08:二度目の人生
暗転していた視界が、また戻って来る。
急に体に魂を投げ入れられたような感覚。私は思わずふらつき、近くにあった壁に背を預けた。
「……ここは」
記憶をゆっくりと手繰り寄せる。
そうだ。そうだ。そうだった。
私の名前はマレガレット・パーレル。
幼い頃は虐待まがいの待遇を受け、十歳の時に婚約者であるデリックと出会ってその人生を大きく変え、幸せへの道を歩んで……。
白髪の少女に陥れられ、何もかもを失った。
「あ、ああっ」
私は、意識が落ちる直前に見たメアの姿を思い出した。
まるで化け物のような歪んだ嘲笑。あれはまさしく――。
「魔女……」
「――レット、マレガレット!」
と、その時、すぐ横からそんな声が聞こえて来た。
心臓が飛び出そうなほどに驚き、慌ててそちらを向く。そしてそこに立っていたのは、「デリック」
私に婚約破棄を告げたはずの赤髪に緑瞳の少年が、心配そうに私を見ていた。
その瞬間、ずっと求めていたものがこの手に戻って来たような気がして、
「う、あ、うぁああああっ」
泣いていた。
彼の胸に飛びつき、顔を埋めて泣きじゃくる。
はしたないだなんて思う暇すらなかった。私はデリックの温かさを全身で味わい、ただただ涙を流すのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私が時間遡行――つまり、タイムリープをしたらしい。
ただひたすら恐怖に震え、その場から逃げたい一心だったのだと思う。
長らくの間『禁忌』として自分の中で封じていたその力を、私はまたも使ってしまったのだ。
だから今から歩むのは二度目の生とでも言った方がいいのかも知れない。
私は決してデリックと仲直りができたわけではなく、彼との仲が良好だった頃に戻っただけのこと。
もしもそれが、もっと別の時間であれば良かったと私は思う。だって、私が舞い戻ってきた第二の人生のスタート地点は、
「私の初社交パーティー……」
全ての悪の元凶である白髪の少女――いいや、魔女。
彼女と出会う寸前、私の初の社交パーティーだったのだから。
私は肩を落とし、しかし決意する。
せっかく戻れて再び挑める機会ができたのだ。それならば――、「絶対に幸せになってみせる」
今度はメアに奪われてたまるものか。
私の手にしたいものは、私が守る。デリックと笑い合って過ごせる未来を必ず手に入れてみせるのだ。
もうすぐ、ダンスが始まろうとしている。
私は唇を噛み締めて覚悟を決めた。
「今度は、彼女の思い通りにはさせないわ」
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