1-7 『課金だ、ソシャゲイザー』
「重課金戦士、ソシャゲイザー!!」
慎二──否、ソシャゲイザーが名乗りを上げた瞬間に彼の真後ろで爆発が起こる。
「え、何!?」
突然の爆発に驚いて一瞬でカッコいい構えを解いてびくびくと後ろを確認するソシャゲイザーに、イッカクは冷静な補足をいれる。
『安心しろ、ホログラムで出来たタダの演出だ』
「脅かしやがって」
イッカクによる謎の過剰演出にホッと胸を撫で下ろすソシャゲイザーだが、その様子を見た怪人は額に血管を浮かべる。
スーツの筈であるのに生物的な表情を出す怪人の姿に、ソシャゲイザーは改めて怪人がちゃんと怪人であると再認識する。
「さっきからふざけやがってテメェこの野郎!」
怒り心頭に発した怪人は、地面に這うような姿勢を取る。
普通の人と人の喧嘩では見ることのない、まるで土下座でもするかのような姿勢。
「本気で殺しに行くから、覚悟しやがれ」
背中から突き出た四本の蜘蛛足も地面に着き、まるで本物の蜘蛛を彷彿とさせる構えでソシャゲイザーにそう宣言する怪人。
瞬間、怪人が今までとは次元の違う機敏な動きを見せる。
「ッ!?」
その動きの機敏さは、最早人間の動きではなく蜘蛛そのもの。
左右にフェイントをかけつつ迫る怪人に対し、冷静に対応する為に距離をおこうとするソシャゲイザー。
「シャァー!!」
怪人の口から放たれた粘性の糸が、ソシャゲイザーの左脚を地面に縫い付ける。
「しまった!」
動けなくなった彼に向かって、怪人はノミのように跳躍。
その首筋を齧り取らんと、気味の悪い虫の口を広げて襲いかかる。
「くたばれ!」
「なんのッ!」
足を固定されて動けないソシャゲイザーは、その場で膝を降りしゃがむ。
そうすることで、首を狙って飛び込んできた怪人の打点位置をずらして致命傷を回避。
更に頭上を掠める怪人の腹部へ向かって──。
「ベッドバッッッド!!」
──立ち上がりながらの、強烈な頭突きを喰らわせる。
しかもも、一角獣モチーフ故の鋭利な一角つきの頭突きである。
その痛烈な一撃を無警戒な腹部に受けた怪人は、ダメージを受けつつも一撃離脱戦法を崩さない。
八本脚による異次元の速度と起動で、ソシャゲイザーからの追撃を避ける為に跳ね回るように距離を取る。
怪しく点滅する街灯によじ登り、自身から出した糸を使って逆さに吊り下がりながらソシャゲイザーの様子を窺う怪人の姿は、まさしく怪奇的であった。
「ぐっ」
左脚を固定する蜘蛛糸の粘性は強く、スーツによって増強されている筈の脚力をもってしても上手く脱することが出来ない。
「なんか有効打無い?」
一撃離脱戦法を徹底されると、コチラが圧倒的に不利だ。
かといって拘束が解けないのなら、いっそ一撃必殺のカウンターか何かを決めるしかない。
そう思ったソシャゲイザーは、何かないかをイッカクに問う。
『あるぞ』
「なら早くちょーだい!?」
『右腕の"ガチャッチメント"を使え』
「"ガチャッチメント"?」
ソシャゲイザーがちらっと右腕を見ると、そこに独特の形状をしたガントレットが装着されていることに気がついた。
ガチャッチメントと名付けられたソレには三つのスライド式スイッチとガチャガチャの円形レバーに硬貨投入口がついていた。
──そう、ガチャガチャのレバーと硬貨投入口がついていたのである。
そして、ソシャゲイザーの正式名称は"重課金戦士ソシャゲイザー"である。
「俺、超イヤな予感がするんだけど」
『課金だ、ソシャゲイザー』