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41:心の揺らぎ

 マレガレット視点に戻ります。

 ――メアは死んだ。


 私が殺した。

 デリックの腕の中、抱かれる少女へ向かって火を放つ。


 燃え上がった彼女が最期の時に何を思ったかは知らない。知りたくもない。

 でもできれば屈辱と後悔の中で死んでくれればいいなと思う。けれどそれは私の勝手な自己満足でしかないのだろう。


 とにかく彼女は死んだ。私を何度も不幸のどん底に陥れた彼女を、今度は私が。


「やっと……」


 しかし笑みは出なかった。

 あんなに憎い相手だったのに、殺しても何も気持ち良くはなかった。


 デリックの腕に愛しそうに抱かれる少女。私はそれに嫉妬しただけだったから。


 私も彼の腕の中にいたかった。

 抱いてほしかった。愛してほしかった。


 ……何を今更考えているのか。

 私はどこまで愚かなのだろう。魔女になったというのに、そんな惨めな執着を抱いているのか。


 己を叱責し、前を見る。そこには赤髪の少年がこちらを睨んで立っていた。


「私は魔女、マレ。せっかくの妻を目の前で殺された気持ちはどうだ、負け犬」


 私は声を凍らせて言った。

 彼の緑色の瞳がまっすぐ私を射抜く。そんな目で見ても、私はもうあなたに何も求めない。あなたの前に跪くことなど、二度とないというのに。


「……レット、だろう」


「――? 何をしている?」


 焼け焦げたメアの体を手放し、焼け焦げた両腕を私へ差し出して来た。

 一体、何のつもりなのか。私にはわからなかった。


 そして彼は言ったのだ。


「お前は……君は、マレガレット・パーレルじゃないのか?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 絶句した。

 どうして彼が私の名前など覚えている?


 そもそも、もしマレガレット・パーレルが通常の人生を送っていたとしたら、今は十六歳。

 決して私のような大人の女ではない。髪も短く格好はボロボロで、マレガレットと見抜けるはずがないのだ。


 慌ててはいけない。

 冷静に。冷静の仮面を被れ。決して動じるな。


「私はマレだ。マレガレットとやらが何者かは知らないが、他人の空似だろう」


「いいや、マレガレットだ。嘘を吐かないでくれ。君は、マレガレットなんだろう?」


 デリックの瞳に吸い込まれてしまいそうだった。

 どうして今、私の名前を呼ぶ。もはや私はマレガレットではないのに。


「俺は、ずっと君を探したんだ……! あの時失踪した君を、俺がどれだけ心配したか、わかっているか?」


「知らない。わ、私は、マレガレットなどでは」


 狼狽え、声が震える。

 そんな私の肩の上を悪魔がぐるぐると飛び回った。


「マレ様、早く始末しちまえばどうですかい? 僕、もううずうずしてるんですが」


 そうだ。そうだった。

 今から私は、この男を殺す。メアの時のように火炙りにしてもいいし、水で爆発させてもいいし、風の刀で首を吹き飛ばしても。


 なのに、唇が震えて呪文をまともに声にできない。


「マレガレット、俺は君のことを忘れた時はなかった。何年も何年も君を探して」


 ――やめろ。


「初めて見た時、俺は君に心奪われたんだ。小動物みたいに愛らしくて、弱々しくて……。守ってあげたいとそう思ったんだ」


 ――うるさい。


「メア嬢と婚約させられることになって、こうやって結婚することになっても……俺は諦めきれなかった。またいつかどこかで君に会えるんじゃないかとありもしない想像をして。そうしたら今日、君が城へやって来たんだ。その時思ったよ。……『ああ、マレガレットだ』ってな」


「もう、やめて――!!!」


 私は絶叫した。

 どうして私の心を揺るがそうとする。どうして私に甘い言葉をかけようとする。


 私は怒りのままに、凄まじい魔法を放っていた。

 

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