45:愛の叫び
マレガレット視点に戻ります。
「あなたが、私をずっと好きでいてくれれば良かったの! 私はあなたを愛してたのに、こんなにも愛してるのに! 私を見捨ててメアを選んで! 私をお嫁さんにしてくれるって言ったのに! 言ったのに、いつもいつも死んで! 死んでばっかり! 私がどんなに悲しかったか……苦しかったか、辛くて死にたくなったか、わかってるの!?」
私の怒声が、街中に響く。
ずっと胸の内に秘めていた想い。それが溢れ出し、止まらなくなる。
「……私がすぐに諦めたとでも思ってるの? 大切な物があって、守りたい人がいて。ボロボロになっても頑張って、でも裏切られ続けて。
もう、嫌になった。私なんかが何をしたって無駄。どうせあなたは殺される。私の幸せは奪われる。私はただ、幸せになりたいだけなのに……!」
デリックの表情が、ほんの少しだけこわばったように見えた。
彼は私の繰り返しの日々を知らない。だからこれは、私の身勝手な八つ当たりでしかないのだろうけれど。
「もう、いい! もういいでしょう!? どうせ世界が滅ぶなら私が滅ぼす! あなたを殺すのは私! 私が、あなたをこの手で……この手で殺すの」
私の愛は彼には届かないから。
だから、私は叫ぶ。歪んだ愛と言われてもいい。彼に最期を与えるのは私だ。それが私のデリックへの最後の愛なのだから。
「君は、君は何を言ってるんだ、マレガレット。俺は君を裏切ってなんか」
「裏切ったわよ。何度も何度も何度も何度も! 婚約破棄? 断罪? 何でもいいわ。『これ』のせいで私は何度あなたに裏切られたか」
私が取り出したのは、『魅了の石』。
これを持っていた方が便利なこともあるかも知れないと思い、悪魔にありかを聞いて手に入れておいたものだ。私はそれを憎たらしい思いで見つめる。
「こんな石ころに覆されるくらいの愛なんでしょう? あなたの私への気持ちは。所詮、私はドブネズミよ。哀れみだけで助けてもらったことくらい知ってた。……だからもういいの」
私は、『魅了の石』を握りつぶした。
ガシャンと音を立てて石が割れる。私を苦しめ続けたこの石は、あっさりと砕け散ったのだ。
そして私――魔女は静かに笑った。
「悪魔。頼む」
「わかってますよ、マレ様」
その瞬間、私の肩の上で大人しくしていた黒い鳥の体が膨れ上がった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「マレガレット、これは……」
「私はもうマレガレットではない。マレと、そう呼べ」
私の口調はもうすっかり戻っている。
先ほどは取り乱してしまったが、これが本来の魔女の姿なのだ。
そして私は、天を指した。
「あれは見ての通り、終焉の悪魔だ。今からあれが全てを吹き飛ばし、消し炭にする」
空に広がるのは巨大すぎる黒い翼。
それは巨鳥と化した悪魔だった。気持ちの悪い笑みを浮かべながら彼は言う。
「さあさあ、これから大きくやらかしちゃいますよ〜」
赤く染まった空の下、世界の終焉が始まる……はず、だったのだが。
「――待て」
それを止めたのは、デリックだった。
面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。
ご意見ご感想、お待ちしております!




