07:高嗤う少女、そして時間遡行
「……どうして」
「デリック様の目を盗んでこっそりと、ね?」
私はその時、気づいた。
今の彼女はいつもの甘ったれるような口調とは打って変わって、平民のようなはしたない言葉遣いをしている。
もしかして別人?
「ああ。アンタが何を考えてるのかは大体わかったけど、こっちの方が素だから。いつもは上品な喋り方とか堅苦しくて大変なんだよねー」
白髪の少女はそう言って、にっこり笑う。
その微笑みはまるで悪魔の浮かべたもののように見え、とても恐ろしかった。
「……あなたは何故私を騙したの」
「騙した? うーん。まあ騙したと思われても仕方ないか。アンタが邪魔だったから排除したってだけ。どっちにしろアンタ、デリック様に愛されてたわけじゃないでしょ?」
言われて、私はドキッとなった。
確かに私はデリックに愛されていなかったのかも知れない。でもそれは――。
「あなたのせいでしょう!」
これほどに激昂したことは今までになかったなとぼんやり思う。
「あなたがデリックに変なことをしたのではないの!?」
「うん。そうだけど何か?」メアは悪びれずに言った。
「だってだって、アタシってばデリック様のこととってもとっても大好きなんだ。だからアンタが妬ましかったし、邪魔だった。そのためにアンタは悪役になってもらったわけ。ごめんね?」
「悪役……?」
「そう悪役。で、アタシが主役ね」
胸の内からムラムラと変な気持ちが湧いてくる。
これが本物の憎悪という感情なのだと私は知った。
「……デリックに何をしたの」
「別に? これでちょっと術をかけただけ」
そう言ってメアが見せびらかしたのは、胸に下げられたペンダント。
一見すると水晶玉に見えるそれは、白く透き通っていてとても美しかった。
そういえばこのペンダントは彼女がいつもつけていたものだったと私は思い出す。今の今まで全然意識していなかったのだが……。
「『魅了の石』っていう名前で、これを使えばどんな人もメロメロにさせちゃうすごい石なの。もちろん、多少の条件はあるんだけどね」
「み、『魅了の石』……?」
その言葉には聞き覚えがあった。
確か、取り扱いが禁止されていた強力な魔石ではなかっただろうか。本当なら決して手にしてはならないし、そもそも何十年前にも失われた品のはずなのに。
「ああ、これを持ってるのがそんなに不思議? じゃあ教えてあげる。アタシが、魔女だからだよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
彼女の話を聞いて、私は愕然とした。
この世界には『悪魔』という存在がおり、メアはそれを見つけ、契約とやらを結んで魔女になったのだという。
悪魔に魂を売る代わり、メアは『魅了の石』を入手することができたらしい。
「それでアタシの初恋の人……デリック様に近づいたってわけ。アンタは邪魔だったけど、無事排除できたわけだしね。これからはアタシはアタシなりの人生を歩むよ。――悪役は悪役らしく暗い牢獄の中で死ね」
私の頭は当然ながら混乱していたし、目の前に立つ少女がとにかく恐ろしくて仕方なかった。
化け物だ。こいつは化け物だ。殺される、殺される殺される殺される殺される――。
「リープ」
私はそう、呟いた。
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