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約千文字の三題噺

屋根裏のひまわりは夏祭りをまだ知らない

 屋根裏部屋に入るのはいつぶりだろう。


 幼い頃はよく妹と一緒に入り浸っていたのだが。


 視線を下に向けると人形やぬいぐるみが当時のまま残されていた。あの頃の私たちは遊んだおもちゃを床に置きっぱなしにするのでよく叱られていた。


 結局、陽奈(ひな)が自分から片付けをすることはなかった。


 埃をかぶっているものは何一つない。あの日以降誰も使わなくなったというのに、陽奈のお母さんは毎日欠かさず掃除をしていたのだろう。


 陽奈がいつかきっと戻ってくると信じて。


 陽奈。私の親友。太陽のような明るい笑顔は今でも忘れられない。


 元々体が丈夫ではなかったが、5年前、ある日突然ここで倒れた。不治の病に罹ったのだ。


 それ以降陽奈が病院から出ることはなかった。入院着を着てずっとベッドの上で絵を描いていた。病気になってもその明るさは相変わらずだった。


 私と妹は陽奈に毎日の出来事をたくさん話した。


 陽奈はいつも私たちの話を楽しそうに聞いてくれていた。口下手な私があんなに話せたのは陽奈のおかげだと思っている。



 ふと、視線を右に向けると、絵本の本棚におもちゃのブローチが置かれていた。可愛らしくデフォルメされたひまわりのキャラクター、ひまりんだ。


 陽奈の誕生日プレゼントに私たちが送ったものだ。いつもニコニコ明るいあの子にひまわりはとてもよく似合っていた。


 これを付けてもうすぐ始まる夏祭りに行くんだと、約束した。


 その約束が果たされることはなかった。


 陽奈が倒れたのは夏祭りが始まる3日前だった。



 そして、陽奈はもういない。


 半年前、急に容態が悪化し、そのまま帰らぬ人となった。


 私たちはただ泣いた。泣くことしか出来なかった。



 そして今日。


 私は陽奈の家に来た。何か理由があって来たわけではない。


 学校からの帰り道、物思いに耽りながら歩いていたらいつの間にか近くまで来ていたのだ。


「陽奈…」


 ひまわりのブローチをそっと、優しく撫でる。


 あの時の約束が果たされることはもうない。


 それでも。



一週間後


 もうすぐ、夏祭りが始まる。妹が早く早くと急かす。


 私は胸にひまわりのブローチを付けていた。


 ブローチにそっと触れる。


「じゃあ行こっ、陽奈」


 妹を追いかけるその脚は、とても軽やかだった。

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