫べ』
いざ、という瞬間が来た。
ここまで来ると、ガチャで当たりを引いたという事も含めてソシャゲイザーのテンションは否応なしに上昇する。
それにあわせて、胸のE.S.ドライヴの輝きが最高潮に達する。
「必殺──」
ソシャゲイザーが蜘蛛糸によって固定された左脚を軸に身体を翻す。
振り向く最中に、右脚が蒼雷を纏って発光。
「──【U・スタンプ】」
向かってきた怪人の胸へ、遠心力と全体重を加算した強烈な後ろ蹴りをぶちかました。
蹴撃が命中した瞬間、蹴りの衝撃波と雷のエネルギーが怪人の胸を貫く。
そして弾き飛ばされた怪人の胸には、ソシャゲイザーのブーツの底に刻印された蹄鉄を模した「U」字マークが深々と、そして熱をもって赤々と刻み込まれていた。
「あ、ああ、あぁぁ」
怪人が胸を押さえてよろめき、その口から言葉にならない嗚咽が漏れる。
そしてゆっくりと両膝を折り、地面に倒れた次の瞬間──。
「アギャぁぁぁぁぁ!!」
──怪人が、爆発した。
「え?」
必殺技をぶち当てた余韻を、夜の静寂ごと吹き飛ばすかのような爆発だった。
熱い爆風がソシャゲイザーの頬を撫でて、嫌な汗が背筋を伝う。
「──俺、殺しちゃった?」