06:婚約破棄
「――マレガレット・パーレル。俺と君の婚約破棄を宣言する」
私はその瞬間、呆気に取られて口をパクパクさせることしかできなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メアが入り込んで来てからまもなく、デリックの温もりは私から遠ざかっていった。
けれども当然、婚約者同士である以上は結婚の日が迫って来る。
夫婦にさえなれば、再び彼の心を私に引き戻すことだってできるわ。
だから今はちょっとだけの辛抱。そりゃあ人間だもの、心が揺れる時だってあるだろう。けれどきっと大丈夫。
……そう、思っていたのに。
婚約の破棄だなんて、寝耳に水もいいところだった。
理由は私が嫉妬心によりメアを虐めていたから――らしい。
内容は、彼女を理不尽なことで一方的に責めたり、暴力を振るったり、首を絞めたりという残酷なものばかりだった。
「天の神々に誓ってもいい。私は決して、そんな非道なことはしていないわ。大体、私とメアはほとんどデリックのいない時に会うことなんてなかったじゃない!」
デリックに必死に抗議したけれど、彼の緑の瞳はすっかり凍ってしまっていて私の言葉なんてまるで受け付けてくれなかった。
彼のすぐ隣に立つ白髪の少女――メアがニヤニヤと笑っている。
その時私は気づいた。……ああ、陥れられたんだ、と。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私は、デリックと結ばれる未来を奪われた。
その上、非道な行いに手を染めた悪の令嬢とまで呼ばれ、王城地下の牢獄に閉じ込められることになったのである。
どうして私が、と思った。
だって私は何もしていないのだから。なのに……なのにデリックは。
「私をお嫁さんにしてくれるんじゃ、なかったの……? なんで私を……裏切ったの?」
愛なんか欠片も感じ取れなかった、彼の瞳を思い出す。
もはやデリックは私のことなんて考えてくれていないんだわ。そう思うと悲しくなって、膝に顔を埋めて涙をこぼした。
不幸な人生をやっとのことで抜け出して、幸せへの道のりを歩いていたはずだった。
それをメアという、素性の知れない娘に奪われてしまうだなんて。
その上に私は今日から牢獄生活だ。
懐かしいと言えば懐かしい監禁状態。けれど一度外の世界を知ってしまった私にとって、それは耐え難いもので。
「誰か……。誰か誰か誰か誰かっ!」
叫んだ。
私の声に応える者はない。けれど叫び続けた。
「デリック……! 助けて! 私を出して。私、何もしてないの。だから、だからっ」
「――お邪魔するよ」
突然、私のものではない声がしたので私は驚いた。
そしてそちらを見て、固まる。――そこにいたのは他ならぬメアだった。
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