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05:白髪の少女メア

 私はその日、初めての社交パーティーに臨んでいた。


 今まで屋敷に監禁されたり引き篭もっていたため、外へ出ることはなかった私。

 しかし王太子の婚約者となったわけだから、当然のように社交パーティーには出なければならない。今日は私が、社交界デビューを果たした晴れ舞台なのだ。


「マレガレット、うまいじゃないか」


「まあデリック、嬉しいわ」


 夕食会が終わり、私たちはダンスに入っていた。

 私が慣れないながらも女パートを踊り、デリックは無論のこと男パートで。


 私の髪色と同じ紫色のドレス――これはデリックからの贈り物――を揺らし、私は彼と戯れる。

 しかし、そんな優美な時間は突然破られた。


 一曲、そして二曲目が終わって三曲目に入ろうという時。

 私たち……否、デリックにとある人物が声をかけて来たのである。


「あのあのー、ちょっといいですかぁ?」


 それは灰色のドレスを纏った、背の低い少女だった。

 特徴的な白い髪を頭の上で団子状にまとめ上げており、顔立ちはとても可愛らしい。少なくとも私は彼女とは初対面だ。


「君は?」


「アタシですかぁ? アタシは、うーんとねぇ、メアっていいますぅ。えっとぉ、デリック王太子殿下とその婚約者の方ですよねぇ?」


 甘ったるい声を出しながら、白髪の少女――メアがデリックを上目遣いで見る。

 私はそのすぐ傍にいたがなんだか胸がザワザワしていた。


「私はマレガレット・パーレルだけど……。あなた、何者?」


 どんな身分かは知らないが、そんなに王子にベタベタ擦り寄って行っていいものではないだろう。

 軽く咎めてみたが、すぐさま白髪の少女に睨まれたので私は黙るしかなかった。


「アタシはちょっと大手の商家の娘なんですけどぉ。王太子殿下にダンスを教えてもらいたくってぇ」


 そうねだるメアに、デリックは少し戸惑ったような顔をした。

 「俺の相手はマレガレットなんだ」と言ったが、メアは全く聞く耳を持たない。


「他の人が全然教えてくださらなくってぇ。お願いですぅ、一曲だけですからぁ」


 どうやらメアは社交パーティー二回目で、前回派手に失敗してしまい恥をかいたため、教えてもらいたいとのことだ。

 私はそんな彼女を少し可哀想に思い、デリックと一曲だけ踊らせてあげることにした。


 ……しかしその判断が後の運命を大きく揺るがすこととなる。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 私は別の人と踊るわけでもなく、他の参加者の踊りを見て勉強していた。

 いつか彼らのように華やかな踊りがしたい……などと思いつつ、三曲目が終わったのでデリックたちのところへ戻ってみると。


「あはぁ、楽しいですぅ。もう一曲、もう一曲……」


「はいはいわかったから」


 色っぽい雰囲気を漂わせ、体を密着させ合う二人の姿があった。

 私は驚き、慌てて言った。


「一曲だけという約束だったでしょう」


 デリックは私の存在に気づくと顔を上げる。

 その瞳の色には、いつもと違う――そう、どこか冷たい色が感じられた。


「ああ。すまないが、この子と踊ることにしたよ。また今度な」


「ごめんなさぁい。婚約者の方はぁ、別の方と踊っていらしてねぇ」


 話が違うじゃない! と叫びたくなったが、グッと堪えた。

 もしかしたら、下手くそな私よりメア嬢の方が踊りがうまかったのでもう一曲踊りたくなってしまったのかも知れない。悔しいがここは譲るしかないだろう。

 それにまだもう一曲あるし。


 ――しかし。

 五曲目もデリックとメアで踊ると言い出して、さすがの私も声を荒げた。


「今日は私の社交界デビューなのに、どこの馬の骨とも知れない娘と!」


「嫉妬してるのか。また次があるじゃないか」


 けれど全然聞き入れてもらえなかった。

 私は結局、熱っぽく視線を交わして踊るデリックとメアの姿を見せつけられ続けることになる。

 その日の社交パーティーはそれで終わってしまった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 デリックの気持ちが徐々に離れて行くのを、私はただ黙って見ているしかなかった。

 以前なら当然のように抱き寄せてくれたのに、「もうそんな年頃じゃないだろう」と言ってそっぽを向いてしまう。


 あの次の社交界もメアに独占され、結局私は一曲も踊れなかった。


 どうして? どうしてポッと出のあの子にそんなに親身になるの?


 私は理解できなくて、デリックを問い詰めたこともあった。

 けれど、「可愛いから」「君の方が大事に決まってるじゃないか」といつも流される。


 心の溝ができていく気がして、私は恐ろしかった。

 代わりにメアとデリックの距離が縮まっていくのがわかる。最初は社交界でダンスをする仲だったのに、いつの間にか私とデリックだけの聖域と呼べる場所にまで踏み込んで来た。


 私の築いた幸せが、音を立てて瓦解していった。

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