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49:眠りへ

「死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――!」


 めちゃくちゃに叫びながら魔法を放つ。

 炎がさらに燃え上がり、わけのわからない魔法が合わさり、宙を舞った。


 目の前の男を殺さなければならない。


 赤髪に緑瞳の少年。

 彼と生きたかった。彼を愛したかった。彼と生きる未来がどこかにはあったのかも知れない。


 でも私にはそれが与えられなかったし、もはや戻ることも叶わない。なら、彼は私の邪魔でしかなかった。大体デリックはこの国の王なのだ。彼を殺さずして、どうして世界が滅ぼせようか。


 例えこの身が果てたとしても構わない。彼だけは殺してやる。


「マレガレット!」


「黙れ黙れ黙れ黙れぇ――っ」


 聖剣を再び手にしたデリックは、私の攻撃を次々に跳ね除ける。

 なんと忌々しいことか。あの剣さえなければ私の計画は完璧だった。なのに。


 彼と相対してみれば、メア・ドーランなど可愛げがあったのだとわかる。

 メアをこの世で最も恐ろしい魔女だなんて思ったこともあった。が、違う。本当に強敵だったのはこの男だったのだ。


 なら、なぜ何度もあんなにすぐに死んでしまったの?

 最初からあなたが死なないでくれていれば私は――。


 怒りが、悲しみが、憎悪が、やるせない感情がふつふつと湧き上がってくる。

 それはまた魔法という形になり放出されていく。それでも足りず、次から次へと怒りの爆弾を飛ばした。


「いつもみたいにさっさと死ね! 首が千切れて、潰されて、息絶えてしまえ!」


 いつも死んでいた。

 いつもいつもいつもいつも死んでいた。

 ならもういい。さっさと死んでくれ。これ以上私の前に立つな。邪魔をするな。


 何故私にもっと優しくしてくれない。

 私は幸せを望んでいた。今だってそうだ。世界に幸せがないからこそ、滅ぼして安寧を得たいだけ。

 平和があればいい。どんな形であったとしても私は平和を望んでいるだけ。


「あなたたちがもっと私に優しくしてくれていれば! 私は!」


 普通の女の子でいられたのに。


 私をいじめた父親と継母。

 監禁生活が終わったかと思えばドブネズミと罵られる日々だった。

 それが終わればデリックとの甘く苦い思い出。辛かった。心が壊れなかったのが不思議なくらい、もう死んでしまいたかった。


 普通の家に生まれて、普通に生きて、友達を作って、好きな人と結婚して……。

 そんな人生であればどんなに良かったろう。しかし私はそれがなかった。幸せなどなかった。こんなに辛い思いをして頑張ってきた。

 のに、どうして私の邪魔をする? これ以上もう目の前に立つな。現れるな。苦しませるな悲しませるな。


 爆発した力が世界を呑み込んでいく。

 私一人で滅ぼし切れるのかはわからない。しかしやれるだけやってやる。


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ――」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ダメだった。

 足りなかった。やはり及ばなかった。


 悪魔の力を失った出来損ないの魔女では力が不足しているのは当然だ。

 視界がぐらりと揺れ、私は炎の海に倒れ込む。そうしながらも叫び続け、全て全てを吐き出した。


 頭痛がして何もかもが遠ざかっていく。

 私は一体何をしていたのだっけ。デリック。そうだデリックだ。デリックが、どうして。


「マレガレット、ごめん。――俺は君を殺せない」


 そんな声がした。

 ああそうか。そうだったわ。もう全部終わっていたんだった。

 力を使い果たしたのね。なんて弱いんだろう、私は。


 さようならデリック。

 きっと私は死ねないでしょうけれど、あなたに会うことはもうないだろうから……。


 私の意識は深い闇へと落ちた。

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