48:悪魔の敗北、契約切れ
悪魔が地に落ちた。
私は驚きに目を丸くして動けなくなる。一体何が起こったのか?
しかし答えはすぐにわかった。
悪魔の胸に何かが輝いている。
よく見るとそれは――先ほどまでデリックが手にしていたはずの聖剣だったのである。聖剣が悪魔の胸部に深々と突き立てられていた。
「ぐっ、な、何……っ」
「俺はこの国の王子、いや、父亡き今は王だ。そう簡単にこの国を滅ぼされるわけにはいかない。悪魔、堪忍しろ。お前は聖なる力によって抹殺される」
「馬鹿な……。また封印されるなんてっ!」
私は、地面に横たわる悪魔をどうすることもできない。
悪魔は巨大化していたのがどんどん小さくなっている。もうすぐで人間並の大きさまでに縮みそうだった。
「悪魔、私はどうすればいい。まだあなたの力が必要なんだ」
「無駄だよマレガレット。そいつはもう死ぬんだ。以前は聖魔石というものを使っていたので封じることしかできなかったが、この聖剣の威力は確かだ。その悪魔はまもなく消滅するだろう」
悪魔が、消滅……?
いずれは私がこの手で果たそうとしていた復讐。悪魔が消えること自体には意義はない。しかし今はまだ何も終わっていないのに――。
悪魔が手のひらサイズまで小さくなっていた。胸に刺さっていたはずの聖剣がぽとりと落ち、離れる。
私は今にも死んでしまいそうな悪魔を手に取り、必死に叫んだ。
「まだ逝くな。あなたへの復讐は私が果たす。断じて、今殺されていいものではないだろう! まだ私たちには残された宿命が」
無駄だとわかっているのに彼を呼ぶ私はなんと愚かしいのか。
悪魔が死ぬことは最終的な目的だったはずだ。なのにどうしてそれを悲しく思うのかがわからなかった。
「マレ様。僕は負けたみたいです。契約切れ、ですねぇ……。最後に一つ。マレ様は僕がいずとも立派な魔女になってくださいよ。ハハハ」
何がおかしいのかそんな風に笑って。
――悪魔は私の掌の上で消えた。
契約切れ。
私の胸の底に眠っていた『魔女のカケラ』が音を立てて千切れる。
そして辺りに飛び散り、私と悪魔の契約の終わりを告げた。
こうもあっさりに終わってしまうのか。
私は愕然とする。別れというものはいつも容易く、呆気ない。滅んだ世界で相対し私が殺すはずだった悪魔はもういないのだ。
私は……魔女は一人になった。
愛する者と共に生きる未来はなく、幸せは私自らの手で握りつぶし、そして目的を共にする存在は消失した。
残されたものなど何もない。虚無だった。
「私が何をしたというのだろう」
間違っていたのか。
もしも私が行ってきたこと全てが間違いだったとしたら、そもそも『マレガレット・パーレル』という人間がこの世に生まれたこと自体が間違いだ。
神は一体どんな意志があって私のような者を生み出し、苦しめたかったのだろう。
私にはもう、死という救いすら許されない。
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