46:戻れはしない
「マレガレットは、何度も世界をやり直していたのだろう」
デリックは言った。
「――時魔法の使い手だな」
私はぎくりとなる。
どうしてそれを、とも思ったし、今更何をというのもある。
私から言った時は、「時魔法の力? そんなのあるわけがないだろう」と言って、鼻で笑ったのに。
今から何を言っても遅いというのに。
「君に頼みがある。どうか時間を戻してくれ。今度は、君を裏切らないと誓う。だから――」
「今は、もう時魔法は使えない。悪魔との契約の時に渡してしまった」
くだらない。
そう言おうとしたのだけれど。
「世界を滅ぼすほどの力があるのなら、巨大化した悪魔にも時が戻せるはずだ。……頼む。世界を滅ぼしたところで何になると言うんだ。……この通りだ」
デリックに頭を下げられた。
そのまっすぐさに、私は身動きができなくなった。
今から時を戻すことはできるだろうか?
確かに悪魔には莫大な力がある。それを使えば、元に。
幸せな時間に、戻れるのではないか?
もしもやり直せるのだとしたら。
もしもまた彼と過ごせる未来があるのだとすれば。
「悪魔……」
「――マレ様、騙されちゃいけませんよ。魔女たるあなた様がそんなことを言ってはいけません。その男は嘘つきですよ」
けれども、悪魔はそんな妥協を許さなかった。
「じゃあ、一つやってみればいいですよ。――リープ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
何が起こったのだろう?
光が溢れ、視界がふっと消える。そして……。
「じゃあ、一つやってみればいいですよ。――リープ」
「じゃあ、一つやってみればいいですよ。――リープ」
「じゃあ、一つやってみればいいですよ。――リープ」
「じゃあ、一つやってみればいいですよ。――リープ」
なんだ、これは?
何度も何度も繰り返される悪魔の言葉。
そして目まぐるしく切り替わる視界、そしてまた繰り返し。
「や、やめて」
「じゃあ、一つやってみればいいですよ。――リープ」
「やめろって、言っているだろう……!?」
私は天へ、魔法をぶっ放していた。
その瞬間悪魔の言葉が止まる。何度も繰り返されていた地獄が終わった。
私は遅れて、理解した。
先ほどの繰り返しの意味を。
私は時間遡行をしたのだ。
あの感覚は確かにそうだった。ただし、巻き戻ったのは五秒ほどだけ。それ以上は――幸せな過去には、戻れないのだと。
「僕ができるのはここまでです。マレ様、おわかりになりました?」
希望などない。戻れるなんて甘いことはないのである。
それを思い知らされて私は絶望したのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「戻れはしない、か……」
――ならば、
「私がやるしかないな」
私はやはり魔女だった。
破滅の魔女にしかなれなかった。
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