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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏のホラー企画投稿作品(小説家になろう公式企画)

私の帰り道

作者: まさかす

 日付も変わろうかというその時刻、私は一人家路を急いでいた。都会であれば時刻がどうであれ夜道だからとてそれほど気にする事もないのであろうが、私の住む田舎では日が暮れれば人影は無くなり、街灯があるにはあるもののそれは薄暗く、且つ100メートル、200メートルといった広めの間隔で立っている事もあり、懐中電灯が必須と言っても大げさではない程の暗闇が訪れる。そんな状況もあって「女の夜道の一人歩きは危険だ」と常日頃言われていた。今の時代であればそんな言葉に対し「なぜ女だからという理由で夜道を一人歩きしてはいけないのだ?」と、「女が夜道を歩くのが悪いのではなくて、夜道という暗闇に紛れて不埒な行いをする者が悪いのだ」と、「時間がどうでも性別関係なく自由に道を歩く権利があり、そもそも時間関係なくどこであろうと安全を担保するのが警察等の仕事だろ」と、そういったシュプレヒコールが挙がる事も想像に難くない。確かにそれは正論だ。だがそれは「何故に家に鍵をかけなくては駄目なのだ。それで家に泥棒が入ったとて泥棒が悪いのだ」と、そう言ってるようなものであり、それはそれで正論だ。そして想定される結果に目をつぶる性善説でもある。実際こうして夜道を一人歩くのは非常に怖く、万が一にも不埒な行動を起こす者が現れたとしても今ここで自分の身を守る有効な手段は何1つ無く、私に出来る事と言えば理不尽な悪意に対しただただひたすらに許しを請うか、それとも馬の耳に念仏的な正論を説く事しか出来ない。その後には「そんな時刻にそんな場所を女が一人で歩く方が悪い」と、そんな理不尽な陰口を叩かれるのがオチであろう。だがこの道は私が進むべき道であり帰り道である。故に歩みを止める訳には行かないのである。


 暫く歩いていると4,5本程前方の街灯、距離にして凡そ500メートル先といった街灯の下に人影が見えた。その人影はゆっくりとした歩みでもってこちらへと向かっていた。雑草生い茂る荒れ地に挟まれた横道の無い細めのこの1本道において、数分後、私とその人影とがすれ違う事は確実な状況だった。未だその人影の正体が性別含めて分からない中、私は街灯の下付近でその人とすれ違うよう歩みの速度を調整した。正論がどうであれ、やはり夜道で人とすれ違うのは怖い。正直言えば街灯の真下ですれ違うのはこちらの姿をハッキリと晒す事でもあるのでそれはそれで怖くはあったが、かといって街灯の無い真っ暗闇な位置ですれ違うのはもっと怖く、いわば消去法での選択である。

 だんだんと近づく人影。徐々にその詳細な姿が見えてくる。それは恰幅のよい大柄な男性。短い黒髪と無精髭。ゆったりとしたジーンズに黒っぽいTシャツ姿のその人は、上目遣いのその虚ろな目を自らの進行方向へとまっすぐに向け歩いていた。そして薄暗い街灯の下、距離して1メートルと少しといった位置で、男性と私はすれ違った。その際、男性がほんの少しだけ視線をこちらに送ったような気がしたが、私は視線を下にしたままにその場をやり過ごした。


 そして次の日の晩、またしても日付が変わろうというその時刻、私は夜道を一人歩いていた。すると昨晩すれ違ったあの男性らしき人影が前方の街灯に照らし出され、昨晩同様こちらへと向かって歩いてくるのが見えた。だんだんと近づく人影。やはりそれは昨晩すれ違ったあの男性。そして昨晩同様に街灯の下ですれ違った瞬間、わたしは男性の方へチラリと目を向けた。


「!」

 

 私が目を向けたその瞬間、男性も私の方へと目を向けた事で目が合った。すると男性の目が剥くようにして大きくなり、恐怖した私はすぐさま視線を落とし歩みを早くした。瞬間的に見たその顔にはどこか見覚えがあるような気がしたが、どうにもハッキリとしない。最近、何処かで遭ったような気もするが全く思い出せない。


 そしてまた次の日の晩の昨晩同様のその時刻、私は夜道を一人歩いていた。そして前方に目を向ければ又もあの男性らしき人影が前方の街灯に照らし出され、昨晩同様にこちらへと向かって歩いてくるのが見えた。だんだんと近づく人影。やはりそれは昨晩すれ違ったあの男性。男性は酔っているのだろうか足取りが覚束(おぼつか)ない。そして街灯の下付近で私とすれ違おうとしたその瞬間、男性がふらつき私とぶつかった……いや、ぶつかったと思ったがぶつからなかった。というより、私の体を男性が通り抜けた、私の体をすり抜けていった。そしてその瞬間、私はその人が誰なのかを思い出した。



   ◇



「それじゃあ、もう一度、詳しく、説明してくれませんか?」

「……俺を見ていた」

「は?」

「俺を見てたんだよ!」

「誰が?」

「だからあの女だよ!」

「あなたが殺害したっていう女性の事ですか?」

「そうだよ! 何回言えばわかるんだよ!」


 無機質なコンクリートそのままの壁に囲まれた6帖程の部屋。いわゆる取調室と呼ばれる部屋の中、俺は部屋の中央に置かれた灰色の机を挟んで座る、いわゆる刑事と呼ばれる初老の男に対し苛立ちを覚えていた。何故ならばそいつは俺の話を真面目に聞いていないのが明らかだったからだ。


「俺はほぼ毎晩、深夜にコンビニに歩いて行っていた。そしたらあの女が毎晩あの場所で立ってやがるんだよ!」

「といってもねぇ、一応あなたが仰った場所を捜索しましたが、女性の遺体なんてありませんでしたよ?」

「ほんとに埋めたんだよ!」

「確かに雑草生い茂る荒れ地の中、一部だけ草が刈られつい最近掘り返したような跡はありましたけど、遺体は勿論、何かが埋められていたような形跡もありませんでしたよ?」

「そ、そんな訳あるか! 確かに俺はこの手であの女を絞め殺した。今でもその感触が手に残ってる。俺を見つめるあの女の最期の目もハッキリと覚えてる!」

「う~ん、そう言われてもねぇ」


 刑事は薄っすらと笑みを浮かべつつ言った。


「ほんとに殺して埋めたんだって!」

「しかし安易過ぎやしませんか?」

「何がだよ!」

「あなたがその女性を殺害したとしてですよ? その遺体をあなたの家からそれほど離れてもいない場所に埋めるなんてさ、いくら人通りが殆ど無いとは言えちょっと始末が安易――――」

「だ、だからどうする事も出来なかったんだよ! 無我夢中で……気がついたら首を絞めてて……離した時はもう死んでたし……かといってそのまま放っておいたらすぐに見つかると思ったし……」

「それでとりあえずは雑草生い茂る草むらの中、適当な場所を掘って埋めたと」

「そ、そうだよ」

「そもそもどうして自首しようと? 良心の呵責ってやつですか?」

「だから俺の事を見てたんだよ! 復讐しに来たんだよ!」

「あなたが殺した女性が? でも姿が見えた訳じゃないんですよね?」

「そ、そうだよ……」

「いわゆる幽霊ってやつですか?」


 刑事は真顔で幽霊というフレーズを口にした。そのフレーズは強ち間違っているとも言えなかったが、却ってそれは馬鹿にされているようで俺を苛立たせた。


「そ、それが幽霊ってやつなのかどうかなんて知らねぇよ! 最初は何かモヤッとした霧というか歪みというか……何か目がぼやけてんのか見間違いかと思っただけで……」

「ふ~ん」

「けど次の日……それと目が合った」

「目が合った? そんなにハッキリと姿が見えたんですか?

「いやそういう訳じゃ……ただ()()()俺を見ていた」

「見ていた?」

「……気がした」

「気がした?」

「……」

「見ていた訳ではなく、そんな気がしただけですか?」

「そ、そうだよ! そんでもって昨日の夜は俺の体に取り憑こうと……いや、俺を殺しに来たんだよ!」

「具体的にはどうやって殺しに来たんですか?」

「いや、そうじゃなくて殺しに来たと思ったんだよ!」

「何故そう思ったんですか?」


 眼の前の刑事は俺の話を聞いてはいるが真面目には聞いていない。それは俺が逆ギレでもしないよう穏便に済ます事を目的に俺の話を聞いているからなのだろう。本当は「真面目に聞けよ」と言いたいが言った所で意味はなく、ここは質疑応答を進め、その中で何か進展がある事を祈る他無い。


「あの女が俺の体を通り抜けた瞬間、見えたんだよ」

「通り抜けた? 何が?」

「だからその女がだよ!」

「ふ~ん。で、何が見えたの?」

「……俺の顔」

「あなたの顔が見えた? どういう事?」

「多分それは女が最期に見ていた景色だと……」

「ああ、なるほど。あなたがその女性の首を締めている時の、その女性視点の映像みたいな事ね?」

「そ、そうだよ……」

「そもそも何で殺害したの?」

「あの女が俺を底辺のゴミだとか……」

「あなたに対してハッキリとそう言ったの?」

「……いや、そういう目でもって俺を見てやがった」

「あなたが勝手にそう思ったという事?」

「そうだよ! だいたい人の顔や目を見りゃ何を言いたいかなんて検討つくだろ!」


 そう、顔や目を見れば何を言いたいか分かる。だから俺には目の前の刑事が何を言いたいか分かる。こいつは俺に対しそろそろ家に帰れよと、これだけ話を聞いてやったんだから満足だろと、そう言いたいのだ。


「それが理由で殺害し遺体を埋めた。そしてその次の日の晩から幽霊を見るようになったと」

「そ、そうだよ……」

「しかし遺体を埋めた場所の付近をよくも歩く気になりますねぇ」

「いや、そこは帰り道というか家に繋がる1本道だし……それに誰かにバレてないかとか気にもなってたし……」

「なるほどねぇ。まあ、それは兎も角としてですね、先程も言いましたけども、あなたがその女性を殺して埋めたと仰った場所には何も無かった」

「だからそんなはず無いんだって! 確かに俺はこの手であの女を殺したんだ! そしてあの場所に埋めたんだよ!」

「ですが遺体が無かったのは本当の事です。もしかしたら息を吹き返したとかで病院にでも搬送された可能性も考慮し消防の方にも問い合わせをしてみましたが、それらしき通報は無かったそうです。勿論ここいら一帯の病院にも問い合わせましたよ? ですがそのような女性が運び込まれたという話はありませんでした。そもそもそんな女性、本当にいたんですか? あなたの知り合いですか? ご近所の方?」 

「いや……見た事は無い……と、思う……」

「それじゃあ私ら警察では何も出来ませんねぇ。何せ事件が起きてませんからねぇ。せめて女性の捜索願いとかでも出てれば動けたんですがねぇ」


 刑事は笑みを浮かべつつ言った。その笑みは呆れているという意味も含まれていた。


「い、いや起きてるだろ!」

「というと?」

「あの女が俺を殺そうと待ち構えてるんだから!」

「現実として実在する人間に待ち伏せされているならば、我々も動きようがあるんですがねぇ」

「だからハッキリとは見えないけどいるんだって!」

「実在するかしないか分からない女性に殺されそうだから守ってくれって事ですか?」

「そうだよ!」

「自分が殺害した女性に復讐されそうだから守れと? それが自首した理由ですか?」

「そうだよ! だいたい市民を守るのがお前らの仕事だろ! 生きてる人間を守るのが仕事だろ!」

「う~ん。まあ、折角来て頂いて申し訳ありませんが、我々は市民を守る事が仕事ではないのでねぇ」

「はぁ?! どういう事だよ!」

「例外はあるものの、基本、我々の仕事は事が起きてから始まるんですよねぇ」

「じゃ、じゃあ俺が人を殺したって言ってるんだから逮捕しろよ! そんでもって刑務所にでもぶちこめばいいだろ!」

「ですからぁ、遺体も無いしそれらしい痕跡も無い。そもそも被害者の存在自体が確認出来ない。現状あなたの言葉を裏付ける証拠は一切無いんです。よってあなたを逮捕する理由は1つも無いんです」

「そんな馬鹿な話あるか! 自首してやってんだぞ!」

「先程も申しましたがあなたが罪を犯したという証拠は1つも無いんです。この状況であなたを逮捕したらそれこそ誤認逮捕ですよ」

「じゃ、じゃあじゃあ、もしも俺があの女に殺されでもしたらどうするつもりだよ! 責任取れんのかよ!」

「その時は任せて下さい。ちゃんと責任を果たしますから」

「どういう事だよ!」

「ですから、私達の仕事は人を守る事ではなく、罪を犯した人を捕まえる事が仕事なんですよ」

「……」

「だからぁ、あなたにもしもの事が遭った場合、私達は総力を上げて、犯人を捕まえますよ」

「……」

「それが警察の仕事であり責務ですから。ちゃんと犯人を捕まえますから。安心して下さい」


 白髪交じりの刑事は笑みを浮かべつつそう言った。それは「自分が殺した女に殺される? それの何処に問題ある?」と、そんな風にも聞こえた。と同時に妄想癖のある人間を早く追い返したいという気持ちもそれらの言葉に上乗せされていた。それでも俺は同じ言葉を何度も何度も繰り返したが相手もひたすらに何度も何度も同じ言葉を繰り返し、何らの進展も無い中でただただひたすらに無意味な時間だけが過ぎていった。いい加減そんなやりとりに飽きてきた俺は「もういい!」と机を叩き、そのまま警察を後にした。



   ◇



「あの糞刑事! 何が捕まえるのが仕事だよ! 何が安心してくれだよ! そん時ぁ俺はもう死んでるじゃねぇかよ!」


 日も暮れ始めたその時刻、俺は雑草生い茂る荒れ地に挟まれた1本道を一人歩きつつ、地面に向かってそんな罵声を口にしていた。そしてもうじき例の場所に差し掛かると少し歩みの速度を落としつつ、その場所へと目を向けた。


「確かに埋めたはずなのに……殺して埋めたはずなのに……」


 自分の身長程まで育った雑草の隙間からは女を埋めた辺りの土肌が見え、警察が掘り返したであろう跡も見えた。改めてこの目でちゃんと確かめようかとも思ったが言いしれぬ恐怖が勝り、すぐさまその場を後にした。そしてそれから10分ほどして自宅に到着した。


「くそっ、結局無駄足かよ……」


 自宅と言っても借家であり、8畳間が2つにこれまた古い台所のある築50年という吹けば飛ぶような古い木造平屋。だがそんな家ですらも住めなくなりそうな状況が差し迫っていた。

 数ヶ月前、俺は仕事を解雇された。それは俺の不始末等が原因ではなく、勤めていた会社が不採算を理由に俺が働いていた工場を突如閉鎖し、それと同時に工場で働いていた俺を含む全員を解雇したのだ。短期間のうちに実行されたそれは正に寝耳に水といった出来事ではあったが、それはそれで仕方のない事なのだろうし良くある話でもあるのだろうと不承不承ながらも納得し受け入れた。そして職を失ったのなら直ぐにでも次の職を探し始め生活を維持するよう行動する事が一般的であり正しいのだろう。だが会社に多大なる貢献をしたとは胸を張って言えないまでも、解雇の理由が自分の不始末ではなく会社側の都合であるという事もあり、それは自分が無意味にして無価値な存在であるというレッテルを貼られた気がした事で、とある疑問が生じた。


『生きる為に働いていたのか、それとも働く為に生きているのか』


 少しの飲酒以外に趣味と呼べるような物も特になく、生活費以外特段の支出をするような生き方をしていなかった俺にとって、その疑問は労働意欲を失わせるには十分な疑問だった。そして解雇以降は職探しもせず、ただただ無意味に日々を過ごしていた。だが「働かざる者食うべからず」といった言葉もあるように、そんな日々は永遠に続けられるものではない。解雇時にはそれなりの退職金も支払われたがそれだけで長期間賄えるはずもなく、家賃や保険といった何もせずとも出ていく金に加え食費という必須な物、そしてガスに電気に水道といった現代生活には欠かせないインフラにも金はかかる。また洗剤等の消耗品といった類にも容赦なく金は出てゆき、結果、一時的に増えた銀行口座の数字はひたすらに減り続け、もはや経済的破綻が免れない状況であった。そんな中で「充実してます」といった顔したあの女と夜道ですれ違った。その時の俺を見るあの女の目が忘れられない。俺みたいにはなりたくないと、女の目が言っていた。お前は底辺だと、私とお前は違うのだと、住む世界が違うのだと女の目が言っていた。そんな目で俺を見たから俺はあの女を……


 台所脇の玄関を兼ねた勝手口から家の中へと入った俺は、そのまま8畳間へと向かった。そして8畳間に足を踏み入れた時、ふと右横へと目がいった。そこには薄汚れた襖で閉じられた押し入れがあるのだが、その襖の前に何かが立っていた。


「………………」


 それは泥汚れが目立つベージュ色した短めのワンピースを着用し、そのワンピースからは泥で汚れた灰色した腕や足が伸び、艶の無い薄茶色の長い髪の下に大きく黒々とした丸い目を持つ何か。その大きく黒々とした目がギョロリと俺を捉えると、だらしなく開いた口からは涎が垂れると共に微かな唸り声が聞こえ始めた。警察でのやりとりの直後という事もあり未だ興奮冷めやらずといった俺は、それが何なのか理解出来ずにいた。


「ゴブッ!……!?!?」


 突如、目の前のそれの灰色した細い腕が目にも止まらぬ速さでもって俺の方へと向かって伸び、そのまま俺の喉を握り潰さんばかりに掴んだ。と同時に、それはそのまま俺を反対の壁へ投げつけるようにして押しつけた。


 バキバキッ!


「ガハッ…………」


 俺の体が木造の家の壁に音を立てながらめり込んだ。そして俺はようやくそれが何なのかを理解した。だが今俺の喉を握り潰さんばかりに掴むそいつの腕の力はあの時の女の物とはとても思えない。俺は剛力とは言えないまでも決して非力でも無く、実際、俺はあの時に余裕で女を抑えつけていた。だが今、俺の喉を握り続けるその細腕は男の俺が両手でもって振り払おうとするも一切ビクともせず、足でそれを蹴飛ばすもビクともせず、その黒々とした丸い目で見つめながら片手でもって俺を壁に抑え付け、喉を潰さんばかりに握り続けていた。


「ヴッ…………ヴッ…………グヴッ…………」


 視界が狭まり始め耳も遠くなり始め、意識も薄れ始めていよいよというその瞬間、俺の脳裏に先の刑事が口にした言葉が過ぎった。


『私達の仕事は人を守る事ではなく、罪を犯した人を捕まえる事が仕事なんですよ』


 もはや抗う事は勿論の事、言葉すら発する事も出来なくなっていた俺は、遺言ともいうべき最期の言葉を、心の中で以って大声で叫んだ。


『クソ刑事! ちゃんと責任果たせよな!』


2023年08月24日 初版


「夏のホラー2023」企画投稿作品/テーマ「帰り道」

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