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40:白髪の少女の最期

 衝撃が来て、全てが吹っ飛ぶ。


 何だろうこれは。赤い。赤くて紅くて朱くて熱い。

 それが炎だと気づいたのは、焼け焦げるような匂いがしたから。そして焼け焦げているのがアタシ自身だと気づいたのは、それからしばらく後のことだった。


「……メア!」


 そんな声がする。どこか遥か遠くから聞こえるみたい。

 あれはデリック様。そう、アタシはデリック様にお姫様抱っこされていた。幸せだなあ。奥さんになったんだもんね。これからいっぱい可愛がってもらわなくちゃ。


 あれ、でもアタシ、焼け焦げてるんだよね。炎に包まれてるんだよね。

 もしかして死ぬの? アタシ、死ぬの……?


 ――嫌だ。

 ――嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 ――死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。


 アタシは幸せになるために頑張ってきた。

 友達――サキの分まで幸せになろうと思って。誰よりも幸福になろうと思って頑張って、辛いことがあっても耐えたのに。


 どうして死ななきゃならないの?

 アタシが、何か悪いことをしたの? 何もしてない。アタシは、ただ。


 暑い。暑くて熱い。まるで熱いお湯を浴びせかけられているみたい。孤児院にいた頃は、よく体罰でそんなのがあったよなぁ。

 孤児院、取り壊しになったんだよね。もう苦しいことはないんだよね。苦しみだと知らなかった苦しみから解放されて、アタシは自由なんだ。


 これからやること、やらなければいけないこと、たくさんある。

 デリック様とのキス、まだしてなかったっけ? さっきした? いいやあれは轟音と衝撃によって邪魔されたんだったっけ。

 邪魔したのは……あの女。あの女は魔女。アタシに嫉妬してやって来たんだ。アタシが幸せすぎるから。そうだよね、アタシは世界で一番幸福な女。


 ねぇ魔女さん、羨ましい? ざまぁ見ろ。


 悪魔もいた。

 あれはお父様が言ってた、封印されし悪魔。悪魔がアタシの結婚式をめちゃくちゃにしたんだ。許さない。後でしばいて縛り上げて、地獄の苦しみを味わせてやる。

 アタシは王妃なんだから、それくらいできる。やってみせる。


 それにしても熱いな。熱いし暑すぎる。

 まさかこのまま死なないよね? だってアタシ、世界で一番、一番……。


 生まれてから今までの思い出がぐるぐると頭の中で回る。

 孤児院に生きて、メアって名前をつけてもらって、逃げ出して、サキが死んで。

 ドーラン家に引き取られて、デリック様と出会って、それでそれでそれでそれでそれで――。


 それで、炎に焼き尽くされている。

 美しい顔が、白い髪が、ウェイディングドレスが、玉の肌が。


 なんで?

 なんでアタシが。なんでこのアタシが。アタシは王妃になった。他の女どもを蹴散らして、デリック様を手に入れた。


 なのに、なのに。



「終わりだ、メア・ドーラン。――地獄の中で死ね、悪女め」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 女の声がした。

 嬉しそうで、こちらを嘲笑うような醜くて汚らわしいドブネズミの声。


 それを聞いた瞬間、アタシの胸の中で怒りが爆発した。


 ……絶対にぶっ殺してやる。


 それがメア・ドーラン――アタシの最期だった。

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